はじめはちょっとした好奇心だった。
「ゆーめ」
美咲とそらちゃんのデートの日、朝起きて御飯を食べている間にちょっと抜け出したあたしはゆめに電話をかけていた。
「……むー?」
まだベッドにでもいるのかゆめは寝ぼけた声を返してくる。
「今日、デートしない?」
「……むぃ? デート?」
「そ。デート」
「……うん。……行く」
「おけ、そんじゃ……」
あたしはまだ寝ぼけてそうなゆめにデートの詳細を伝えていく。正直ちゃんと理解してるのか怪しいけどあんま長く朝食の席を離れても美咲に怪しまれるので手っ取り早く済ませた。
「じゃ、絶対遅れないでよ」
「……う、ん……」
最後まで反応が鈍かったゆめに念押しをするとあたしは電話を切った。
「ったく、大丈夫かな」
時間に遅れられたら元も子もないんだから。
こんな感じで強引にゆめをデートに誘ったけど、このデートであたしは自分では気づかなかったことに気づくことになる。
どこの県にも一つはありそうな何の変哲もない遊園地。デートの定番といえば定番だけど、そらちゃんがこんなところに誘うっていうのはちょっと意外かも。
「……彩音」
「んー?」
そらちゃんならもっと静かなところでデートするかと思ったけど。
「……彩音」
「むー?」
まぁ、でも小学生くらいならこういうとこは誰でも好きなもんかな。
「……彩音!」
「っ!」
物陰に隠れて、時計台のそばにあるベンチに据わる美咲とそらちゃんを見つめるあたしをゆめは服ごと引っ張った。
「なにすんの」
「……何、してるの?」
あたしに引きづられるままにあたしと同じことをしているゆめはさっきからあたしがほとんどゆめのことを見もしないのに不機嫌なご様子だった。
つか、何してるのかって言われるとちょっと困る。平たく言えばストーカーしてるんだけど、それを言葉にするのも何か嫌。
「ほら、興味ない?」
「……何が?」
「美咲とそらちゃんがどんなデートするか」
あたしとしてはデートっていうか、美咲があたしの見てないとこじゃどんな風に人と話したり、遊んだりしてるかって興味ある。美咲とはずーっと一緒に、別々に遊ぶことすらほとんどなかったから一回見てみたいって思ってたんだよね。
ちょっと悪趣味かもだけど、こういう気持ちってたぶん誰にでもあるよ、ね?
「……私とのデートは?」
「こうして二人で遊びにきてんじゃん」
「……さっきから美咲とそらのことしか見てない。こんなのデートじゃない」
「う……」
正論といえば、正論。美咲たちが乗り物乗ったりするときだって、ばれないように外から眺めてただけだもん。
ゆめは無表情の中に不機嫌さを満載させてあたしをにらむようにしてきた。
まぁ、デートって誘ったのにずっと美咲を追い回してたら面白いわけないか。
「ま、まぁ帰りになんか奢るから」
あたしとしてはここでゆめの機嫌を損ねて帰られたりは困る。この年で、いや年は関係ないだろうけど遊園地に一人でなんかいられるかっての。
「……そうやって、もので釣るのはよくない」
またも正論。
今まで結構あたしはゆめを怒らせるとこういう対処をしてたし、かなり耳にいたい。ゆめだって今まではパフェでも奢るって言えば大体許してくれたのに。
えーと、どうしよ。なんとかゆめを引き止めなきゃ……後で何か埋め合わせするっていってもやっぱりモノで釣ってることになるし……
「……でも、今日は付き合ってあげる」
と、頭を悩ませていたところにゆめが救いの手を差し伸べてくれた。
「あんがと。だからゆめって好き」
怒ったりしてもあたしのこと見捨てたりしないもんねー。
「……でも、奢ってはもらう」
「……そういうのはよくないじゃなかったの?」
「……もらえるものはもらう」
「……りょーかい」
どうにか了承を取れたあたしは初志を貫徹するために美咲とそらちゃんの観察を再開するのだった。
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