千秋さんと話していて思ったのは、千秋さんに協力してもらってあのノートを覗くということ。

 けれど、それは安易な気持ちでしていいことには思えなくて今はまだ踏み切れなかった。

 だからその日は千秋さんと一緒に帰った後は普通の、生活を送った。

 色々特殊になってしまった私だけれど、この学院の生徒であり、一寮生でもある。だから大抵のことは周りの子たちと一緒にこなすし、当番や係りなんていうものに縛られたりもする。

 この日私は食堂の片づけの手伝いをする日で、そこには寮生だけでなく当然監督する責任者がいる。

 みんなが去った食堂に食器を片づける子や、テーブルを拭く子、床の掃除をする子なんかがいて私は淡々とこなしながらも寮母さんのことを目で追う。

 こうしたところに顔を出しているのは今までも見かけていた。でも、あんまり印象には残っていなかった。

 なんといえばいいのだろうか、地味という言い方は失礼にあたるのだろうけれど、そんな印象。作業が問題ないように指示はする。それも的確に。けれど、そう言った最低限のことしかせず、雑談を含めて余計なことはしない。

(距離を、取っている?)

 そうとも見えた。こんな年頃の女の子ばかりがいる場所ではある程度は積極的に接するほうが都合いいはず。なのに、まるでそう言ったことをせずたとえ少しサボっているような人がいても黙々と自分の作業をこなしている。

(……何かあると思ってみているからかもしれないけれど)

 人は見たいように相手を見る。だからもしかしたら私の思い込みに過ぎないのかもしれないけれど

「……?」

 一瞬寮母さんの表情に変化が起きた。ずっと無表情に作業をこなしていたのに。何かあったのかと、周りを見渡すと

(あ……)

 原因と思われるものは意外に早く見つけられた。

 食堂の出口から見える廊下を……あの人が歩いていた。蘭先輩が。

 こちらには気づいていないようで友だち(もしくは恋人の一人かもしれない)と歩き食堂を横切っていく。

「…………」

 寮母さんに視線を戻すと、寮母さんももう蘭先輩のことは見ていなくてうつむきながらテーブルを拭いていた。

 そこに頑なな表情を見つけて、私はそれを問いかけてみることにした。

「どうか、したんですか?」

「……え?」

 私が話しかけてくると思わなかったのか寮母さんはワンテンポ遅れて顔をあげた。

「な、何が? どこか変だった?」

「そうですね、少し」

「そんなことは、ないと思うわよ?」

 隠そうとしているのか、それとも自覚がないのか。寮母さんは動揺を見せずに私に答える。

 普通ならそれで、ごまかされるのかもしれない。でも、この人と蘭先輩に浅からぬ関係があると予想してる私は、

「そうですか。蘭先輩のこと見てたから何か用があるのかと思っちゃいました」

 そう敏感な名前を出して見ることにした。

「なんの、ことかしら? 夏目さんいた?」

(……とぼけるんだ)

 これは蘭先輩を意識しているからこその反応だと思う。何もないのなら嘘をつく必要がない。それと、もう一つ。

(避けてる?)

 そんな印象も受けた。

 つまりは、ただ蘭先輩が好きなだけでなくて二人の間には何かあったんだということを確信する。

(……こんなことを知ってどうするつもり?)

 心の中ではそう思うのに、それでも二人の間にあったことを気にせずにはいられない私だった。

 

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