都合よく、と言えばいいのかこの日は莉沙が夕食を作りに来る予定でゆめはその手伝いをしていた。

「……………」

 莉沙がやってきたのはもう何十分も前ではあるが、ゆめはその間ほとんど口を開くことなく莉沙の様子を観察しながら、昼間の女性のことを考えていた。

「ゆめちゃん、ちょっと鍋見ててくれる?」

「…………」

 初めてここで夕食を作った時から思っていたが、莉沙は大分料理に手慣れているようだ。包丁使いから、下ごしらえ、作業の合間に別の作業をするなど動きに無駄もない。

「ゆめちゃーん?」

「……………」

 そういえば彩音が料理を褒めたときに「食べてくれる人がいると違う」と言っていたことを思い出す。

「おーい?」

「……………」

 それに確かにこのマンションに住むのなら誰かと一緒というのが普通だ。

「ゆーめーちゃん」

「……ひ、にゃ!?」

 思考に固まっていたゆめだが、不意にほっぺを引っ張られ妙な声をあげてから反射的に下がった。

「どうしたの? ボーっとしちゃって」

 莉沙がそこにいるということを意識したゆめは花柄のエプロンをつけた莉沙を改めて見つめ

(そういえば)

 と思い出す。

 初めてまともに会話をした日。

 何故か部屋の外で泣いていた。

「って、あれ? ゆめちゃん?」

 今の少ない情報とあの女性を結びつけていいのかわからないが、今思うとあの女性の目はあの時泣いていた莉沙の目にも似たせつなさが宿っていたような気がした。

「……誰かと一緒に住んでる?」

 ゆめは莉沙のこれまでの問いかけすべてに無視をしてそのことを問いかけた。

「っ……ま、また突然だね」

 唐突な問いに莉沙は一瞬ひるんだようにも見えた。もっともゆめがそう見ているから、かもしれないが。

「どうしてまた急にそんなこと聞いてくるの?」

「………今日、部屋の前に人がいた、から。背の高くて、胸の大きい人」

 印象に残った特徴を口にするゆめ。

 今の条件にはまる人間ならいくらでもいる。

 だが、

「……へぇ」

 莉沙は憂いの帯びた顔でそう言う。

 それは初めて莉沙を見たときのように見ている相手を不安にさせ、同情も誘う表情だが

「物騒な世の中だねぇ。ゆめちゃんも知らない人とお話しちゃだめだよ」

 一転、茶化したように空気を一変させる。

「………………」

 明らかに誤魔化そうとしていることはわかる。

 が

 今はまだ追求する根拠に乏しく、また莉沙も言葉にせずこれ以上聞くなと言ってきていることを察知し、

「……子供扱いするな」

 とよくあるやり取りに戻っていった。

 

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