ふと、聖は考えることがある。
自分は撫子のことが好きで、撫子のために尽くしたいと思っている。
撫子には笑ってもらいたい。嬉しいと感じてほしい。
幸せになって欲しい。
(……けど、そう思うのは本当に撫子さんのためなのかしら……)
もしかしたら、自分のためなのかもしれないと思うことがある。
撫子は散々人の心を踏みにじってきた自分を許し、受け入れてくれた。撫子には単純に好きという感情以外にも様々な想いを抱いている。
恩を感じているのは間違いなく、その恩を返したいと思っているのも事実だ。
だから撫子に幸せになってもらいたいというのは自分の都合のような気がしてならない。
(まぁ、そんなこと言ったらキリがないんでしょうけど)
相手が好きで、その相手が幸せになることで自分が嬉しいと感じる。それが誰のためからなんて本来は関係ない。お互いが想いあっていて、それで互いが幸せを得るのなら動機などどうでもいい。
(……はず、なんだけどなぁ)
「……ふ……」
聖はベッドの上でそんなことを考えながら、ため息とも笑いともいえない声をもらした。
(余計なことを考えちゃうのは……)
聖はベッドから体を起こすと、机に向かっていく。
「……私が余計なことを考えてるからなのかしら」
そうつぶやいてから、机の上にある一枚の紙を手に取る。
それは便箋と呼ばれるもの。ただしそれはほとんどが白紙で今はまだその役目を果たしていない。
そこに書くべき内容を聖は自分の中に持ってはいるが、それを形にすることができておらず、その書きかけの手紙には、断片的な言葉が書かれているだけだった。
「……自分のためなのかしら? 撫子さんのためなのかしら」
聖はまたそれを口にしてからイスに座ると、その撫子へ宛てようとしている手紙に向き合う。
「………………」
無言で、ペンを走らせ、
「……違う、か」
時折、一人ごとをつぶやいては書いた文字を塗りつぶし、また想いを綴っていく。
そのまま十分、二十分と時間がたち
カラン
ペンを置いた。
「……うまくいかないわね」
今日も書くことができなかった手紙を見つめ聖は苦渋の表情を浮かべる。
そして
ごめんなさい
と書かれた一文を指でなぞり
「ふ……」
自分を蔑むように笑うのだった。