ゆめが隣室の早乙女莉沙と奇妙な縁を作って数週間。
莉沙との関係は最初の一回で途切れることはなく、あの日以来定期的にゆめを尋ねるようになっていた。
基本的には一緒に食事をするということがメインで、食材を提供してくれたりお手製の料理を振る舞ってくれたりなどし、持ちつ持たれつの関係にはなっている。
彩音や美咲も大人の人と話すということは貴重でそれなりに現状を受け入れているが。
「それじゃあ、ゆめちゃん、またね」
「…………頭を撫でないで」
この日も夕食を共にした後、部屋へと戻っていく莉沙を見送りに行くとゆめは自然と頭に触れる莉沙に不満そうに漏らす。
「だってゆめちゃん可愛いから」
「……理由になっていない」
「んー、そんなことないと思うんだけどなぁ」
言いながらもゆめを撫でる手を止めない莉沙にゆめは腕を払いのけ、すでに靴を履いている莉沙からは届かない位置に下がる。
「あー、残念」
言葉とは裏腹に愉快そうに言って、「まぁいいや」と続ける。
「また今度ね」
「……………………」
またご飯を食べにくるということなのかまた頭を撫でに来るということなのか判断に困るゆめはしばらく黙った後、ようやくドアを開けて出て行こうとする莉沙に控えめにまたと声をかける。
「うん、じゃあね」
と、声をかけてもらえたのが嬉しかったのか明るく言って莉沙は部屋を出て行った。
「……むぅ」
ゆめは何とも言えない感想を口にしてからドアに背を向けると恋人たちのところへ戻っていく。
「おかえり、今日も大変みたいだねぇ」
「……困った大人だ」
「私は嫌いじゃないけど、ゆめもお茶おかわりする?」
「……もらう」
夕飯の片付けも終わり一服をする二人に近づきテーブルを囲む。
美咲が淹れてくれたお茶を手に取ると、彩音がそういえばと口を開いた。
「このアパートってさ、この部屋の大きさが普通だったじゃん?」
「……? そうだが」
「あぁ、そうね。ルームシェアするのが普通の大きさよね」
ゆめが彩音が何を言おうとしているかわからなかったが、美咲は彩音の言いたいことに気づき補足をする。
「莉沙さんも誰かと住んでるのかな?」
「部屋の大きさと家賃を考えればそうなんじゃないかしらね」
ちなみに部屋の家賃は月十万円を超える。三人で分割して払っているゆめたちはともかく、二十代の社会人の女性が一人で払うには重すぎる金額だ。
「その割には一緒に住んでる人の話って聞いたことないよね」
「まぁ、そうね。あまり付き合いの好きな人じゃないのかも。あとは生活のリズムが違ってたりとか」
「けど、一緒に住んでるなら少しくらいは話題になってもいいんじゃない?」
「まぁ、まったく話さないっていうのは確かに少し妙かもね」
「………………」
二人の会話に口をはさむことなく、ゆめは初めて莉沙を招いた日のことを思い出していた。
あの日、泣いていたのはもちろん空腹だったからじゃない。
それはわかっている。
(確か、部屋にいると色々考える、とか言ってた)
それが今の話に結びついているような気はするが……
(………………)
今はまだあまりにも情報が少なくて二人の想像に満ちた会話を耳にしながら熱いお茶を飲むだけだった。