「…………」
撫子の帰った部屋の中で私は、撫子がいた時と同じ場所で撫子がいた場所を何気なしに見つめていた。
(元気ないなぁ)
他人事のようにそれを思う。
さっきからその元気ない心当たりを探してるけど、うまく見つからない。
撫子と話してからなんだから、原因は撫子にあるんだろうけどあの会話の中でどこにそれがあったのかはわからない。
(まぁ、ほんとびっくりはした、けど)
撫子にいきなりあんな話をされるなんてまったく思わなかった。あのぽやぽやとして、いろんなことに疎そうな撫子がいきなり好きな人ができたって言ってきたに等しい。
そりゃあ、驚きもする。
(ほんと、あの撫子がねぇ)
たまに妙に押しが強いこともあるけど、基本的にはいつもおどおどしてるし、そういうのに積極的に興味あるようにも見えない。
のに、相談なんかしてきた。
多分、撫子の中でもう答えが決まってるから。したいことも決まっていて、それで背中を押してもらいたかったんだ。
その相手に選ばれたことは、嬉しい。
相談相手に選んでもらって、嬉しい。
それは本音だけど。
(なんか、もやもやするな)
「ふぅ……」
まだ置きっぱなしの撫子に出した食器を見つめて私はため息をついた。
「……はぁ」
片づけなきゃと思ってそれを手元に持ってくるとまたため息。
(にしても、なんで私だったんだろう?)
確かに私は撫子を親友と思っているし、撫子も信頼はしてくれるんだとは思う。
けど、一番の友だちとは言えないはず。撫子の一番の友だちはきっと日比野さん。
なのにわざわざ私に話してくれたっていうのは
(もしかして、そういうこと?)
それなら一応説明がつく気がする。
それに、そう思えば少しだけ心が楽になる気もした。
相手が日比野さんなら仕方ないとそう思える気が……
(? 何が仕方ないの?)
ここに勝手に浮かんできた言葉に自分で疑問を覚える。
「……………」
わからない。わからないけど、
「仕方、ないよ……」
私は今度は自分に言い聞かせるようにそうつぶやいて撫子がここにいた痕跡を片づけ始めた。
もう夕暮れは迫ってたけど、私は学校に向かって歩いてた。
奏ちゃんのお家から帰ろうとすると、近くを通るからっていうのもあるけどもしかしたら、聖ちゃんがいるかなって思ってちょっと様子を見に行きたかった。
まだ部活動はやってる時間だし、下校時間までは少しだけある。聖ちゃんは遅くまで残ってることが多いから。
明日になれば自然と会えるんだから急ぐ必要はないけど、お話がしたいって思うの。
そ、その……まだ好きっていうかはわからないけどでも、お話がしたい。今ままで違う気持ちでそうできる気がするから。
(聖ちゃん、いるかな?)
学校につくと私はある場所を目指して歩きはじめる。
時間も時間だし、探し回るつもりはないの。ただ、聖ちゃんがいるとしたらあの場所かなって思って勝手に思ってそこに向かう。
(私……聖ちゃんが好きなんだ)
歩いて数分くらいの中改めて私は聖ちゃんのことを思う。
なんだか信じられない気分。
聖ちゃんを好きなんだって思ってからなんだか心がふわふわして、うまくは言えないけど理由もわからないのに楽しくて、嬉しいって思うの。
私が聖ちゃんを好きで、聖ちゃんが私のことを好きって知ってるからそうなのかもしれない。
それってすごく幸せなことだって思うから。
世界にはいろんな人が、いっぱいいて、この学校だって何百人っていう人がいる。
その中で一人の人を好きになって、その人が自分のことを好きになってくれるなんて、すごいことだって思う。
運命の赤い糸だなんていうけど、本当にそうじゃなんじゃないかって思うくらいにすごくて、嬉しい。
やっぱり私なんか聖ちゃんにふさわしいとは思えないし、聖ちゃんに釣り合えるような人間でもないってわかってる。
けど、聖ちゃんはそれでも私を好きって言ってくれてる。
それはとっても嬉しい。
だから、応えたいって思うの。私なんかを好きになってくれた聖ちゃんに精いっぱい応えたい。
正直、私は聖ちゃんのどこかどんな風に好きか聞かれると、よくわからない。
聖ちゃんのいいところはいっぱい言える。
綺麗だし、かっこいいし、大人っぽいし、優しいし、いつも相談に乗ってくれたし、私からみたら全部が素敵。
今があるのも聖ちゃんのおかげだし、本当に、……す、好きだって思う。
ちゃんと自覚してからまだ一時間も経ってないし、どこが好きかもわからないくせにって自分でも思うけど、でも、好きって思う。
好きって思うようになってからは余計に好きって思う。
(なんだか、楽しいかも)
こういうのが恋なのかな。
「ふふ」
あ、思わず笑っちゃった。
なんて考えてるとすぐに目指してたところ、聖ちゃんがいることが多い第二音楽室の前まで来た。
鍵空いてるかなって思ってノブに手をかけると
カチャって簡単に開いて
私は、もしかしたらっていう期待を膨らませてドアを開けた。
聖ちゃんがここによくいる理由を考えることもなく、ここで聖ちゃんを見る時いつも誰かと一緒だったっていうのも忘れて。