秋と言えばいろいろなものがある。よく〇〇の秋と称されるけどそういう抽象的なものとは別に具体的なものと言えば中秋の名月なんてものがある。

 まぁ私たちはそんなにイベント事に反応するタイプでもないのだけれど。

 無視をするほどにはひねくれてもなくて。

 初めて二人で過ごす秋の日にこんなことがあった。

 

 ◆

 

 イベント事に反応しないといってもそういうことを全て無視するほどひねくれてはいない。

 季節には季節にあった楽しみがあって、春はあけぼの……というか春は桜並木くらいは見に行くし、夏もベランダから花火を眺めるくらいはする。

 で、秋と言えばお月見というやつだ。

 お月見自体はそんなに興味もないけれど、この時期はそれなりに好き。

 ベランダに出ると季節の変わり目の涼し気な風か肌に当たるのは心地いい。

「お月見、ね」

 隣に可愛い彼女がいてくれるのならいうことなしというやつだ。

 この家のベランダは付き合い始める前にすみれの家で見たのとは比較にもならないが、それなりには広く面倒だからそんなことはしないにしても部屋のソファだってここに持ってきて月を眺められるくらいの広さある。

 今は手すりにもたれて二人で月を眺めるくらいだが。

 手にはそれぞれ月見酒。部屋には一応お団子も用意はしてあるが手を付けることはなく二人他愛のない話をして空を眺めるのみ。

 わかりやすく寄り添ったりなんかはせずに普段と変わらぬ時間だけれど、こうして何も考えずに月を眺めるのもオツというもの。

「月見って結局何をするものなの?」

「月を見るのよ」

「じゃなくて、何をするものなのよ」

「だから月を見るのよ」

 なんと意味のない会話だけど、からかうとそろそろ怒るだろうから別のことでも応えてやろう。

「詳しくは知らないけど、昔から日本にはあるらしいわよ。平安時代くらいに音楽とか詩を読んだりもしてるし」

「ふーん」

「中国にもあるらしいけど、どこでもやってるわけじゃないって話ね。まぁ日本人は変なところでこだわるからね。月に関する逸話も多いし、創作に色々出てたりもするわよね」

「そういえばそうね、あれでしょ。裏側には宇宙人の基地があったりもするんでしょ」

「なにそれ?」

「この前読んだ小説にそんなことがあったわ」

「ふーん」

 すみれの読んだ本を全て知っているわけではないが、少なくても私の読んだことのあるものではない。

 すみれが買ったのか借りたのかは知らないけど私の知らぬところですみれが本を読んでいるというのは悪い気持ちではない。

(にしても)

 チビチビと酒に口をつけながら空を見上げる。

(ほんとなんでもない時間ね)

 いつもなら本を読んでるか、ご飯を食べてるか、お風呂にはいってるか。いちゃついてるか。最近やりだしたストレッチでもしてるか。

 とにかく自由な時間の中何かをしているのに、今はこうして何も考えずに益体のない会話をしているだけ。

 煌々と月が照らす中でのそれは意外と居心地がいい。

 何もしないからこその充実もあるということだ。

「ねぇ、文葉」

「ん?」

 距離を詰めて頭をこつんと当ててくる。

「月が綺麗ね」

(…おっと)

 何も考えずにいられたところにちょっと面倒なやつね。

 今となってはよく知られたネタではあるけど、言われる方は意外と面倒なのだ。

(大体これって何をきっかけに広まってかは知らないけど、都市伝説みたいなものでしょ)

 それを素直に伝えるのは……NGね。

 もうそれなりに付き合いは長くなっている。そういう夢のないことをいうとデリカリーがないだの不当な評価を受けることくらいはわかっている。

 なら。

「そうね」

 まずは頷き、空いている手ですみれの腰を抱く。

 思わぬ反応だったのか思い通りにこちらに顔を向けたすみれに。

「でも、すみれの方が綺麗よ」

 恥ずかしげもなくまっすぐに、視線を交わして、囁くように言って見せた。

「っ……」

(……少しは成長したと思ったけれど)

 これで赤くなっているのだからまだまだ少女だ。

 すみれとしては気の利いたことを言ったつもりだったのに反撃を食らった形なのかしらね。

 成長も嬉しいけど私はまだまだこの見た目と性格に反して可愛らしいすみれも好きなようだ。

(こんなかわいいすみれをみれたんだから、やっぱり季節のイベントっていうのは馬鹿にできないわね)

 そんなことを思いながら、次はクリスマス辺りかしらと早くも先のことを楽しみにしていた。  

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