「ぅ、……うぅ……うぁ……あひぐ」
黄昏を迎える部屋の中に少女の嗚咽が響く。
絨毯に膝をつき体を抱え、涙をこぼす。
「ひぐ、ひっく……ぁ、ぁ……ぅっく」
音楽室で泣き続ける少女、聖は心の痛みに音を上げていた。
自分に泣く資格がないことなんてわかっている。
どれだけ最低なことをしたのか聖はそれを知っている。
それでも泣いてしまうことがやめられない。
自分がいかにひどいことを言ったのか、したのかわかっているからこそ、止められなかった。
「ふ、ふふ、ふ……」
そんな自分を嗤ってしまう。
(撫子さん……)
撫子の絶望的な顔。裏切られたという表情。信じたくないという様子。
それが手に取るようにわかる。
どれだけ撫子を傷つけ、心を引き裂いたのか聖はその痛みを想像できる。
(貴女が、悪い、のよ……)
聖は言い聞かせるように心でつぶやく。
自分は確かに悪い。言い訳のしようもない。
しかし、聖にとって撫子はそれだけのことをした相手だ。例え自覚をするのが不可能なことだとしても、聖に過去を意識させたというその一点のみでも復讐をするには十分な理由だった。
(そう、悪いのは……撫子さん、撫子さんなのよ)
繰り返しそれを思う。
そう思わなければ自分を肯定できない。自分のしたことに心を押しつぶしてしまう。
だからさっきだって止められなかった。
撫子が悪いと声に出すことで少しでも自分の中にある罪悪感を軽くしたかった。
悪いのは自分じゃない。
想像力を働かせなかった、勝手に自分の理想を押し付けてきた撫子が悪いと思わなければ自分のしたことに堪えられなくなってしまっていた。
(悪くない……悪くない……私は……)
自分を抱える手に力がこもる。
(わるく、なんて………)
そんなことはないと誰よりも知っている聖は最後には自分に言い聞かせることすらできず、涙を流し続けた。