「じゃ、カンパーイ」

「乾杯」

「……乾杯」

 チン。

 グラスを傾けて軽くぶつけ合う。

 クリスマス。世の中がきらめいて、そこら中にふわふわでキラキラな雰囲気が溢れる季節。

 あたしも美咲もゆめもそこまでそういうイベントに乗ったりするわけじゃないけど、企業の策略だと穿ってまでは考えない。

 んで、今日はゆめがお泊りにきてる。

 食べ物や飲み物を部屋に運んでもらっての三人だけのパーティー。

 テーブルの上に鶏肉を初めとしてあたしたちの好物が所狭しと置かれ三人でそれを囲む。

「ん……?」

 乾杯したんだから当然飲み物に口をつけたあたしはその味に違和感を覚える。

 普段あたしたちがこういう時飲むのはジュースや麦茶や水だけどクリスマスってことで子供用のシャンパンを買ってきたんだ、けど……

(これアルコール入ってるんだっけ?)

 ちょっとそんな風味がする。子ども用のだから心配ないと思ったんだけど……

 ちらりと横目でゆめを見てみる。

(前チョコに入ってたので酔っ払ってた、けど……)

「……んくんく」

 食事の中何度か口をつけているみたいだけど、特に変わったところは見られない。

「彩音? どうかしたの? さっきから食べてないわよ」

「ん、ああぁ、何でもない。食べる食べる」

(ま、ゆめは何ともなさそうだからいいか)

 あたしはちょっとした心配を見なかったことにして目の前のご馳走に集中していった。

 

 

「さて、と。じゃ、そろそろケーキきってくるわね」

「あ、お願い。まだ凍ってるかもしんないから気をつけてね」

「彩音じゃあるまいしわかってるわよ」

「余計なこと言ってないで行ってきな」

「はいはい」

 一通り料理を食べ終えた中、美咲がケーキを取りに部屋を出て行った。

 ケーキは普通のケーキじゃなくてアイスケーキ。ちょうど料理を食べ始める前に冷凍庫から出しておいた。

「さて……」

 ケーキは別腹だけどおなかがいっぱいになってたあたしは確かまだ余ってたシャンパンを飲もうと

「あれ? もうない」

 持ったビンはからっぽで中には雫が残っているばかり。

「……ひっく」

「っ!?

 空っぽのビンを何気なく振っていたあたしはあたし以外のしゃっくりを聞いて思わず体をビクつかせた。

(そいや……ケーキの話題が出たってのに、ゆめがやけに静かだった、な)

 最初大丈夫だったのと、クリスマスに浮かれて油断してた、かも。

「……あやねぇ」

 ゆめが発するとは思えないあまったるい声。

(ま、まさか……)

 あたしが恐る恐る振り返ると

「………………すきぃ」

 目を潤ませ、頬を魅惑的にそめたゆめがあたしに擦り寄ってきた。

「ちゅーしよー」

「ちょ、ゆ、ゆめ……」

 座ったまま後ずさりもできず手を後ろについてあたしはそのまま体を後ろにそらすけど、

「にゅむ……ちゅ」

 迫ってきたゆめになすすべなく唇を奪われた。

「にゃむ…ちゅぷ…あむ……ふはぁ」

 酸味のある独特の味の舌があたしの舌に絡み付いてのキスに、直接吹き込まれる甘い芳香。

 さっきのシャンパンの味と香りとキスが心に入り込んであたしまで蕩けてきそうな気持ちになった。

「……はふぅ……あやねぇ……すきぃ」

「わ、わかったから落ち着いて」

 って、やばい、やばいよ。この酔っ払ったゆめは。何するかわからないし、っていうか、このキスだけでもまずいって。

「……にゃむ。もっとぉ……」

「っ!

 普段のゆめからは想像できない魅惑的な様子にあたしの胸は自然と高鳴っちゃうけど、これはまずいんだって!

「ゆ、ゆめ。落ち着いて、落ち着いてよ」

「…にゅ…ちゅー」

 肩を掴んでゆめを制止しようとするけどそんなのゆめはお構いなし。体を伸ばしてあたしの唇にまた……

「って、ゆ、ゆめ……ぁ」

 ドンと背中が床に打ち付けられた。

「……ひく…みゅー……ちゅぅするー」

 さ、さらに状況が……

 っていうか、何であたしはこんな簡単にゆめに押し倒されちゃうの。

「だ、だから、ゆめっ!?

 酔っ払ったゆめには何言っても無駄だった。

「はむ…あむ、ちゅる……」

 唇に吸い付かれて優しく、噛まれて

「ニュプ…ぬちゅくちゃ」

 また舌が絡みついてきた。

(ぁ……ゆめ…あっつ……)

 ぬるぬるとしたゆめの舌があたしの舌を柔らかくなぞる。まるで心を舐められているみたいにぞくぞくとして……

(やば、あたしもちょっと酔ってきたの、かも)

 シャンパンのアルコールとゆめのとろりとした唾液、なによりキスと雰囲気にあたしの体は少しずつ熱くなって、…頭もなんだか……

「……あやね、おいしぃ……はむ。ペロ……ちゅ、ペロ」

「ぁ、ゆめ……んっ」

 キスを終えたゆめが今度は唇の端から垂れた二人の混ざった液を舐め始めた。ねっとりと舌を押し付けて、ときには唇を吸ったり。

「ぁ、は。ゆ、ゆめ、ほんと、まずいって、こんなの美咲に見られたら……」

「私に見られたら、なんだっていうのかしら?」

「…………………………………」

 少しだけ火照った体がいっきに絶対零度までさがる。

「はむ…ぺろ、ちゅぅう。もっと」

 そんなあたしにおかまいなしにゆめはあたしを食べる。

「……………………」

 無言で持ってきたケーキをテーブルの上に置く美咲。

(だ、黙ってないでよ……)

 逆に怖いから。

「にゃむ……あやね、すきぃ……」

 って、ゆめは黙って!

