「ふぅ……」
はるかさんがいなくなった保健室で私は一人ため息をつきます。
ため息ではありますけど、安堵の吐息とも言えるかもしれません。
「あーあ、まずっちゃいましたね」
はるかさんが来る前に咄嗟に捨てちゃいましたけど、迂闊でした。
普段はるかさんの前じゃ苦しくなっても我慢するのですが、誰もいないときには気が緩んでさっきみたいなことになってしまうこともあります。はるかさんに限らず知られたくはないのでトイレの個室だったりで姿を見られないようにとすることも多いですけど、不運なことっていうのはありますよね。
「ま、鍵かけておいたのは正解でしたか」
少し調子悪いのは自覚してたので咄嗟のときのためと鍵をかけておいたのは大正解だったようです。実際に現場を見られるのとでは全然違いますから。
「それにしても彩葉さん、はるかさんにどうも余計なこと言ったみたいですね……ふぅ。どこまでいったかわかりませんけど……っ! ごふ!」
私は今までずっと我慢していたせきをしてしまいます。
「ごほ、ぐ、かっ、は、ごほ!」
何度も何度もせきを繰り返して、胸のうちから痛みが広がって、それがのどを通ってきてしまいます。
そして、口の中に嫌な鉄の味を感じると
ゴプ。
口元を押さえた手に赤い艶やかな、私の命といってもいい血が手のひらに広がりました。
「……………」
そして、さっきのはるかさんの顔を思い浮かべます。
(……はるかさんのあんな顔始めてみましたね)
本気で私のことを心配してくれたからこそ、あんな表情ができるってわかります。
でも、だからこそ……
「言えないですよね……やっぱり」
私はそう呟いて、口の端に流れる私の命をつむぐ糸をぬぐうのでした。