「彩音、私明日デートだから」 「…………は?」 宵のふち、お風呂から上がってきたあたしに美咲はいきなり理解不能なことを言ってきた。 「は? え? ……はー……ん?」 言葉の意味が飲み込めないあたしはふらふらとベッドに上がってポツンと心細く座った。 美咲はそんなあたしを見つめて、妙に楽しそう笑っている。 「……………」 えーと……えーと? 美咲が、えーと…… お風呂上りのせいで頭がうまく働かない。そう、これはお風呂でちょっと上せちゃったるだけで…えと……え? 「ふふ、ふふふ。っぷ」 あたしがあくまでの上せているせいで何も言えないでいると美咲が笑いをこらえきれないといった様子でベッドに上がってきた。 「あははは」 そんでもってあたしの頭をぽんぽんと叩きながら大笑いし始めた。 「美咲……?」 「どーん」 「っ!?」 そして、次には美咲に押し倒された。 「あ、あの、美咲?」 部屋に戻ってきてから、思考が迷いの森をさまよったままのあたしは美咲が何を思っているのかまったくわからない。 あたしに覆いかぶさる美咲は、さっきと同じように楽しそうな顔をしている。ううん、さっきとは微妙に違って楽しそうっていうよりも、嬉しそう、なのかな? 「心配しなくても彩音の思ってるようなことじゃないわよ」 「え?」 「彩音じゃないんだから私が浮気なんてするわけないでしょ。そらちゃんとよ、そらちゃん」 「えっと……あ、あぁ! そ、そうなんだ」 美咲に謎の答えをもらったあたしは迂闊にも大きな声を出して、安心したような態度をしてしまう。 迂闊っていうことはないんだろうけど、この反応はたぶん美咲がしてもらいたかった反応だからやっぱり迂闊だったよ。 「ふふ、うれし。ちゃんと彩音が嫉妬してくれて」 「は、はぁ。べ、別にそんなもんしてないって」 「あら? どうして?」 「どうしてって……」 いや、別にほんとに嫉妬なんてしてないってほんのちょっとだけびっくりしただけで美咲があたしのこと裏切るわけないっていうか……あたしは美咲を信じてるし、じゃなくて……そんなこと美咲に言えるわけないし…… 「ま、いいわ。私は嬉しかったから」 「か、勝手に思っとけば。つか、もうどいてよ」 「ふふ、はいはい」 美咲が嬉しそうなままあたしの上からどくと、そのままベッドから降りずにあたしのそばに座る。 その嬉しそうなのが逆にあたしは面白くないけど、それを表に出すと美咲を喜ばせるだけなんで何でもないふりをした。 「でも、なんでまたそらちゃんとデートしたりすんの?」 「そらちゃんもうすぐ帰るらしいのよ。それで、私とどこかに行きたいんだって。ほんと可愛いわ。彩音なんかと違って素直だし」 「…………」 どうせあたしは素直じゃないよ。 「ゆめも?」 「いかないって」 「ふーん。そうなんだ……」 実はそらちゃんとゆめは今、喧嘩っていうかちょーっとだけ仲が悪くなってる。喧嘩っていっちゃうと悪いイメージだけど、なんというかもっとかわいい感じのやつ。 簡単に言うとゆめがそらちゃんとあたしであたしのことを優先しちゃうことが多くて、そらちゃんがそれに嫉妬したりしてるってわけ。 その様子は可愛くてあたしとしてもたまらないけど、ゆめはゆめでもうちょっと気を遣えって気がしないでもない。 まぁ、美咲をそらちゃんに取られちゃってることを思えば、ゆめにまで冷たくされたらそれはそれであたしがきついけど。 そんなこんなでそらちゃんはますます美咲になついちゃってた。 それこそ、デートするくらいに。 「ま、いいや。せいぜい楽しませてあげなよ。思い出つくってあげなきゃ」 「それはもちろん。そらちゃんのことは好きだもの」 その後もどこに行くとか、何するとかデートの詳細を聞いたりして時間は過ぎていった。 あたしは寝るのに暗くした部屋の中で、デートのことであえて美咲に気かなかったことを考えてみる。 (あのそらちゃんからの誘いって……) そらちゃんはほとんど自己主張しない。お菓子作ってくれたりはしてくれたけど、美咲と話してても美咲がほとんど話しててそらちゃんは照れたように頷いたりがほとんどだった。 (それって……) 美咲はなんだか軽い感じであしたのデートをするみたいだけど、そらちゃんは本気っていったらいいのかわかんないけど、本当に美咲と最後に楽しい思い出を作りたいって思ってんじゃないかな。 なら、美咲はどうすんだろ? しばらくそれについて考えてみたけど、 (……まぁ、でも結局は子供なんだしね) 結局はそこに考えを落ち着かせてあたしは眠りについた。