「……………」

 なんだか視線を感じる。

 ゆめの家に遊びに来たあたしはベッドに寝そべってケータイをいじっているけど、どうにもさっきから視線を感じる。

 まぁ、視線の相手はわかってるしそれほど珍しいことでもないんだけど。

「なんか言いたいことでもあんのゆめ」

 かれこれ十分くらいは見られてるような気がするのでそろそろあたしはその理由を聞いてみることにした。

「………………彩音」

 机の前で椅子に座る夢はあたしの問いにワンテンポ遅れてからあたしのことを呼んだ。

「なぁーに」

 あたしも体を起こしてゆめに応える。これから何を言われるかも知らずに。

「……彩音は私の体が目的?」

「ぶっ! ちょ、な、何言って……」

「……動揺した」

「ち、ちが、いや、っていうか、え?」

「……図星?」

 あたしが突然言われたことにあたふたとしてるとゆめは首をかしげながらあたしに不審な言葉を続けてきた。

「違うって! な、なんなのいきなり!?」

 ゆめが突拍子もないことを言うのは珍しいことじゃないけどさすがにこれは意味わからくて思わず大きな声を出した。

「……だって彩音はロリコン」

「……………」

 ……全然違うけど、ここで違うって言っても話が進まないような気がするからとりあえず黙っておこう。

「……それに、今日クラスで彩音のこと話したらみんなそう言ってた」

「へ?」

 これは珍しい話だ。ゆめからクラスの話が出てくるなんて。

 もっとも、それが今につながってるんだからいい話じゃないんだろうけど。

「な、何話したわけ」

「……別に普通のこと」

「普通で、あたしがゆめの体が目的って話になるか。あんたが変な言い方したんじゃないの?」

「………そんなことしてない。ただ、彩音に普段されてることを話しただけ」

「え? されてること、って」

 あれ? なんかあんまりよくない雰囲気だな。

 い、いや、もちろんあたしとゆめはラブラブなわけで、ゆめに対して何か妙なことなんてしたことはないよ? ほんと、全然。

 で、でも……いや……えと。ほ、本当に変なことなんてしたことないから問題は、ない。ない、はず、なんだけど……

 どうにも嫌な汗をかく。

「……寝てたらスカートめくられたり、着替え覗かれたり、いつの間にかベッドに連れ込まれてたり、お風呂入るのにスク水着せられたりとか」

 心当たりがあるような……ない、ような。………ある、ような。っていうか、ないことはないけど……とりあえずいうことがあるとすれば

(他に話すことはいくらでもあんでしょ!!)

「…………で、周りの反応は?」

 とはいえ、そこにかみついても今の状況が変わるわけじゃないからそっちを聞いてみることにした。

「……………心配された」

「そら、そんなこと言ったらね。っていうか、それでクラスの子たちはあたしがゆめの体目的だって言ってきたってわけ?」

「……うん」

 普通に考えてそりゃ冗談でしょ。いくらゆめがおかしなこと言ったからってあたしとゆめがラブラブなのは多分知ってるんだろうし、知ってないとしてもそういうことをさせるっていう時点で本気でゆめが嫌がってるわけじゃないってことくらいはわかるだろうし。

 あ、でも……ゆめがあたしを好きであたしがそれを利用してるって考え方もあんのかな? ゆめってどうせ学校で友だちいないんだろうから、そんな風に考えられても不思議じゃないかも。

 まぁ、どっちにしても。

「クラスの子から言われたくらいであたしのこと疑わないでよ」

 これに尽きる。

 ゆめがどんな話をして、どんなことを言われたのか正確には知らないけど今更あたしの気持ちを疑うようなことはないでしょ。

「…………別に疑ってない」

(ん?)

 気のせいか、ゆめの態度がちょっと変だ。まぁ、あたしが気になるってことは気のせいじゃないんだろうけど。

 機嫌が悪そうっていうか、なんか不満がありそう。

「んじゃ、なんでそんなこと聞いてきたん?」

 ほんとうにすこーしだけ、耳に痛いようなこともあったけど、あたしがゆめのことを好きなのはゆめだってわかりきってるはず。

 今更クラスで言われたことを本気にするとは思えない。だから、何かしらの意味があるはず。

「…………気になっただけ」

「何が?」

「……………彩音が」

 なんかゆめが言いずらそう。なんでもずけずけ言ってくるくせにたまにこうなるんだよね。

「あたしが?」

 こういう時って大体ゆめにとって大きなことなことが多い。

「……私のこと……どういう風に好きか」

「どうって。また、答えづらいというか、難しい質問だね」

 抽象的すぎるけど、ゆめには何かしら意図も意味もあるはず。

「……なんで?」

「それもまたどう説明していいかわからないけど……大好きって答える以外にないじゃん」

 ゆめが何を言って欲しいのかはよくわからないけど素直に答えさせてもらおう。

「……………」

 ゆめがそう言われて嬉しくないわけはないんだろうけどこれだけじゃ足りないのかさっきと同じむすっとした顔であたしのことを見てきてる。

(なら)

