私よりちょっと背の低い身長。藍里ちゃんほどじゃないけど長い髪。私もちょっと変わった感じに三つ編みをしてるけど、黒峰さんも変わったように三つ編みをしてる。左右から後頭部のほうに三つ編みを伸ばして、それを白い髪留めで止めて、あとは私と同じように後ろに髪をたらしてる。ちょっとカールかかかってたりするけど、よく考えたら私が前に三つ編みがあるだけでほとんど一緒かも。

 なんて、話したこともないのにまたずうずうしく思っちゃう。

 そんな黒峰さんは前に私とぶつかったのとほとんど同じ場所で、私が二回キスを見た場所をじっと見ている。

(………………)

 そういえば、黒峰さんはどうしたんだろう。

 そのことを思いだした。前に黒峰さんにぶつかられた時には、ちょっとだけお話ししてみようかなって思ってたけど聖ちゃんとお話ししたせいでほとんど忘れてた。

 でも、また一人になって、今目の前に黒峰さんがいて……

(……話して、みようかな?)

 ふと、そんなことを思った。

 黒峰さんがほんとにクラスメイトのキスを見ていたのかはっきりしないし、話してどうなるってことじゃないけど……お話ししたい、かも。

 一人じゃなくなれる気がする、から。

 それにもしかしたら、黒峰さんなりのそういうものとの付き合い方を知れて今が少しでも解決するかもしれないし。

 最後のはほとんど期待してないことだったけどとにかく私は黒峰さんに近づいていくと

「こ、こんにちは」

 そうありきたりに声をかけてみた。

「……………」

 でも、黒峰さんは厳しい目をしたまま前だけを見てて挨拶を返してくれることもなかった。

(あ、あれ? 聞こえなかった、のかな?)

「あの、こんにちは!」

 そんなことはないって思いながらも私はもう一回今度はさっきよりも大きな声で言ってみた。

「………………何?」

「っ!?」

 すると、黒峰さんは機嫌悪そうに短く答えて私のほうを向いてくれたけど、それがちょっと怖くて思わずビクってなった。

(……うぅ、怖い)

 近くにこないとわからなかったけど、ツリ目な上になんだかすごく機嫌が悪そうでもう話したことを後悔しちゃうくらい迫力があった。

「なんか用なの?」

 でも、綺麗っていうか怒ってるのはわかるんだけど、耳に印象的な響きを感じさせる声。「あ、え、え、っと……」

 ただ黒峰さんがこんな風に機嫌が悪いのと、そもそも何を話そうかっていうのをちゃんと決めてなかった私は言葉に詰まっちゃう。

(し、しっかりしなきゃ)

 こういうところよく藍里ちゃんに怒られたりしてるし。

「用がないなら……」

「く、黒峰さんは、こんなところでな、何してるの?」

「は? なんであんたにそんなこと聞かれるの? っていうか、誰?」

「え?」

 し、知らないんだ……

(ちょっと、ショックかも)

 同じクラスになったことはないけど、三年間ずっと一緒だったんだし、名前くらいは知っててくれてもいいのに。

 それに、こっちが知ってるのに向こうが知らないってなんだかちょっと情けない気分になっちゃう。

「と、隣のクラスの、白雪、撫子」

「あっそ。で、なんでその白雪さんにここにいちゃダメだなんていわれなきゃいけないわけ?」

「だ、駄目なんて言って」

「ん……? あんた……もしかして」

 それまで私に興味なさそうにしてた黒峰さんだけど、急に何かを思い出したように私のことをじろじろと見てきた。

「あ、あの?」

「……あんた、もしかしてこの前ぶつかった人?」

「あ、う、うん!」

 覚えてもらっていたっていうのがわかった私はちょっと嬉しくなって大きくうなづいた。

「そう。あの時は悪かったわね」

「う、ううん。そんなこと、ないよ」

「そ」

 と、それで黒峰さんの中じゃ会話が終わっちゃったのか私から目をそらしてまたさっきと同じ方向を見始めた。

 もしかしてって思って私もその方向を見てみると、そこには何もない。

(けど、ここにいるっていうことは………)

 あのキスのことを考えてるから、だよね。そうじゃなきゃ、ここにいる理由がないもん。

「あの、黒峰さん」

「なに。もう謝ったでしょ」

「そう、じゃなくて。あの、ぶつかってきたとき、だけど……」

「だから、それがなによ」

 一層、黒峰さんの声と顔が厳しくなった。

 怖いとは思うけど……このままじゃ勇気を出して話しかけた意味がないもん。

「あ、の、キスを見たから、走ってたの?」

「は!?」

(こ、怖い)

 話しかけた時から怒ってたような感じだったけど、今ははっきり怒ってるってわかる。私に向き直って睨むその瞳は私が今まで体験したことないくらいに怖いものだった。

「……何? あんたもそういうやつなの? だったら、話しかけないで! あんたらみたいなやつらとは絶対仲良くできないから」

 厳しい言葉。普通だったらこんなこと言われたら、怒ったりするかもしれないし、少なくてもこれ以上話していたいとは思わないと思う。でも、私は普通じゃないし、なにより黒峰さんのこの態度がどこから来るのかわかるような気がするから。

「ち、違うよ」

「どうだか」

「ほ、ほんとだよ。私も……同じ、だから」

「……何が同じだっていうのよ。悪いけど、意味わかんない」

「わ、私も、ね……見ちゃった、こと、あるから」

「………っ!」

「お友達が……キス、してるところ」

 本当なら、誰にも話せないって思ってたこと。話しちゃいけないって思ってたこと。でも、黒峰さんに、なら……

「……そ、う」

 この時初めて黒峰さんは私への警戒を緩めてくれた。誰も寄せ付けようとしない見えない壁が少しだけ薄くなったようなそんな感じ。

「それで、私も、ね……この前の黒峰さんみたいに走って逃げちゃったから。だから、その……少しは、黒峰さんの気持ちわかる気がして……」

(あ……)

 言っちゃってからしまったって思った。

 そんなわけないって、また怒らせちゃうんじゃないかって。

 けど、黒峰さんの反応は私の予想外のものだった。

「…………それ、本当?」

 心なしか上ずった声の黒峰さん。

「う、うん。だ、だから、黒峰、さんとお話ししたいなって前から、思ってて……あ、ず、図々しいよね。こんなのいきなり」

「……別に、んなことないよ」

(?)

 あれ? なんだか……少し様子が変な気がする。話しかけた時には、すっごい怖かったのに今は全然そんな感じはしなくて。そわそわしてるような気がする。

「……………」

(あ、な、何か、言わなきゃ)

 お話ししたいって思ったんだし。今だって黒峰さんに直接そう言っちゃったんだし、でもでも、そういえば、どんなお話ししようかなと決めてないや。

 みどりちゃんのことを相談は、できるわけないし。キスとかのことは……ちょっと話してみたいけど、うまく話せる気がしないし、それにいくら同じ体験をしたからっていきなりそんなことを話すのは違う気がするし。かといって、共通の話題とか全然思いつかない。今まではなしたこと、ないんだもん。

「……ねぇ、あんた、これから時間ある?」

 これから、ってもうすぐお昼休みだって終わるけど?

「よかったら、一緒にどっかいかない?」

「…………え?」

 それが言葉通りに【これから】って意味だなんて気づかないで私はただ首をかしげるだけだった。

2-1/2-3

ノベル/私の世界TOP