奏ちゃんとのお出かけの待ち合わせ場所は、この前のみどりちゃんとのデートと同じ場所。

 でも今日は電車でお出かけじゃなくて、バスを使う。

 向かうのは数年前にできた郊外にある大きなモールとデパート。

 昔、っていうか小学生のころは遊びにいくっていったらこの前みどりちゃんと一緒に行った駅だけど、最近はバスでこっちのほうにも行けるようになって、お出かけする場所の幅が広がってる。

 それで、みどりちゃんとの時と同じように待ち合わせの時間よりも早く、待ち合わせの駅に着くと

「あ、おはよう。奏ちゃん」

 ちょうど奏ちゃんも反対側からきたところだった。

 ブラウンのニットにカーディガンにプリーツスカート。ちょっと大人っぽくて意外な格好だけど、可愛い。

「おはよ、早いんじゃない? 撫子のことだから寝坊でもしてくるかと思った」

「っ、そ、そんなことしないよ」

 うぅ、いきなり意地悪なこと言われちゃった。そりゃ、たまにはそういうこともあるけど約束はちゃんと守るよ。。

「っていうか、奏ちゃんも早いよ。待ち合わせまであるよ」

「べ、別に、たまたま早く起きただけよ」

「あぅ……ご、ごめん」

 あ、反射的に謝っちゃったけどまた奏ちゃんに怒られちゃうかも。こうやってすぐ謝ったりすると奏ちゃんは謝るなって怒ってくるってもうわかってるけど、奏ちゃんが顔を赤くしてちょっと厳しい感じだったから思わずごめんって言っちゃった。

「だから、謝ってるんじゃないわよ」

「う、うん」

「まったく、撫子は……」

 奏ちゃんはあきれたように言うとバスの時刻表を確認する。

「まぁいいや、一つ早いの乗れるっぽいしそれでいこ」

「うん」

 そうして、私たちは今日のこれからのことや週が明けてからの学校のことなんかを話しあってから、やってきたバスに乗り込んだ。

 あんまり慣れないバスに二人で並んで座って、お母さんの車に乗る時とは違う高い場所から見る道路を眺めたり、周りに迷惑にならないように小さい声でまたおしゃべりをする。

「あ、そうだ。奏ちゃん」

「ん? なによ」

「奏ちゃんってよくこのバス使うの? 私って遊びに行くときってほとんど電車だからあんまりこっち来たことないんだぁ」

 他愛のない質問。何にも意味も意図もなくて、ただの好奇心だったんだけど。

「……まぁ、それなりにね。最近はあんまり来てないけど」

 奏ちゃんはちょっと複雑そうな顔をしてた。

「そうなんだ」

 でも、この時はその意味を知ることもなく、バスは目的地へと走っていった。

 奏ちゃんが初めに誘ってきたのは、デパートの中にある小物屋さんだった。

 ちょっと意外だったけど、そういえば奏ちゃんのお部屋はこういうものが多かったのを思い出す。

 こういうの好きなのって聞くと、奏ちゃんは最初はちょっと怒ったように「そ、そんなわけないでしょ!」って言って来て、でも、すぐに恥ずかしそうに「わ、悪い?」なんて言ってきた。

 私もこういうのは大好きだから、それを伝えると今度は反対に興味なさそうに「あっそ」なんて言われたけど、照れ隠しなんだっていうのはもうわかる。

(別に女の子なんだから、こういうのは好きでも当たり前だと思うけどな)

 本気でそう思うけどそういうのを口にするとまた怒られちゃいそうだから、やめておいた。

(照れ隠しに怒る奏ちゃんも可愛いけど)

 これはもちろん口になんか出せない。絶対に怒られちゃうもん。

 なんて初めから楽しい時間を過ごした私たちは、次に服でも見ようかなってその小物屋さんを後にしようとして

 ポス。

(?)

 少し前を歩いてた奏ちゃんが急に立ち止って軽くぶつかちゃった。

「奏ちゃん?」

「……………」

 どうしたのかなって思って声をかけても奏ちゃんは返事をくれなくて、私は横に並んで奏ちゃんの顔を覗き込んだ。

(??)

 閉じることも忘れちゃったように口を半開きにして、固まった表情で何かを見てる? 正面を見て……?

(あ…………)

 何かなって思って私も同じ方向を見ると、その理由が、わかった。

(伊藤、さん)

 そこにいたのは伊藤静夏さん。私とは別のクラスで、奏ちゃんと同じクラスの人。

 あの時、奏ちゃんの世界が変わったときに……あそこにいた人。キスを、してた、人。つまり、奏ちゃんの親友………だった、人。

 それも、一人でじゃなくて、もう一人また違うクラスの人。話したことはないけど、どんな人かすぐにわかる。

 あの人がきっと、伊藤さんの……恋人、さん。

 だって、そうじゃなきゃ奏ちゃんはここまで驚かないって思うから。

(っ……こっち、見てる)

 私も奏ちゃんと同じで、でも違う意味で伊藤さんのことを見ていたら伊藤さんもこっちに気づいて奏ちゃんと同じような顔でこっちを見てた。

(ど、どうしよう)

 奏ちゃんがどんなことを考えながら二人を見てるのか、伊藤さんが私たちをみて何を思っているか想像もできない私は奏ちゃんと伊藤さんをあたふたと見るくらいしかできないでいた。

「ふぁ!?」

 そんな私の手に柔らかい感触。

「わ、とと……」

 そして、歩き出した奏ちゃんにつながれた手を引っ張られて私たちは伊藤さんから逃げるようにその場を去って行った。

 

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