十一月にもなると一気に寒さが増して、朝起きるのもつらくて登校も億劫になっちゃうことがある。
「おはよう」
でも、今年の私はそんなことはないの。
いつも通りの時間にお家を出た私は、通学路の途中にある小さなお寺の前でみどりちゃんと待ち合わせ。
「おはようー、撫子ちゃん」
「おはよう、みどりちゃん。いこ」
「うん〜」
そうして、すぐに二人で歩き出す。
「寒くなってきたね」
「うん〜。もう十一月だもんねー」
いろんなところで色んな人がする、普通の会話。今はそれができることが嬉しい。たった一週間くらいだけどそれを失っちゃったことがあるから、改めてみどりちゃんとこうして一緒にいられるのが嬉しいって思う。
そんな幸せを感じながら私たちは学校に向けて歩いていくと
「おはよ、撫子、みどり」
ちょうと道が合流する場所で葉月ちゃんが挨拶をしてきた。
「あー……おはよ」
そして、葉月ちゃんと一緒にいるのはもちろん藍里ちゃん。
もともと朝は強い方じゃない藍里ちゃんは寒くなってくると余計にそれが顕著になってくる。もうマフラーをしながら眠そうな挨拶。
「おはよう、葉月ちゃん、藍里ちゃん」
私はそれになれちゃってるっていうのもあって、普段と同じようにそう返した。
「おはよう〜。藍里ちゃん〜、葉月ちゃん〜」
それと、みどりちゃんも。
私に告白してくれる前と同じように、仲のいい友だちとして。
「あー……さむ、だる。帰りたい」
そのまま四人で歩き出すけど、藍里ちゃんがこれからはほとんど毎日いうであろうことを口にする。
もう二年それになれちゃった私たちは特に気にすることもなく歩いていく。
「ぅー、葉月……飴」
「まったく朝っぱらから、はい」
あきれたようにしながらも当然のようにバッグから飴を取り出して藍里ちゃんに渡す葉月ちゃん。お菓子を持ってくるのって本当は校則違反だけど、なんだかもう慣れちゃってそれを突っ込む気にもなれない。
「んー……あと二つ」
「えー、一個ずつにしなよ」
「いいから」
「はいはい」
仲のいい二人の会話。少し前ならこういう時間は痛くてたまらなかった。でも、
「はい、二人とも」
藍里ちゃんが私とみどりちゃんに飴を渡してくる藍里ちゃん。
「あ、ありがと」
「ありがとー、藍里ちゃん」
今は痛くなんかない。みどりちゃんの気持ちをしっかりと受け止めたから。
そのことを改めて嬉しく感じて二人で藍里ちゃんに感謝を伝えた。
「あのーお二人さん? それ、もともとあたしのなんだけどなぁ」
って、困ったように葉月ちゃんが言ってくるいつもどおりが何だかいつもより嬉しくて
「あはは」
私たちは四人で笑いあった。
「だーれだ?」
「ふぇ!?」
みどりちゃんと仲直りをしてから一週間が経とうとしていたお昼休み。
図書室で本を探してた私は、いきなり後ろから抱きしめられた。
首元を囲うふにふにと柔らかい腕と、頬をくすぐる髪からは甘い香り。それは私の知っているもので
「ひ、聖ちゃん」
私は抱き着いてきた相手の名前を呼んだ。
「ふふ、正解」
名前を当てると聖ちゃんは両手を後ろで組んで、くるりと私の正面へと回ってきた。
(聖ちゃんってこういうところ女の子っぽくて可愛いなぁ)
聖ちゃんのほうが背の高くて、胸も大きくて、脚も長くて、綺麗だけど、こうやって可愛いって思うことがいっぱいある。
「な、何か用?」
「ん〜ん、別に。ただ、ちょっと撫子さんとお話ししたいなって思っただけよ」
「そ、そうなの?」
「えぇ、撫子さん元気になったみたいだし」
「あ………」
「心配してたのよ。みどりさんと喧嘩するなんて思ってなかったから」
「し、知ってたの?」
「撫子さんのことだもの。それくらい見てるわ」
「っ〜〜」
って、いつも見てるって言われたみたいでちょっとほっぺが赤くなっちゃったけど、先週のことを思えば当然かも。だって、私はいつもみどりちゃんといっしょにいたのに先週は全然いなかったもん。
「でも、ほんとに元気になってよかったわ。撫子さんが元気ないと私も悲しいもの」
「あ、ありがとう」
うぅ、どうして聖ちゃんってこういうことがさらっと言えるんだろう。言われるだけでも恥ずかしいのに、言ってる聖ちゃんは当たり前みたいな顔をしてる。
けど、聖ちゃんってこんな風に気を使ってくれるのもすごいなって思う。
ちゃんと私が元気なかったっていうのをわかってくれて、でも無理にはそのことに触れなくて、こうして仲直りした後はよかったって言ってくれる。
私は今まで同じ学年で大人っぽいって思ったり、尊敬してるっていうのは藍里ちゃんのことが多かったけど今はそういうことを聞かれたら聖ちゃんって言えるくらいに聖ちゃんのことをすごいって思ってる。
「ん? どうかしたの? 撫子さん」
「ふぁ!?」
ちょっと聖ちゃんを見つめてぼーっとしちゃってた私に聖ちゃんが迫ってきて私は思わず赤面しちゃう。
それは、いつのまにか私がなれてきちゃったことで
「ふふふ、撫子さんってば可愛い」
私は日常に戻ってきたんだなぁって思うのだった。