「………」
「………」
「………………」
「………………」
お部屋の中に、二人。
私と、みどりちゃんの二人。
「………………」
「………………」
二人でベッドに座って、みどりちゃんは前に私に作ってくれたぬいぐるみを抱きながらうつむいてて、私はそんなみどりちゃんを見つめている。
「……………」
どんなふうに声をかけていいのかわからなくてただ見つめることしかできない。
(……見たの、かな?)
そんな風に考えたりもするけど、私はみどりちゃんに何も聞けてなかった。
みどりちゃんとはまだお話ししてない。家の前じゃ、みどりちゃんが抱き着いてきて、泣きじゃくるだけで何も聞けなかった。
それから少しだけ落ち着いたみどりちゃんをお部屋の中に連れてきた。
(……見たんだよね)
それから何にも話せてないけどみどりちゃんに起こったことは想像できた。
きっと、藍里ちゃんと葉月ちゃんがしてる、ところ見たんだ。
キス、してるところを。
「……………」
どんなふうに声をかけたらいいんだろ。
いつかはこんな日が来るって思ってたけど、わかってたけど。
どんなことを言えばみどりちゃんのためになるのか、全然考え付かない。
(けど……)
みどりちゃんは私のところに来てくれたんだ。私を頼って、ここまで来てくれたんだ。
私が……私が、頑張らなきゃ。
「みどり、ちゃん」
私は勇気を出してみどりちゃんに声をかけて、みどりちゃんの側に座りなおした。
「撫子、ちゃん……」
それから、みどりちゃんの手をとってぎゅっと、握った。
まず私がいるってわかってもらいたかったから。みどりちゃんの側にいるって。受け止めてあげるって、言葉にしないけど、そんな気持ちを込めた。
「……ありがと〜撫子ちゃん……」
みどりちゃんはそれがわかってくれたみたいで、涙目だけど少しだけ笑顔になってくれた。
『……………』
それからまた、ちょっとだけ沈黙して
「……あのね」
みどりちゃんが話始めた。
「藍里ちゃんと、葉月ちゃんが仲いいって……私も……わかったのぉ」
「……うん」
それは誰だってわかるって思う。誰の目から見ても藍里ちゃんと葉月ちゃんは仲いいって思うもん。
私もキスを見るまではそういう風にお互いを好きなんだって気づけなかったけど、でもそういうことも関係なく二人には特別なものがあるって誰だってわかる。
まして、私やみどりちゃんは二人のお友達なんだから。
「でも、ね……えへへ………」
みどりちゃんの乾いた笑い。どうしようもなくなっちゃってこんな風に笑っちゃってるんだってわかるけど、みどりちゃんのこんな姿初めて見る。
「…あは……あ……、学校で、ねぇ……」
みどりちゃんの目がじんわりと滲んできた。多分、その時を思い出しちゃったから。
その瞬間を。
「……ちゅう、してたんだぁ………」
どうしようもなくてそんな風に笑うみどりちゃんが痛くて……自分のことじゃないのに、自分のことみたいに痛くて、もう一回みどりちゃんを握る手に力を込めた。
「わたしぃ……わけわかんなくなっちゃってぇ……逃げちゃってた。……それで、気づいたら撫子ちゃんのお家の前にいたのぉ。……えへへ、ごめん、ね……迷惑、だよね……いきなり、こんなことしてぇ」
「ううん、そんなことないよ」
「撫子ちゃんって……優しいなぁ……ふふ」
「このくらい当たり前だよ。それに」
この時私も混乱してた。
みどりちゃんの世界が変わったこと。それと、そんな日が来るってわかってても、心の準備も全然できてなかったから。
それに、私は安心してもらいたいって思ったの。
迷惑だなんて全然思ってないって安心してもらいたかっただけなの。
「私も、みどりちゃんの気持ち、わかるもん」
「っ………?」
私はこの時みどりちゃんのことを見てなかった。もし、一目でもみてたらこんなこと言わなかったかもしれないのに。
「私もね、同じだったの」
「おな、じ?」
「うん。私もわけわからなくなって逃げちゃってた。私は、誰にも話せなかったけど、でも……言っちゃいけないとも思ったけど、でも……心細かったから、わかるんだ。みどりちゃんの気持ち。だから、迷惑だなんてそんなことない……っ!?」
そんなことないよって言おうとしてた私はみどりちゃんの変わった空気にビクっとして言葉を止めた。
「知ってた、の?」
目を見開いて、乾いた声のみどり、ちゃん。
「え? あ!?」
せめてこの時に気づいておけばよかったのに、私のこの反応がみどりちゃんの疑念を確信に変えた。
「……藍里ちゃんと葉月ちゃんのこと、知ってたんだぁ………」
「あ、あの、みど、………」
「知ってて、黙ってたんだぁ」
「っ、みどりちゃ……」
そこで何を言っちゃったのか、みどりちゃんがどんなことを思ったのかようやく理解した。
「あは……あはは……」
「みどりちゃん! あの、違うの! 私は……」
「………ふふ……えへへ……あはは……」
必死な声を出しながらも何も意味のあることが言えない私にみどりちゃんは笑う。
ただ、笑って。
「ひどいなぁ……撫子ちゃん〜」
「ひぅっ…」
身をすくませるような声を出した。
「みどり……ちゃ……あの、私、そんな……あっ」
ずっと握ってたみどりちゃんの手を振り払われる。
「みどりちゃん!」
私は焦ってて、どうすればいいかわからなくて、でもみどりちゃんのこと放っておけなくて、放したくなくて、また手を
バチン。
伸ばして、弾かれた。
「………………」
そのままみどりちゃんはベッドから降りて
「みどりちゃん!」
私は状況も雰囲気もわからずに声をかけるしかできなくて
「ひっく……嫌い…………撫子ちゃんなんか、大っ嫌い!」
そう叫んで部屋を飛び出していったみどりちゃんを追いかけることもできなかった。