いつもの日常。
あたしの部屋のベッドの上。
「っ……はぁ……」
くしゃくしゃとなったベッドの上であたしは呻くように息を吐く。
(疲れた……)
と思っているのは本音だけど、それは決して嫌な疲れなわけじゃない。むしろ心地いいというか、というか物理的に気持ちよかったというか……まぁそれはいいや。
こうして両脇に人の肌のぬくもりを感じながら余韻に浸るのは嫌いじゃない瞬間。
「ね、彩音」
左にいた美咲が、体を寄せながら何かをおねだりするような表情であたしを呼ぶ。
当然言葉なんてなくてもあたしは美咲の望みを察して美咲の頬に手を添えるとそのまま唇を奪った。
「っ……ふ……っあ……んっ、ぴちゅ……レロ、あむ……ちゅう」
数秒間は唇を合わせて、それからゆっくりと美咲の中に舌を進ませるとねっとりと舌を絡ませる。
美咲はキスが好きだ。エッチする時もだけど、終わった後も、それ以外の時も何度もキスを要求してくる。
もちろんあたしも美咲とキスするのが好き。
激しくするもの好きだけど、あたしはこうやってゆっくりと相手のことを確かめ合うようなキスが好み。
「んむ……ちゅぱ、じゅぷにゅぷ……ちゅ」
舌先が痺れてとろけていくような感覚。相手と溶け合って一つになるような感覚。
その感覚に酔いしれていると
「っぁっ」
唐突に体を引っ張られてキスを終わらせられた。
「……………長い」
背中越しにもう一人の恋人のいじけたような声。
「……私にもキス、する」
偶然なのか意図的なのか背中にあたるゆめの胸の感触を名残推しく思いつつもあたしは、振り返ろうとするとその体を美咲の腕に抑えられた。
「ダメよ。まだ私としてるんだから」
「…………それこそダメ。美咲としたんだから私にもする」
「別にするななんて言ってないわよ。私の気がするんだら譲ってあげるわ。それまで待ってなさいってこと」
「……やだ。今すぐする」
「………………」
気づけば二人に腕を取られて引っ張られてる。
(……最近、こういうこと増えてきたなぁ)
二人にプロポーズを済ませて以来、二人の主張が激しくなってきた気がする。それは全然嫌なことじゃないんだけど……
(……やっぱりずっとこのままってわけにはいかないよね)
と心の中である決意をしていた。
それと
(……今日はもう一回、かな)
二人の愛にそれを確信していた。
あたしは意外なことにあの二人からの評価が低いらしい。
もちろん、恋人として認められてないとかそういうことじゃないけど、多分色々不等な評価はされている。
例えば、妙にあたしが変態だって思われてるみたいだし、鈍感だと思われてるし、挙句にすぐ浮気するとかまで思われてる。
自分の考える自分と人から見えた自分が違うっていうのはよくあることなんだろうけど、それにしてもゆめも美咲もあたしのことをなんだと思ってるんだってことはあるよね。
大体、鈍いとかならまだわかるけど浮気するってのはなんだ。あたしはあの二人を好きになってから他の子のことを可愛いとは思っても、あの二人以上に感じたことは一度もないっての。
あたしは美咲もゆめも他に比べようないほど好き、っていうか愛してるよ。本気でね。
この世界にあの二人以上に相手なんて絶対にいない。これから先、一生あの二人のこおとを愛していくって二人にも誓ってる。
そんなあたしを捕まえて変態だの、浮気だの、鈍いだの言われたらたまったもんじゃないよねぇ。
………もっとも、そう思われてる原因があたしにあるっていうのは否定しないんだけどさ。
変態だってのはともかく、あたしはあの二人の前じゃ意図的に演じてきた部分は正直ある。
その……こういうことを自分でいうのはうぬぼれっぽいし二人に悪いのかもしれないけど………………多分、ゆめも美咲もあたしのことが好きなんだって思うから。
お互いが好きじゃないなんてことは絶対にありえないけど、でも二人の、一番はあたしなんだって気がしてる。
いや、こういう言い方はよくないね。気なんかじゃない、確信してる。
でも、あたしは違う。あたしは二人のことが一番だ。
そりゃこういう部分なら美咲のほうがよくて、別のところじゃゆめの方がいいっていうのはあるけど、恋人として二人に優劣を感じたことはただの一度もない。
だから、あたしは二人からみて「バカ」って言われるようにしてきた。何も知らないふりをして二人と接してきた。
あたしがしてきたことはいけないことじゃないのかもしれない。でも、このまま続けることは正しいことには思えない。
これから先あたしたちは三人で住むようになるし、一度はこのことについて話さなきゃいけないだろう。
それが二人の愛しぬくって誓ったあたしの責任だから。