すると決めたら行動は早めにした。
何かプレゼントがあったほうがいいかなとも思ったけど、今回はなしにした。もう婚約指輪は渡してるんだし、そういう物質的なものよりも気持ちも問題だから。
あたしも正直な気持ちを伝えることがなによりも大切だから。
そんなわけであたしは休み前の夜、ゆめを呼び出してベッドの上で対面中。
目の前に二人を座らせて、あたしは内心ドキドキとしながら二人を見つめている。
「で、なんなのよ改まって話だなんて」
あたしから見て右手に美咲。
生まれた時からずっと一緒の関係。人生の中で最も多くの時間を過ごした相手。
「……早くしろ」
左手にはゆめ。
出会ってから実はまだ数年なのに、いつも一緒にいた。美咲と同じで一緒にいることが当たり前になってる。
あたしは二人を愛してる。
どっちが欠けてもこれから先、生きていけない自信がある。いて当たり前で、いなくちゃいやだ。
それがあたしの気持ちだ。二人があたしにとって必要な人なの。
どっちが一番とかないどっちもあたしの一番大切な、大切な恋人。
一生を一緒に過ごしたいと思う二人なの。
これを伝えることで何があるのかはわからない。ただのあたしの自己満足かもしれない。これをきっかけに何かが変わっちゃうかもしれない・
けど、このままでいるわけにもいかないって思う。
少なくても二人の気持ちに気づいておいて、あたしだけ何も知らないふりをしているのはフェアじゃないって思うから。
「……彩音?」
「どうしたのよ?」
真剣な目で二人を見つめたまま黙り込んだあたしを心配してか二人が顔を覗き込んでくる。
(……うん。やっぱり一度はっきりさせておかないとね)
それは責任でもあるし、あたしのしたいことでもあるから。
「あの、さ。二人に聞いて欲しいんだ」
深く息を吸ってからあたしは交互に二人のことを見つけた。
「……真剣な、話」
「………」
「………」
美咲とゆめがあたしを見る。と、どちらともなく姿勢を正した。
聞く姿勢を取ってくれた二人に感謝しつつ、あたしはもう一度二人のことを見つめた。
何かを変えてしまうかもしれない。でも、二人を信じている。だから伝えよう。
あたしも素直な気持ち、あたしが三人でどうなっていきたいかを。
「美咲」
名前を呼んで、手を握る。
「ゆめ」
同じようにゆめにも。
この世の何事よりもかけがえのないぬくもりを感じながらあたしはゆっくりと口を開き始めた。
「あたしはさ、二人のことが好きだよ。二人のことが誰よりも好き。……二人の気持ちはわかってるつもりだけど、あたしはね、二人なの。どっちが一番とかじゃなくてゆめと美咲、二人が一番なんだ。っていうか、なんて言えばいいのかなあたしにとって美咲とゆめはさ、二人っていうよりは一つっていうか……」
うわ。やば。何言ってるかよくわからなくなってきた。
「あたしはさ、絶対に何があっても二人、なんだよ。ゆめも美咲も二人を大切にしていきたい。ううん、一生愛していく。それがあたしの答えじゃ、駄目かな」
うぅ……結局何が言いたいのかよくわからないことになってしまった。
あたしとしては一世一代の告白になるはずだったのになんだかよくわからないことを言うだけになっちゃったような……
そんな不安を抱えながらあたしは二人を見てみると
「…………」
「…………」
(………?)
なぜかゆめも美咲もきょとんとしてて、あたしもあれ? っと首をかしげた。
「あの……伝わった?」
「ん? まぁ、伝わったというか今更ねって思ってるだけよ」
「……そんなことは知ってる」
「はぇ?」
二人の回答にあたしは思わず変な声をあげてしまった。
だって、あたしはもうほんとに覚悟をしていったんだよ。もしかしたら何かが変わっちゃうかもしれないけど、二人の気持ちに気づいていながらそれを曖昧に一緒に住むなんてしちゃいけないって思ったから覚悟を決めてたのに。
なんで二人とも、それがどうしたのって言わんばかりの顔してんの?
「あんたがそんな風に思ってるなんて知ってたわよ」
「え?」
「………大体彩音は私たちの気持ちを甘く見てる」
「私たちはね、お互いのことが好きなんじゃないわよ。というか、ゆめの方が彩音よりもいいって思うところだっていくらでもあるわ。まぁ、あんたの言ってることも否定しないけど、そういうことじゃなくて」
「……私たちは彩音の幸せが一番」
「そういうこと」
ステレオに伝えられた温かみにかけつつも愛に満ちた言葉にあたしが理解が追いつかず頭を混乱させる。
「大体、ゆめのことを悲しませでもしたら承知しないわよ。ゆめだっておんなじ気持ち」
「……うん」
「え、えっと……つまり」
「あんたは今まで通りでいいってこと」
「……うん。彩音は好きにしてればいい」
「………………」
二人の気持ちは……その、嬉しい。嬉しいんだよ? ただあたしとしてはなんか……なんというか釈然としない感じ。あたしだけ舞い上がってたっていうか……うーん。
「そ、そっか……うん。あはは、これでも色々悩んだんだけどねぇ。ま、まぁそういうことならえーと、今後ともよろしく?」
とりあえずはこれでいいのかな。あたしとして全然問題ない形ではあるんだしさ。
なんてちょっと混乱しながらも安心していると
「けど、私たち以外の子に色目使ったり、浮気でもしようものならその時は殺されても文句は言えないって思いなさいよ」
美咲から愛に溢れながらも少し過激なコメント。
「あはは、また厳しいこというねぇ美咲は。ね、ゆめ」
あたしはまだ緊張がとけないというか夢の中にいるような感じで勝手にそれを冗談だと決めつけてゆめを見ると
「……?」
あれ? なんでゆめは首をかしげてんの? ここでそういう態度取るってことはあれだよ。
「……殺すが?」
こういうことだよ?
「へ!?」
一切冗談に聞こえない響きでゆめは淡々と物騒なことを口にした。
「え? ほ、本気? ……え?」
さっきとは別の意味で頭が追いつかない。
美咲がどうだったかまでちょっと判断つかないけど、ゆめのはマジだよ? 本気にしか思えなかったよ?
「……冗談」
「……冗談には聞こえなかったんだけど……」
「何狼狽えてんのよ」
「いや…だって……」
「……浮気しなければ問題ない」
「そ、それはするわけないけどさ」
そういうのとこれはまた別の問題のような。いや、絶対にしないけど。
「言ったでしょ? 私たちの気持ちを甘く見るなって。まぁ、そのくらい彩音のことを愛してるってことよ」
「……うん。ありがたく思え」
愛、は間違いないだろうけど。殺すって宣言されたことをありがたく思えってのはすごいな……けど、愛に間違いはない。
あたしは二人に大きく頷く。
「……うん。わかった。改めて誓うよ。二人のことを一生大切にするって」
「ありがと。私もよ」
「……私も」
あたしたちは自然と三人で抱き合った。
(……ちょっと予定とは違ったかもしれないけど、これでよかったな)
二人の温もりを感じながらあたしはそれを感じ、もう一度心の中で二人への愛をつぶや
「ところで、彩音」
こうとしたところで美咲の声。どこか上ずったようなそんな何かを期待している声。
「私たちのこと愛してくれるんでしょう」
あ、これは……多分。
「そりゃね。もちろん」
「……なら、証明しろ」
ぐっと二人があたしを抱く腕に力を込めてきた。
言葉に乗せられた熱情をあたしは理解して。
「わかったよ」
と、二人に口づけをしていった。