「……………」

 今日もまた視線を感じる。

 部屋の机でパソコンをいじっているあたしの背後から、妙な視線。

 ベッドであたしの枕を抱いているゆめが何か言いたそうな様子だ。

(ゆめにしては珍しく何も言ってこないな)

 ゆめが何か悩んでいるというか、あたしに含むところがあるのは来た時からなんとなく気づいてた。ただ、そのうちゆめから言ってくるだろうとほっといてたんだけどなかなか言い出さない。

(そういや、前もこんなことあったっけ)

 ゆめの部屋でごろごろしてたらゆめがじっと見てきて

(あの時はいきなり体が目的とか言われたんだっけか)

 なんてことを思い出しながらあたしはイスごと振り返ってゆめに問いかけてみることにした。

「なんか言いたいことでもあんの?」

「……別に、ない」

 あらら。絶対あたしに何か言いたいことがあるんだと思ったんだけど。予想が外れたらしい。

「……考え事してた、だけ」

 ただ何か悩んでるみたいなのは当たってたらしい。

「ふーん。何考えてたん」

「……彩音のいいところを考えてた」

(……また予想外な展開だなこれは)

 お互いもうこれ以上ないほど知り尽くしてるのに今更何を考えるって言うんだか。

「なんでまたそんなことを」

「……この前クラスで彩音のどこがいいのかって聞かれた」

「へぇ」

 って、前もこんな展開だったような。

「で、なんて答えたわけ」

 自分でこれを聞くのも変な感じだな。

 大体ゆめから見たらあたしって女神様みたいに映ってるんじゃない? 少なくてもいいところばっかだよね。

 さらには好きな人補正もかかるだろうから、誇大して伝わっちゃうんじゃないかなー。

 なんてあたしが勝手に有頂天になっていると。

「………何にも答えられなかった」

「へ?」

 あまりに想定外のことを言われる。

 しかもいつもよりちょっと落ち込んだ表情で。

「……彩音のいいところなんて思いつかなかった」

「え? いや、そ、そんなことはないっしょ。なにかしらは出てくるでしょ? ねぇ」

 正直ゆめからそんなことを言われるとは思わなくてあたしは思いのほか動揺する。

「……だって、彩音は鈍感だし、すぐ浮気するしいつも私にいたずらばっかり」

「へ……え?」

 うそん。でもゆめは冗談をほとんど言わないし、これは本気だってわかっちゃう。

「で、でもなんかあるでしょ」

「…………………」

 真面目な顔で見つめられてる。探るような目で。つまり本気であたしのいいところが思いつかないらしい。

 確かにいきなりいいところを言えっていうのがそんなに簡単じゃないのはわかるよ。相手のことを全部知ってるつもりでも改めてどこが好きとか言われると困るっていうのはあるんだと思う。

(けど、いくらなんでも何もないってことはないでしょ)

 たとえばゆめのどこが好きって言われれば小さいところっていうのがまず上がるし、素直に見えて素直じゃないところとか、若干ツンデレなところとか、どう見ても年下にしか見えないのにお姉ちゃんぶろうとするところとか。ほらちょっと考えただけで簡単に出てくる。

 なのにゆめがあたしのいいところでないとかありえないでしょうが。

「じゃあ何? ゆめはあたしのこと好きじゃないわけー?」

「大好き」

 ノータイム。

 さすがにちょっと落ち込んじゃったけど、こうやってはっきり言われれば安心できる。

「ならそれでいいじゃん。別に無理にいいところなんて考えなくても、あたしがゆめを好きでゆめもあたしを好きならさ」

 ベッドに上がったあたしは背後からゆめを抱きしめながらそうささやいた。

「…………うん」

 あたしの腕の中でゆめは頷いてくれたもののちょっとだけ普段より間がある。それは本当にほんのわずかだったんだけどゆめの中でこの話が完全に納得したわけじゃないんだなっていうのはわかった。

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