「あぁ、起きてたのか」

 制服姿の千秋さんはトレイを持っていて私を見るとそう言いながらこっちへ向かってきた。

(聞こえて、ない、よね?)

 いつ部屋に来たのかわからないけど、そんなに大きな声をだしてないはず、だし。少しくらい衣切れの音がしたくらい部屋の外にまで響かない、はず。

「あの、どうして、ここに?」

 近づいてきた千秋さんにもっともな質問をする。

 さっき時計を確認した時はお昼になるくらいだったからまだ学校のはずなのに。

「……お昼を、届けにきたんだ」

 千秋さんはそう言って私の前にトレイを差し出した。

 そこには雑炊が食欲を誘う匂いを発している。

「寮母さんに頼んで、持ってくのだけさせてもらった」

「そう、なんだ。ありがとう」

「……………違うな。ごめん、そうじゃない。鈴と話しがしたかったんだよ。……二人きりで。この時間でもないとできなさそうだったから」

「……うん」

 千秋さんはバツの悪そうに言いながらトレイをベッド脇に置くとイスに座りながらベッドに横になる私を見つめた。

「……………………」

 それからまた少し沈黙があって、私は黙って千秋さんのことを見つめる。

(何を、話しに来たの?)

 昨日の事には決まってるんだろうけど、それがどういう意味なのかが重要。

(蘭先輩みたいなことにはならないわよね?)

 だって、千秋さんは私のお友達、なんだから。

(でも……昨日は……)

「鈴」

 私が答えを出せずに悩んでいると千秋さんは意を決したように口を開いた。

「は、はい」

 千秋さんの表情。見るからに苦しそうで悩んでいることは明白で、でも何に悩んでいるかはわからない。

「………昨日は、本当にごめん」

 口から出たのは蘭先輩と同じ言葉。

 ただ、重さは全然違う気がした。

 あの時点での蘭先輩が本気じゃなかったとは思ってないけど、千秋さんの謝罪は本当に心の底から謝っているようなそんな真剣さが伝わってきた。

「まさか、鈴に見られるなんて思わなくて……それに…………………」

「…………」

 千秋さんは言葉を続けずに目を謝ってくれた気がする。

 守ってあげられなくて、ごめん。

 そう言ってもらえたような気がする。

 そんなのは私の勝手な思い込みかもしれないけどそんな気がして、少しだけ嬉しくなる。

 千秋さんはやっぱり私の思った、私の好きになった千秋さんだから。

「許してなんて言えない、か。けど、謝らせてほしい。本当に……本当に、ごめん」

 か弱く見える千秋さん。まだ会って一週間だけど、こんな顔をする人には見えなかった。

 その姿がとてもつらくて

「……謝らないで。千秋さんが悪いんじゃ、ないでしょう」

 考えなしにそう言っちゃってた。ううん、それは私の本心ではあったけど。

「……………おねえさ……蘭先輩のことを悪く言うのもやめて欲しい」

「っ……」

 予想外のような想定内のような複雑な言葉を千秋さんはひねり出して私も黙らざるを得ない。

「ごめん、こんなんじゃなんの謝罪にもならないよね」

 自分を馬鹿にするような笑いをこぼす千秋さん。

「あの……」

 何を言うべきなんだろう。

 わからないことが多すぎて私には言うことが思いつけない。

「千秋さん……その……」

 何を言おう、千秋さんは何を言って欲しいの? 千秋さん、どうしてそんなに苦しそうにしているの? 

 千秋さんに何を言うのが正解なのかはわからない、けど

「………千秋さんの私の友達、だよ」

 千秋さんに一番伝えたいことを口にしていた。

「っ鈴」

 千秋さんのびっくりした顔。当たり前なのかな? 私の方がおかしいのかな?

「……すごく、怖かった、けど……でも、私は千秋さんのこと嫌いになったりなんかしてないよ。だって、千秋さんはこの学校での初めての友達、だから」

「鈴………」

 おかしい、かもしれない。あんなことされて、友達なんて普通じゃないかもしれない。でも、やっぱり千秋さんは私にとって特別な人だから。

 日本に戻ってきて初めての友だちだから。

 それに千秋さんはきっと……昨日、本気じゃなかったって思う、から。

「…ごめ……ありがとう」

 やっと謝罪以外の言葉を述べてくれた千秋さんを見ながら私は千秋さんをこんな風にした人のことを思った。

 

2−3/2−5

ノベルTOP/R-TOP