「あら、雨がふってきちゃいましたね」

 昼休み、先輩に会いに保健室に来てると先輩が窓の外を見つめて呟いた。

 朝から曇天が続いていた空からはポツン、ポツンと雫が落ちてきてすぐにザーっと校庭を真っ黒にしていった。

「そうですね」

 私は特に気にすることでもないので机の前に座ったままお弁当のデザートのリンゴを食べている。

 でも先輩はんーっと首をかしげながら空を見上げている。

「困りましたねー」

「何がですか? お姉さま」

「いえ、傘持ってきてないのでどうしようかなと」

「天気予報で午後から雨だっていってましたよ」

「むぅ、チェックしてなかったですね」

 先輩は困った様子で腕を組みながらやっと窓際を離れた。私のところに来ると勝手にリンゴを一切れ取る。

「あっ、勝手に取らないでください。もう、せっかく傘かしてあげようかと思ったのに」

「え? そんなフラグが立つようなことしてくれるんですか?」

「……フラグ?」

 よくわからない単語が先輩の口から飛び出てきた。

「いえ、こっちの話です。うん、確かに私のほうが攻略キャラって感じですよね。保健室登校……あまりないシチュエーションかもしれませんが、保健室ってところが色々便利な場所ですよね」

「あの、せんぱ、お姉さま?」

 何先輩は一人でよくわからないこと言ってるんだろう。

「あ、いえいえ気になさらずに。でも、いいんですか? 遠野さんの傘がなくなっちゃいますよ」

「いえ、私は……」

「あ、もしかして【私は走っていくから気にしないで】っていってくれて、残された私は【遠野さん……】と小さく呟いてさらに想いを昂ぶらせるところですか。うん、これもありがちですけどいいシーンですよね」

「あの、先輩?」

「あ、そして私が追いかけていくと雨に濡れた遠野さんが、かっこつけなければよかったととぼとぼ歩いてのを目撃して結局一緒の傘で帰ることになり二人の関係はそれをきっかけに……しかも遠野さんの濡れた制服姿が見れて私は幸福この上なしのステキイベントですね」

 ……ゲームか、漫画の話してるのかな。

 まったくたまにこんなよくわからないこと言い出すけど現実とそういうものの区別はして欲しい。

 私は呆れたような視線を先輩に向けると先輩もそれに気付いたみたいで

「……予想以上に引かれちゃってますね。すみません」

 少しは反省してくれたみたい。

「でも、本当にいいんですか? はっ、さては一つしかないから貸してあげるけど遠野さんの家まで相々傘をしましょうってことですか? 私はもちろんそれでかまいませんよ。お互いの息遣いが感じられる位置で、そっと触れる指先……いつしか手を繋ぐように傘をもって……」

 さっきので少しは反省したと思ったのに全然そんなことはないみたいで先輩はまた自分の世界に入っていく

「ご心配なく! 私はいつも折りたたみ傘もありますから」

「あ、それは残念」

「ふぅ……」

 やっぱり先輩の相手って疲れる。

 私はため息をつきながら最後の残っていたリンゴを食べて

「でもいつか、一緒しましょうね」

 小さく呟いた先輩のその言葉に気付くことはなかった。

 

四話

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