「それでもうキスはしたの?」

 

 アイカツアイランドから帰ってきてから少しして。私、虹野ゆめとローラは正式にお付き合いを始めました。

 告白してくれたのはローラから。

 レッスンが終わった後二人きりになってアイカツアイランドでの思い出を話している時に好きだって伝えてくれたの。

 あの島で見た夕陽のように真っ赤な顔。不安と期待の混ざった水晶のように澄んだ瞳。

 真剣な想いを向けてくれるローラに私は考える前に告白の答えを返してた。

 私もローラのことが好きだよって。

 だって、この四ツ星学園に入ったときからローラとはずっと一緒にいてそれが当たり前だった。

 アイカツアイランドで初めてあんな風に喧嘩をしたけど、だからこそ余計に私にはローラが必要だってローラと一緒にいたいんだって気づけたから。

 もうローラと一緒じゃないことなんて考えられないくらい私は……ううん、私達はお互いのことを想いあっていたの。

 そうして私とローラはお付き合いを始めた。

 そのことを誰にでも話すつもりじゃなかったけど、小春ちゃんには報告をしておきたくて私と小春ちゃんの部屋で関係のことを伝えたの。

 小春ちゃんは驚いた様子もなく「もっと前から付き合ってるって思ってた」なんて言ってくれてそんな風に思われていることにむしろびっくりだったんだけど、それよりも驚いちゃったのがこの言葉。

「それでもうキスはしたの?」

 あのおとなしそうな小春ちゃんから出てきたそんな言葉に私たちは顔を真っ赤にしちゃう。

「そ、そんなの全然まだだよ。ね、ねぇ、ローラ!?」

「そ、そうよ。何言ってるのよ小春」

 私もローラも一瞬お互いに視線を送りあってから慌ててそう言った。

「ふふ、二人とも。可愛い」

 小春ちゃんはいつもみたいに笑うけど、私達は突然の固まっちゃって

 しかも

「あ、私これから美組のレッスンがあるからそろそろいくね。ローラ、ゆっくりしていって」

 そんなことを言って部屋から出て行っちゃった。

「…………」

 取り残される私達の間には変な沈黙が流れる。

「あ、はは。キス、だって……」

 黙ってると余計に小春ちゃんに言われたことを考えちゃいそうで乾いた声でそう言ってみる。

「こ、小春って、意外と耳年増なところあるわよね」

「そう、だね」

(うぅ……うまく話せないよ)

 小春ちゃんにキスって言われた時から胸が妙にドキドキしちゃって口が回らない。

 でも黙ってるのもなんだか妙な感じがして何か言わなきゃって気持ちになる。

「そ、そういえば、ファーストキスはレモン味なんていうけど、ローラとしたら酢こんぶの味がしちゃいそうだよね」

「酢こんぶの何が悪いのよ。っていうか今は食べてないし」

「え、い、今?」

 ローラは深い意味があって言ったわけじゃないかもしれないのに私はその言葉に過剰反応しちゃって、ローラも

「ぁ……」

 なんて小さい声をあげたりなんかするから余計にどうすればいいかわからなくなっちゃう。

「ゆめ……」

 ローラが私の名前を呼ぶ。

 小さくて可愛らしい桜色の唇が私の名前を紡ぐ。

(っ……どうして私、こんなにドキドキしてるんだろ)

 ローラに見つめられることも、名前を呼ばれることもいつものことなのに。

 なんだか胸のドキドキが止まらないよ。

「ローラ……」

 高鳴る鼓動に翻弄されながら私も同じように好きな人の名前を呼んだ。

「……………」

 再び訪れる沈黙。

 それはさっきとは違う意味を持ってるような気がした。

(ど、どうしよ。これってどうすればいいのかな)

 ローラが今は食べてないってそういう意味?

 うぅぅ、ローラなんで何も言わないんだろ。

 目を閉じたりしてくれれば、そういうことかなって思えるのに。

 それとも私から目を閉じた方がいいの? でもそうすると私から誘ってるみたいだし。

 ローラにそのつもりがなかったら……

 というか本当にする、ところなの?

(ローラと、キス)

 頭の中にその光景が浮かんじゃう。

 ローラの手が私の頬に添えられて、私はゆっくりと目を閉じて……それからローラのあの小さくて可愛い唇が迫ってきて、「ゆめ」なんて甘く呼ばれて、そして……

「ゆめ?」

「っ、わわわ!?」

 想像の中でローラと重なる瞬間、本物のローラに呼ばれて私は現実に帰るけどいつの間にか身を乗り出して迫ってきていたローラの姿に頬を染めちゃう。

「…………………」

 あの島で仲直りした時みたいな距離。

 ほんの少しの勇気と気持ちがあれば二人の距離はゼロになる。

「んく……」

 妄想の中じゃなくて本当にローラと私が一つになる。あと、ほんの数センチで……

 目を閉じたい。目を閉じてほしい。

 手を取りたい。手を取ってほしい。

(ローラと、キスが……したい)

 体の裡から次々に湧き上がる衝動に翻弄されながら、私は……

(私は………)

「そ、そろそろ私達もレッスンいこっか」

 心を裏切ってそんな言葉を吐いていた。

 だって、もししたいって思ってるのが私だけだったりしたら耐えられないもん。

(焦らなくても大丈夫、だよね)

 ローラとはこれからだっていつも一緒なんだもん。付き合ってからまだ少ししか経ってないんだしこれから先もっとそういう時はくるよね。

 なんて私は能天気に考えちゃってた。

「……うん」

 ローラの想いに気づけずに。

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