「はぁ………」

 ため息が出ちゃう。

 みどりちゃんがお泊りに来てから、初めての学校の日。お昼休み私はまた教室で居場所を失って中庭をとぼとぼと歩いてた。

(………私って、ひどいな)

 それで、こんなことを思ってる。

 本当にひどいって思う。

 誰にも言えないけど、このことを知ったら誰だってひどいって思う。

 だって、私は【知ってる】のに………

 思い出すと落ち込んじゃうってわかってるのに私は、またその時のことを思いださずにはいられなかった。

 

 

 思い出すのは思い出すけど、この時の記憶もあいまい。まるで、葉月ちゃんと藍里ちゃんのキスを見た時みたいに、頭の中の全部が吹き飛んじゃうほどの衝撃だったから。

「………………」

 みどりちゃんが藍里ちゃんを好きっていうのはもちろん、驚いてでもその次に頭の中をよぎったのは、私の世界を変えたあの光景だった。

 みどりちゃんが好きって言った藍里ちゃんが、キスをしているところ。

「なでしこちゃん〜?」

「あっ……えっ! あ………」

 何も言えなくなってた私の顔をみどりちゃんが覗き込んでたかと思うと

「……やっぱり、変、かなぁ?」

 って、いつのまにか抱いていたぬいぐるみを抱えてすごく心細そうな顔をしてた。

「う、ううん! ちょ、ちょっとびっくりしちゃったけど、そんなこと全然」

「そう? よかったぁ」

 一転して花の咲いたような笑顔。

(……みどりちゃんの笑顔ってやっぱり素敵)

 って、こんなこと思ってる場合じゃないよ。

「あのねぇ、撫子ちゃんに聞いてもらって、どうってわけじゃないんだけどぉ。でもね、撫子ちゃんに聞いてもらいたかったんだぁ」

「そう、なんだ」

「うん〜。えへへ、やっぱり安心するな。一人だど、変なことばっかり考えちゃってたから〜」

「う、うん。悩み事って一人じゃ、だめ、だよね」

 それは、よくわかる。一人ってやっぱりだめだもん。私も少し前までは、世界で一人ぼっちだって思ってて、でも、聖ちゃんのおかげでそうじゃないってわかったらすごく楽になれたから。

「応援してとかじゃなくてぇ。ただねぇ、たまにでいいからぁお話し聞いてもらいたいのぉ。そしたら、あたし頑張れそうだからー」

「う、ううん。そんなことないよ。応援、するね」

 私も多分混乱してて、こんなことを言っちゃった。

 

 

 あの後も、遅くまでみどりちゃんとはお話ししたけど、その時のことになるとほんとにほとんど覚えてない。

 軽い気持ちっていうか、何にも考えないでふと口から出てきた、応援っていう言葉。

 私が言っちゃいけなかった言葉。

 だって、私は知ってるんだもん。

 藍里ちゃんのことを。みどりちゃんの知らない、藍里ちゃんのことを。

 でも、

 足を止めた私は舗装された地面を何気なく見つめる。

(………言えるわけ、ないよね)

 藍里ちゃんが葉月ちゃんと恋人同士だなんて。

 私は、それを知ってて、もう二人のことそういう風にしか見れてない。一つ一つの言動がお互いを気遣ってるし、想いを感じる。それがわかるの。

 ……みどりちゃんはそれがきっと見えてない。

 そういう意味じゃ、聖ちゃんが言ってたようにみどりちゃんは私よりも、というよりも何も知らない世界に生きてるんだと思う。ちょっと前の私と同じように、こんな世界があるんだっていうことすら知らないで、あんなことを言ったんだって思う。

(……どうしたら、いいのかな?)

 葉月ちゃんとのことを言ったら絶対に、傷つけちゃうけど。私が言わなくても、いつ知っちゃうかわかんない。

 みどりちゃんが悲しむことだけは簡単に想像できちゃう。それに、もしみどりちゃんお想いが叶ったってそれは、葉月ちゃんが傷ついちゃうっていうこと。

 だから、ほんとは応援なんて言っちゃいけないことだったのに……

(……みどりちゃんの好きは、そういう好きなんだよね)

 ……そういうのってわかんない。

 私がみどりちゃんに思う好きとは全然違うっていうのはわかるし、付き合いたいとかそういう好きだっていうのはわかるけど、わかんない。

 そういう好きってわかんない。

 葉月ちゃんと藍里ちゃんのことを始め、いろんなところでそういうのや、そういう人たちを見ても、変とか、おかしいとかは思わないけど、わかんない。

(……みどりちゃんもキス、したいって思ったりするのかな……?)

 それは私にはわからないこと、思ったことのないこと。

(きっと……したいって、思ってるんだよね)

 そういう雰囲気はわかるようになっちゃったから。

(…………みどりちゃんが遠く感じちゃう)

 聖ちゃんと話す前は、私が勝手に思ってるだけだったけど、今は……ほんとに遠い。小学校からずっと一緒だったみどりちゃんが私の手の届かないところにいる。

「……うぅ……」

 私、嫌な子だ。

 みどりちゃんのことを考えなきゃいけないはずなのに、また【独り】になっちゃったことが怖く感じてる。

 こういうお話しをできそうって言ったら聖ちゃんくらいだけど……今は、お話しできない。自分の中でも整理がついてないし、みどりちゃんのことを話せずにどう相談していいのかわからない。

(でも、このままでも……)

 みどりちゃんのためになるようなこと何にもできない気がする。

(なら……いっそ…………)

 どういう形でもいいから、お話ししてみようかなって思えてきた矢先。

「あ………」

 ふと、顔をあげた先に私はある人のことを見つける。

「……黒峰、さん」

 それは、私と同じものを感じさせる人だった。

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