「まさか、ケーキとりにちょっと離れてる間にこんなことしてるなんてねぇ。そんなに私が邪魔だったのかしら?」

 た、淡々と言われるのがあたしの恐怖を増大させていく。

「ち、違うって! ゆめが酔っ払って無理矢理してきただけ! あたしが何かしたわけじゃないっての。ほら、ゆめどいてよ!

「……むぃ?」

 あたしが力づくでゆめを引き剥がすとゆめは何が起きたかわからないといった様子であたしから離れてぺたんと座り込んだ。

「ほ、ほら、この顔みてよ。あきらかにいつものゆめと違うでしょ」

「……みゅ、ぅ……? はふぁ……」

 ゆめはとろんとした目つきで体をふらふらとさせていた。酔っ払ってるかどうかはともかく明らかにおかしいとはわかってもらえると思う。

「……ま、何か変なのは認めるけど。だからって簡単にキスなんてさせて」

「そ、そこからみてたの?」

「ほんとはゆめとキスしたかったんじゃないの? 避けようと思えば避けられたでしょ。さっきのは」

「そ、それは」

 傍からみたらそう見えるかもしれないけどそんなのに頭が回らなかったんだって! 

「ったく。彩音はいつもいつも簡単にゆめとキスして……」

 美咲はあたしの側でかがむと意味深に体を寄せてきた。

「な、なによ」

「さぁ? 何かしら? 彩音が何かしてくれるかなって思ったんだけど」

「キ、キスしろとでもいうわけ?」

「さて、その辺の判断は彩音お姉ちゃんに任せるわよ」

 ま、任せるってゆめが目の前にいんだよ。いや、ゆめとしてるところは美咲に見られたみたいだけど。

「……ん? んー? キス?」

 って、ちょっと忘れてたゆめがふらふらとしながらその単語に反応した。

「……美咲、彩音とキスしたいの〜?」

「ゆ、ゆめ?」

 おっと、美咲が思いのほか驚いてる。話には聞いていたはずだけど実際に酔っ払ったゆめと話すのは初めてだからね。

 もっともまともな会話になろうはずもないけど。

「じゃあ、してあげる〜」

「は!? ゆ、め? な、……んっ!!?

 そうそう。このゆめに迫られるとゆっくりなのになんだか逃げられないんだよね……って!

(えぇぇ!!?

 目の前にいきなり理解不能なことが起きた。

「あん、ちょ、ゆ、め……んみゅ…ちゅ、ぱ」

「はみゅ…にゅる、じゅぷ、がむ…にゃ、ぷ」

 ゆめと美咲がなぜかキスをしていた。

「んみゃ、あむ……ちゅ、ちゅぅう」

 ゆめの舌が美咲の中に入っていくのが見える。

 チュクチュクとした音を響かせて、二人のキスが続く。

「ふ、ぁ…みゅん…じゅく」

 ゆめはさっきと変わらないとろんとした半ば焦点の合わない目で美咲を逃がさないように体を掴んでキスをして、

「んっ、ぷ…あぁ、くちゅ」

 美咲はさっきとは裏腹に真っ赤になってゆめから逃れようとしてるんだけどゆめが離してくれず、ゆめのされるままになっていた。

(うわ、やらしいっていうか、エッチっぽい)

 二人の美少女が、あたしの目の前で熱烈なキスを交わしてる。あたしが世界で一番好きな二人がする濃密なキス。

 自然とそれに目が奪われてあたしはこの不可解なキスに何もできなかった。

「っ、はぁ……みゃ〜」

「っは! な、なにするのよゆめ!

 解放された美咲のもっともな一言。

「……ちゅーした」

「そ、それはわかってるわよ! 何で私にするのかってこと!

「間接きす〜」

「は?

「……間接ちゅーならいい〜。彩音とちゅぅしたから美咲にもわけてあげた〜……美咲もおいしい……」

「……………」

「……………」

 ゆめがあほなことを口走って思わず閉口するあたしと美咲。

「ほ、ほら、ゆめってこうなると手がつけられないっしょ?」

「そう、みたい、ね……」

 今まであたしからこうなったゆめについては聞かされていたけど、半ばあたしの作り話とでも思ってたのか美咲は粛々と頷いた。

「ん? んー? ぅん……」

「ゆ、ゆめ大丈夫?」

 この何ともいえない空気をどうすればいいのかと困っていたあたしだけどゆめがだるそうに頭をカクンとしてその体を支えた。

「んみゃ、ぐ……もっと、彩音……たべ、う……」

 ゆめはそういい残して完全にあたしに倒れて、バレンタインのときみたいに【限界】が来たと悟った。

「……くぅ。くぅ……」

 すぐにあたしの腕の中で寝息を立て、部屋にはさらになんともいえない空気が流れるのだった。

 

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