森すみれと名乗った彼女。

 彼女はいろんな意味で私の常識から外れた人間だった。

 容姿、性格、家、価値観。

 そして、告白まで。

 告白を受けたときの私はもちろん彼女を好きだと言える状態じゃなかった。

 ただ私がこれまで関わってきた人間とは違うということは明確に感じていた。

 タイミング、というのもあったかもしれない。

 私もその時【退屈】していて、変化を求めてもいたから。

 だから私は彼女を受け入れ、彼女との時間を持つようになった。

 そこで私は彼女が変わっているだけでないことを知っていく。

 

 ◇

 

「え?」

 彼女の告白を受けた私はしばらくした後にそれだけを声にした。

(なんて、言われた?)

 現実離れしたことが起き、頭の処理が追い付いていない。

 口づけを受けたことも、告白をされたことも理解しきれないままただ、彼女の唇が触れた頬に熱を感じている。

「だから私と付き合えって言ったのよ」

 半ば呆ける私に対し彼女は不敵に笑いながらもう一度はっきりした声で告白を告げる。

「付き合う……」

 その意味を理解はしているのだと思う。でも、あまりにも唐突で自分のこととして受け入れられていない。

「そ。一緒に買い物に行ったり、映画に行ったり。お酒を飲んだりとか。あ、旅行にも行きたいわね。温泉がいいかしら」

 私が混乱しているのを知ってか知らずか彼女は淡々と私との予定を述べる。

「……え、と……冗談、ですよね? 恋人になれって」

(陳腐なこと言ってるわ)

 不思議なことに私は彼女からの告白をそんな風には思っていない。

 反応に困る過ぎてそう言ってしまっただけだ。

 だって私たちはまだ出会って数週間と経っていない。話した時間など数時間程度。好意を抱かれるようなことをした覚えもない。

 そんな自分がなぜ愛の告白など受けているか。

(しかもこんなきれいな人に)

 これで現実感を持てということの方に無理がある。

 状況は冗談のようなのに、雰囲気は本気にしか思えないということが一層私を混乱させる。

「あら、キスまでされたのに冗談に思っているなんて心外ね」

「っ……せめて、理由を教えてください」

「好きに理由が必要かしら?」

「私は聞きたいです」

「ふぅん。なるほど。改めて言われると自分でも言葉にはしにくいけど、でも、そうね。さっき言ったことがほとんど全部よ」

「……私に興味を持ったということですか?」

「憧れと尊敬もね。生きるのがつまらないと思っていた私が他人をそんな風に思えるなんて考えてもみなかった」

「だから、恋人に……ですか」

 さすがに飛躍しすぎているようにも感じる。

「私にはそれだけ十分なのよ。だって私は本当に退屈に生きて、退屈に死ぬと思っていたから」

「っ……!」

 今のは何?

 その言葉の背景に何があるのかを勘ぐってしまうようなそんな感情を見せないが故に激情を感じさえる何かに思わず私の心は彼女へと傾きを見せた。

「で、返事はどうなの?」

 次の瞬間にはすみれさんは揺らいでいた感情を隠し、例の高圧的ながら嫌味を感じさせない声で私に回答を求めた。

(……………)

 私はいまだ戸惑っているし、きちんと彼女のことを理解できてもいなければ思考が地に足をついていない気もしているけれど

(でも……恋人ということはともかくも)

 放っておきたくないと思ったのだ。

 だから私は

「とりあえず、友達からなら」

 なんてまたも陳腐なセリフを吐いて彼女との付き合いを始めることにした。

 

2−2  

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