「ふーん、なるほど」

 みどりちゃんとお話をした次の日。

 私はお昼休みに奏ちゃんに会いに来ていた。教室には行ったけど奏ちゃんにつれられるまま中庭に来てお話をしていた。

「要約すると、私との約束を破るってことよね?」

「ふぇ!?」

 全部を話したわけじゃないけど、ちゃんと謝れて、それでみどりちゃんに【デート】に誘われたことを伝えると(デートって言われたのはもちろん言わなかったけど)奏ちゃんはちょっとむっとしたようにそう言ってきた。

 そう、みどりちゃんに【デート】に誘われた日。その日は実は奏ちゃんとお出かけの約束をしてた日でもあるの。

 そのことを忘れてたわけじゃないけど、私はあの時みどりちゃんにうなづいちゃってた。

 ちゃんとみどりちゃんと仲直りする。そのほうが奏ちゃんに応えることな気がしたから。

 でも、そんなのは私の勝手な考えで……

「ご、ごめんね」

 一方的に約束を破られて嫌じゃない人なんていない。私はまた勝手な思い込みでお友達のことを傷つけちゃ……

「っぷ。なんて顔してんのよ」

 傷つけちゃったって思ってた私を奏ちゃんは笑い飛ばした。

「ほぇ?」

「冗談に決まってるじゃない」

「怒って、ないの?」

「こんなので怒るわけないでしょ」

「よ、よかったぁ」

 私は安堵の息を吐く。

「何よ、よかったって。まさかあんたはほんとに私が怒ってるって思ってたの?」

「そ、そういうわけじゃないけど……」

 奏ちゃん、ちょっと怒りっぽい気もするから。

「……なんか、失礼なこと考えてない?」

「っ! そ、そんなことないよ!」

「…………まぁ、いいわ」

 明らかに疑ってる目をされちゃったけど、奏ちゃんは抑えてくれたみたい。

「あ、でも撫子が約束を破るっていうのは、その通りなのよね」

 かと思えば、急に目を細めて私に鋭い視線を向けてくる。

「う……」

「何か埋め合わせもらわないと、割に合わないわよね」

「え、えと、私にできることなら、頑張るよ」

 ちょっと怖いけど、悪いことしたのは私だもん。

「そうね。頑張ってもらおうかしら」

 うぅ、何させられちゃうんだろ。奏ちゃんってちょっと厳しいところがあるから。少し怖かったり……

「絶対仲直りすること。それで許してあげる」

 不敵かつちょっと意地悪な顔をしてた奏ちゃんの表情が一気に崩れた。

「え?」

それは私にはすごく意外なことだったけど、

「私との約束を破るんだから、そのくらいしてきなさいよ」

 奏ちゃんの素直じゃない優しさが伝わってきて

「うん」

 私は大きくうなづいていた。

 そうやって奏ちゃんの想いも背負って私は、その日を迎えていった。

 

 

 【デート】の待ち合わせ場所は駅前。

 駅前って言えば普通いろんなお店があったり、待ち合わせるための場所があったりするものだって思うけど、ここには何にもない。

 コンビニも、待ち合わせになるようなシンボルも。あるのはバス停と、その近くに設置されているベンチくらい。

 駅だって小さな駅舎に切符の発券機は二台だけ。改札も自動改札ですらない。

 普段から田舎だってわかってるけどこういうところを思うと余計にそう思っちゃう。

 そんな私は歩いて向かっている。

 普段のお休みより早起きをして、一人で出かけるよりもおしゃれな服を着て待ち合わせ場所に歩いて向かって行ってた。

(……でも、どうして【デート】なんて言ったんだろう)

 デートっていうのは普通好きな人とするもの。

 みどりちゃんのことは大好きだけど、デートをする仲じゃない。

 実はみどりちゃんとはあの謝った日から一度もお話ししてない。デートの約束をした後みどりちゃんがそうしてって言ってきたから。

 本当はもっといっぱいお話ししたいって思ったけど、今日のことがあるし、みどりちゃんがそうして欲しいならって我慢してた。

(お話ししてくれるといいけど……)

 今日のことをデートって言ってきたのもそうだけど、みどりちゃんが私のことを許してくれたのか、どう思ってるのかはわからないまま。

 そういうところも含めてちゃんとお話しできたらって思う。

 それで絶対に仲直りする。

 それは、奏ちゃんとの約束でもあるけど、何よりも私がみどりちゃんを大好きだから。

 朝起きた時からこんなことばっかりを考えて私は、たまにしか車の通らない道を歩いて行った。

 私のお家から歩いて十五分くらいのその道は考え事をしてるとすぐについちゃう距離で。

「あ………」

 目的地の駅までもうすぐのところで、もうみどりちゃんが駅前にいるのを見つけて私は早足になった。

「お、おはようみどりちゃん。ご、ごめんね。待たせちゃった?」

 そんなことはなかったって思う。だって、私は三十分近く前につく予定だったんだから。でも、みどりちゃんはもう来てて。

 時間を間違えちゃったのかなって不安になる私にみどりちゃんは

「ううん〜。私が早く来てただけなのー」

 って笑顔で答えた。

 それは、こうなる前のみどりちゃんの笑顔で私はそんな顔をしてくれるなんて思ってもなかったから一瞬ぽかんってなった。

「もう、切符買って置いたからー、いこぉ?」

「う、うん」

 みどりちゃんがどんな顔するのかほとんど考えられてなかったけど、こんなみどりちゃんは全然想像もしてなくて私は呆然となりながら先に改札を通って行ったみどりちゃんを追いかけて行った。

 そして、デートが始まる。

 みどりちゃんが【望んだデート】が。

 

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