瑞奈さんから聞いたことは好きな人の事。

 それ以上のことも知っているような感じではあるけれど話す気はないみたい。

 私はそのことを口にする前に彼女から先に言われた。

 これ以上は自分で聞け、と。

 ついでに余計なこともいわれてしまったけれど

 それが好きな人に対する向き合い方よ。

 と、本当に余計なはずの一言。それでもやっぱりその言葉が耳を離れず結局蘭先輩のベッドを借りて眠りについた。

 彼女がここで何を考えているのかとそんなことを思いながらの睡眠は浅く、明け方には目が覚めてしまった。

 外はまだ薄暗く、どこか不気味にも感じる光が窓から漏れている。

 私は音をたてないように気を付けながら部屋を出て目的もなく廊下を歩く。

 頭は働かず何をすることもなく窓辺で外を眺めている。

(そういえば、あれはどういう意味だったの?)

 ふと、瑞奈さんに言われたことを思い出す。

 蘭先輩の好きな人のこと以外に一つ気になることを言われた。

 鈴ちゃんになら蘭のこと少しはわかってあげられるのかな。

 リップサービスのようなものにも思えるけれど、あの時の瑞奈さんは冗談ではなく意味のある言葉としてそれを言っていた気がする。

(私にならってどういう意味?)

 瑞奈さんにはないものを私が持っている? 蘭先輩のことに関してそんなことがあるとは思えない。

 蘭先輩のことで私が知っていて、瑞奈さんのことを知らないことなんてないはず。

 好きな人のことだって瑞奈さんに教わったんだから。

(知識でないとしたら、何か別の理由?)

 意味もなく瑞奈さんが言ったのではないとしたら考えられるのは、何か共通項を持っているとか?

(私と蘭先輩に共通してるもの?)

 ぱっとは思いつかない。だって、私とあの人では違いすぎるから。容姿も性格も何もかも違いすぎるから、私と蘭先輩に共通する何か………

(……そうだ)

 それが関係あるのかわからないけど、一つだけ

「鈴ちゃん?」

「っ!?」

 私の中である可能性を思いついていると背後から名前を呼ばれた。

「蘭、先輩……」

「よく会うわね。こんな時間に」

 夜明け前の独特の暗さを綺麗な金の髪を持つ、人形のような女の子がこちらに向かって歩いてくる。

 それはどこか現実感を喪失させるようなそんな光景。

「何してるの?」

 まるで妖精のように思える相手から現実感を取り戻す言葉。

「……いえ、特には。蘭先輩こそこんな時間に何をしているんですか?」

「私はちょっと眠れなかっただけよ」

 それは誰かと一緒にいたということではなくて、一人でいたことを想像させる言葉。

 あの部屋に一人でいたんだと思う。

 根拠はないけど確信のようにそれを思って、その後にはその光景を頭に浮かべなぜか切なくなる。

 一人でいる理由……それは

「……寮母さんのことを考えていたんですか」

 好きな人を思う時なんじゃないの?

「…………」

 蘭先輩はあまり動揺を見せなかった。驚いていないはずはないのに。

「瑞奈に聞いた?」

 感情のない声が恐ろしげに響く。

「はい」

 碧眼は私を値踏みするようにでも見据え、すぐに切なげに顔をそらした。

「………ふふふ……そういえば一つ思い出したことがあるわ」

「? 何を、ですか?」

「私、貴女が嫌いなの」

「?? なに言って………っ!?」

 目に見えて怒ったわけではない。でも、逆鱗に触れていることだけはこの寒気が教えてくれる。

 しかも

(嫌い?)

 この人からそんなことを言われることが意外で私は放心したまま彼女を見返す。

「もっとも前に嫌いだったのは嫉妬っていうか自分でも八つ当たりだってわかってたけど、今回はね」

 ナイフの先端を突き付けられたような気分。普段感情を露わにすることのない蘭先輩の心が私を容赦なく襲ってくる。

「あの人に何か話したら、絶対に許さないから」

 このまま話していたら直接的な危険すら感じる中蘭先輩はそれを言うと私の横を通り過ぎていく。

「っ……は、あ……」

 わずかな時間ではあったけど確かな恐怖を感じていた私は張りつめていた空気を掃出し、振り返ってもう見えなくなった蘭先輩の影を追う。

 結局私の知りたいことはほとんどわからなかった。けれど寮母さんへの気持ちが本物だということだけは理解するのだった。

7−4/7−6

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