仲直りしてからしばらくしたある休日。
あたしたちは朝っぱらからゆめに呼び出されてゆめの部屋を訪れていた。
約束してたわけじゃなくて、いきなり起き抜けに電話がかかってきた。
あたしは遠慮なくベッドに寝そべって、美咲はゆめの机のイスに、ゆめはベッドの縁に座ってとりあえず適当な話をしている。
「で、なんなのゆめ? 話って」
ある程度時間がたっても中々切り出さないゆめを美咲が促す。
「……ゆめの話」
「ゆめ? あ、夢ね、夢」
ややこしいなぁ。名前に文句つけてもしかたないけど。
「で、どんな夢みたわけ。あたしたちにわざわざ電話で、呼び出すなんて」
「……ずっと先。大学生、だった」
「また先の話ね。で、どんな夢なの?」
「……彩音と美咲と、住んでた」
「住んでたって、同じ部屋?」
「……うん。いつも…一緒。楽しい」
楽しいっていうならもう少し楽しそうに言いなって。
体を起こしてみて、ゆめの顔を覗いてみてもいつもと変わらない。キラリと光るめがねの奥は涼しい目。喜びも欣幸も見れない。
ま、ゆめが楽しいって言うんならそうなんだろうけど。
「……ご飯は美咲が作ってくれる」
「私、料理できないわよ」
「…………お風呂も、一緒」
「大学生が借りるような部屋で三人入れるとは思わないけどな」
「…………いじわる」
立て続けにゆめの夢を否定されたせいか文句を垂れる。
「はいはい、夢のことなんだから色々大目に見ろってことね。で、それがどうしたのゆめ?」
「……それだけ」
「え? なんじゃそりゃ」
「他に言いたいことがあるから私たちを呼んだんじゃないの?」
「……やっぱり、いい。現実、的じゃ、ない」
ゆめにしてはめずらしく、まごまごとして表情にも戸惑いが出てる。
あたしは首をかしげながら、そんなにおかしなことを言おうとしてるのかな? と思ったけど、机のイスに座り脚を組んで偉そうにしていた美咲がもしやと言った感じの顔をする。
「あれじゃない彩音? その夢みたいになりたいとかいいたいんじゃないの?」
「まっさか〜。大学はいくだろうけど、そんな三人とも同じところからいくようなところに……ってゆめ?」
「……あたり」
「え?」
「あら、私も結構適当にいったつもりだったんだけど」
「………………」
あんまりあたしたちが乗り気に話してないせいかゆめは少し寂しそうに俯く。
こんな姿見せられると慰めてあげたくなっちゃうねー。
「…………一緒に、住むの、いや?」
小首をかしげて扇情的な声と顔。
やっばー。欲情しちゃいそう。
あ、冗談だよ。冗談。
「私は嫌じゃないわよ。もちろん」
「あたしも。やなわけないって。あたしだってゆめが思ってくれるように二人といるのが一番楽しいんだから」
「…………嬉しい」
「でもさ、本当にそうなったら楽しそうだよね。料理とか一緒に作ったりさ、休みの日の前はいつも遅くまで話したり、掃除とかだって三人でやれば楽だし、楽しいと思うよ。ま、お風呂一緒に入るってのは無理だろうけどねー」
「そうね。そうなったら……ううん、しましょうか。実際、どうなるかなんてわかんないけど、そんな風になれるように頑張ってみるのも悪くないんじゃない?」
「……本当?」
美咲の結構突飛な発言にゆめは期待を込めながら問い返し、あたしはそだねと頷く。
「なんかそう考えると、これから色々頑張っていけそうだもん。うん。大学生になったら、みんなで一緒に住もっか」
「一番心配そうなのは彩音だけどね」
「あによー。あたしだって目的のためならやれるよ」
「……頑張れ。私も、頑張る。だから……約束」
ゆめは嬉々とした様子でそういうと、小指を軽く前に出してきた。
あたしと美咲は一瞬顔を見合わせるとゆめの意図を察してあのとき、キスしたときみたくゆめを中心にベッドに座った。
「約束ね」
「うん、約束」
そして、ゆめの差し出している小指にあたしたちの小指を絡めて口々に約束と述べ、ぎゅっと力を込めて、あたしたちは未来への約束を交わすのだった。
そして、あたしたちは歩き出す。
いつか、くるあたしたち三人への夢に向かって。