(あ、れ………?)
半開きのドアから見えたその光景を私はまるで別世界のように感じた。
聖ちゃんは、いた。
いた、けど。一人じゃなくて、いつもみたいに他の女の子と一緒で、しかも。
「どういうことですか!?」
そこにあるのは尋常じゃない空気だった。
「っ」
聖ちゃんと一緒にいた下級生の子が大きな声を出してて私はビクって震えちゃって、それ以上ドアを開けずに半開きのまま、中を覗く。
この時はまだ、何が起きてるのかわからなくて私はなんだろうって眺めるだけ。
「そのまんまの意味。もう終わりにしたほうがいいっていっただけ」
「なんでですかいきなり! 理由を聞かせてください」
「別に、理由なんてたいそうなものはないわ。ただ、これ以上は無駄なんじゃないかっていいたいだけ」
「っ……」
「気づかなかったわけじゃないでしょ? 貴女とは遊びだって」
(なんの、お話?)
私は今二人の間で交わされてる会話が全然理解できない。
漫画、とかドラマとかで見たことがあるような気もするけど、わからない。
頭が考えようとしてくれない。
「わかったらさっさと出て行ってくれないかしら?」
ただ、何も考えられない頭に聖ちゃんの声が冷たく響く。
それは聖ちゃんの本当の気持ちのように聞こえて……体が震えちゃってる。
「……私が望む間は、私のこと好きでいてくれるって。そう、言ってくれたじゃないですか」
「確かに言ったわね。でも、もう時間切れ。っていうよりも無駄。貴女が何を期待してたのか知らないけど、私が貴女に本気になることなんてない。それを望むような相手には付き合ってられない」
「……っ!!」
「はっきり言って鬱陶しいの」
「……ひどい、ひどいっ、です」
「…………」
「こんな人だなんて、思わなかった」
「っ!!!」
聖ちゃんがビクって震えた。それはどんな感情から来るものなのか見えないけど、聖ちゃんの中で何かが激しく渦巻いたのがわかる気がした。
「約束してくれたくせに……こんな人だって知ってたなら……初めか……!!」
今度は、下級生の子が震えた。
ううん、私も。
聖ちゃんから本当に冷気でも漂って来てるんじゃって思うほどに冷たく、厳しく痛い空気が見えた。
それに
「ねぇ…………」
(……っ!?)
世界を凍らせるようなそんな冷たく、圧倒的な声。
「……うるさいんだけど」
その声は私はこれまでに聞いたどんな言葉よりも怖くて、痛くて、鋭くて、憎しみに満ちているようなそんな恐ろしい声で。
しかも
『っ』
相手の子にキスをして、私はついに現実感を失う。
(え? え?………え?)
何にも考えらない。
嘘。
聖ちゃんがキスしてる。
うそ。
私のことを好きなはずの聖ちゃんが。
……………うそ。
聖ちゃんを好きな私じゃなくて。
嘘!
私の知らない人に。
それも多分無理やり。相手の気持ちを踏みにじるようなキス。
パァン!
「っ」
その大きな音に私は我に帰って、二人を見ると聖ちゃんが平手打ちをされていた。
「さようなら!」
怒気に満ちたその言葉を残して、相手の子は
(こっち、に)
来るってわかったのに私はまだ今のことが受けいられなくて
「っ。どいて」
いつもまにか目の前に来てた女の子ににらまれながらそう言われてやっとその場所を動くことができた。
パタンってドアが閉まる音と、かけていく音。その二つを聞きながら私は、もう一度ドアに手をかけた。
何がそうさせたのかはわからないの。
またさっきのことは受け入れられないし、何があったのかって考えたくもない私がいるの。
でも、けど。
だから、こそ………聖ちゃんとお話がしたくて私は中に入っていった。