「ゆめ」

 あたしはゆめに手を伸ばして軽く手招きをした。

「……むぃ」

 のこのことベッドにやってきたゆめをあたしは

 もぎゅ、っと抱きしめた。

「っ!」

 ゆめはちょっと驚いたみたいだけど、あたしの抱擁を受け入れてくれたみたい。

「大好きだよ。ゆめ。小っちゃいところも、こうやってたまに変なこというところも、なんでも言うくせに、素直になれないところがあるとこもぜーんぶ大好きで、世界で一番愛してる」

 間髪入れずにあたしはゆめに何度目かわからないほどの告白めいたことを告げる。

「……………」

(あれ?)

 いつもならこういう時、抱き返してくれたりとか、私も大好きとか言ってくるはず、だけど、今は何にも言わない。

「…………………本当?」

 代わりに、しばらくたってからそんなことを聞き返された。

「そりゃ……そう、だけ、ど?」

 予想外な反応をされてあたしはそう答えることしかできなかった。

「………一番は……一番」

「?」

 何が言いたいのかよくわからん。

「…………私のこと、一番、好き?」

「え、えーと、だから、そういってるけど?」

「………み」

「み?」

 何? どういう意味? み?

「っ」

 ゆめの言いたいことがわからないでいるとゆめは急にあたしをぎゅっと抱きしめ返してきた。

「……私も……世界で一番彩音が好き」

「あ、ありがと」

 やっと知ってる反応に戻った。

 なんだったかわからないけど、こういわれたからには。

「ゆめ」

 あたしは、ゆめのことを呼びながら体を離す。

「…………」

 それから見つめあって、お互い目を閉じて……徐々に距離を縮めていく。

「んっ………」

 数秒もしないで唇が重なった。

「……ふぁ」

 そんなに長くはしないで唇を離すと熱っぽい息を吐く。

 それから

「っ!?」

 ドンって軽い衝撃。

 ゆめがあたしに抱き着いてきてる。

「? ゆめ?」

 キスしたあとって大体ちょっと見つめあうことが多くて、これは予想外の反応。

「……………彩音が変態でロリコンでも、別に、いい」

(いや、違うけど)

 って思うけどとりあえずここじゃ口に出すのはやめておこう。なんかそんな雰囲気じゃないし。

「……それでも、私は彩音のこと、好き」

「あ、ありがと」

 ぎゅっと子供みたいにあたしに抱き着くゆめにあたしは軽く抱き返しながら頭を撫でる。

「……子供扱い、するな」

「あっ、と。ごめん?」

 いつもなら照れてくれるかなって思ったけど今日のゆめはここでも予想と違う反応を見せる。

「……彩音」

「な、なに?」

 ゆめが抱き着いたままあたしを上目づかいに見上げてくる。その目はちょっと潤んでて

(や、やば、超かわいい)

 思わず理性を破壊されそうになった。

「……彩音がどんな風に私のこと、好きでも。私は……彩音が好き」

「う、うん」

「……だから、彩音はもっと私のこと好きになって、大切にしないと、だめ」

 言ってることは若干矛盾してるし、あんまりゆめらしくない言葉なんだけど、なんだか迫力がある。言葉以上に何かを伝えてくる威圧感みたいなものが。

「……彩音」

 それはゆめがあたしを見上げたままあたしを呼ぶと一層強くなった。

 でも、これだけじゃ止まらなくて

「わ、っと」

 ポス。

 グイッとゆめが力を込めて押してきて、ベッドに押し倒された。

「………………」

 ゆめはあたしに覆いかぶさったまま(かぶされてないけど)無言のままじーっと見つめてくる。

「ゆめ?」

 あたしはきょとんとしながらゆめを見返す。

 すると、ゆめはまたむっとした顔になってから

「……バカ」

 いじけたように言った。

「??」

 わ、わけがわからん。

 なんでいきなりベッドに押し倒されてバカなんて言われてるんだ。ゆめが妙なことをしてくるのはよくあることだけど、今回みたいに意味がわからないことも結構あるから困る。

 わからないまま

「…………………バカ」

 もう一回罵られて

「……ちゅ」

 キスをされてしまった。

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