「そういやさ、ゆめ」

 一通り後始末をして着替えたあたしたちはまたベッドの上で話しこんでた。

「……なに」

 もう落ち着いてるゆめはすました顔で答える。

「今日なんかめずらしくなかった?」

「……何が?」

「ゆめの様子がいつもと違ったなぁって思って」

「……別に、普通」

「いや、普通じゃないでしょ。いつものゆめならまずあんなこと言ってこないじゃん」

 ゆめは一見なんでもいうけど、実はへたれなところもあってかなり恥ずかしがり屋。それを感じるところは人とずれてるところも多いけど、でもさっきしたみたいなことなんて人一倍恥ずかしがるくせに今日はやけに積極的だった。

「……うるさい」

「ま、可愛かったけどね。おねだりするところとか。った」

 叩かれた。

 子供みたいに小っちゃい手が二度、三度あたしの頭を小突く。

「……彩音がどうしてもしてほしそうだったから、特別にしてあげた、だけ」

 その後ゆめは、無表情の中にもすねたような雰囲気を出した。

(やっぱこういうゆめは可愛いなぁ)

 まぁゆめはいつでも可愛いけど。

「あ、そういや、あとあれもめずらしいよね」

 と、ふとあたしはあることを思い出した。

「……あれ?」

 ゆめはその珍しいことに心あたりがないようで首をかしげる。

「手がちっちゃいってやつ。ゆめって、自分のこと小っちゃいとかって全然認めないじゃん」

(また叩かれるかなー?)

 気になったのは本音だけど恥ずかしいことを思い出させてゆめをからかいたいっていうものあってあたしは身構えるけど

「?」

 ゆめは予想外の反応をした。

「……そんなこと、覚えてるな」

「っ」

 見る見るうちに顔を真っ赤にしたゆめ。それも、このあたしが今まで見たことのないようなほどに。

(え? ちょ、え?)

 な、なんで? 確かに恥ずかしい思いはさせようとしたけど、ここまでの反応をさせるほどじゃないと思うんだけど?

「え、っと……なんか、変なこと、い、った?」

「……うるさい。ロリコン。変態。ロリコン」

「えー………」

 な、なぜだ。ここまで言われなきゃいけないことした?

「え? つか、え? 手が小っちゃいとなんか、問題、なの? いや、ゆめは全部小っちゃいけどさ」

「……黙れ」

 こ、今度はゆめがまた泣きそうになってる。最初それは、羞恥からきてるんだと思ったけど、徐々に寄る辺がないようなそんな頼りない表情になっていった。

「……………ちゃんと、彩音のこと……気持ち、よく、させてあげられてる、か。不安だった、だけ」

「へ!?」

 消え入りそうな声と、いつのまにか部屋に差し込む夕日よりも赤い頬。

 それだけを認識してあたしは一瞬思考停止状態に陥った。

「……彩音は……美咲と、ばっかりだし……私はいつもされるだけ、だから。彩音は、私と……エ、ッチしても、……か、感じたりでき、なくて、つまらない、から。私とは……したくないのかな、って……ちょっと、怖かった」

「ゆめ………」

 すごく恥ずかしいことだし、はしたないこと言ってるのかもしれない。

 でも、すごく真剣だ。

 あたしがいつもゆめをいじりながらする裏でゆめはこんなこと考えてたんだ。

「……バーカ」

「……っ」

 あたしは少し考えた後でそう言ってた。

「……バカ、じゃない。彩音の方がバカ」

「かもね。あたしって少し鈍いのかね。けど、今回のはゆめの方がバカだよ。絶対」

「……ぅ、に」

 ゆめはいつの間にか涙をためている。あんなこと言っちゃったんだし、そうなるのもわかるつもりだけど。

「ゆめ」

 あたしはゆめの手を取る。

「……ふぁ?」

 そのまま両手で包み込んで、それからあたしの顔に持って行って、頬に添えた。

「あたしはゆめが好きなの。この手が好きなの。この手がいいの。気持ち良くないなんてこと全然ない。あたしはゆめが好きなんだよ。愛してるんだよ。今だってこんなゆめを見て、可愛いって思うし、ますますゆめのこと好きになった。大体、さっきのだってあたし信じられないくらいに気持ちよかったよ。この手が、ゆめが好きだからね。だから、不安がることなんて全然ない。ゆめの全部があたしの大好きなゆめだから」

「……ほぁ」

 ゆめがあたしを見つめてる。ぽーっとしながらあたしを見てる。

(……すごいこと言ってるなぁ〜)

 美咲にだってこんな風にいったことないのに。

 みるみる体が熱くなっていくのがわかる。

「ちょ、ちょっと、なんか言ってよ」

 それに耐えられなくてあたしはゆめの手を思わず離すと。

「っ」

 ゆめが抱き着いてきて。

「……大好き。大好き。……大好き」

 単純な、けど心のこもった好きをもらった。

「あたしもだよ」

 同じくらいの気持ちを込めたあたしはゆめを抱き返す。

「………………ロリコン」

 今日何度目かわからないほどのその言葉。でも、今はその理由がわかって。

「そ。あたしはちっちゃなゆめが大好きなの」

 軽口をたたいて、あたしたちは

「んっ……」

 再びベッドに倒れ込んでいった。

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