ゆめは彩音の家にはフリーパスだ。
大抵は連絡をしてからいくが、会いたくなれば彩音の家を訪れいなくてもそこで待つことも多々ある。
そんなわけで今日もゆめは無断で彩音の部屋を訪れていた。
「……………」
そこに迎えてくれる相手はいなかったが、人がいなかったわけではない。
ゆめは部屋を一望するとまっすぐにベッドに向かって行った。
「………ぐぅ……ん」
そこにはゆめが訪れたことにも気づかずにお昼寝をする彩音がいた。
美咲はどこかに行っているらしく、部屋には彩音一人だ。
「……………」
ゆめはベッドの前に腰を下ろすとじぃーっと彩音のことを見つめる。
その表情はどこか不満気だ。常人ほどはっきりとは現れていないが彩音や美咲であればそれは容易にわかる。
もっとも、彩音の場合はその理由までは察することができないかもしれないが。
はっきり言えば、自分が来ているのに彩音が寝ているというのが気にくわない。連絡をしていないのだからそれに文句をいう権利すらないような気もするが、それでもゆめは彩音に起きてかまって欲しかった。
ムニ。
そんな不満が行動に出た。
小さなその手で彩音のほっぺを引っ張る。
「………起きろ」
それは容赦なく意識があればかなりの痛みを感じるかもしれないが、彩音は意に介することなく寝息を立てた。
それがまたゆめの不満を誘う。ただ、さすがにこれ以上する気にはなれず一端は距離を置いた。
「……………」
だが、再び彩音の寝顔を見つめているとゆめの中であるものが芽生える。
ほっぺをつねっても起きなかった。
つまり
(……他のことをしても起きないかもしれない)
「……………」
ゆめは何かを考え込むようにしながら彩音を見つめる。
「……寝てる?」
それをわかっているはずなのにゆめは問いかける。
「……………寝てる」
今度は軽く頬を引っ張って自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
それからきょろきょろと誰もいないのがわかっているのに周りを見回す。
「………………………寝てる」
最後にまたそう言ってゆめは立ち上がると、そっとベッドに上がった。
ドクンドクンとゆめは自分の胸がなっているのを感じる。これからすることなんてもう数えきれないほどしている。
けれど、自分からするのはあまりないしまして寝込みになど初めてのこと。
いくら好きあっていても、連絡もなしに家にきて無断でしていいことじゃないかもしれない。
(……いけない、こと?)
かもしれないとはゆめも思う。
しかし、体の下にある彩音の顔を見つめるといけないと思う気持ちよりも、芽生えた欲のほうに心の天秤が傾く。
(……私だって、いつもされてる)
寝ているのだからそうなのかわからない。それでもゆめは言い訳するように心で言ってから、彩音へと体を重ね。
ちゅ。
彩音にキスをしていた。
(……あったかい。……ぷにぷに)
いつもされてばっかりのゆめは彩音の唇の感触を楽しむように確かめる。
(……気持ちいい)
触れ合っている唇の感触がたまらなく心地いい。重なった肌から彩音の熱を感じてそれがさらにゆめに昂ぶりをもたらす。
「……ふぁ」
それでも数秒でゆめは唇を離すと、ベッドの上にペタンと座った。
「…………」
予想外のキスの高鳴りにゆめはぽーっとした表情で自分の唇に触れてキスの感触を思い起こす。
(……もう一回)
積極的にそう思ってゆめはもう一度彩音と唇を重ねた。
「…………」
今度も同じように気持ちいいと思う。同じように体が熱くなって。
ペロ
舌先が彩音の唇を撫でていた。
「っ……!」
瞬間、途端に恥ずかしさが噴き出して思わず体ごと引く。
それ以上のキスだってもうかなりの経験があるというのにまるで初めてキスをしたみたいな緊張感を感じてゆめはみるみる赤くなる。
「う……に」
なんでそんなことをしたのかゆめ自身理解できていない。気づいたら舌が出ていた。
「………っ」
それがすごくいけないことのようで、恥ずかしくて……
ボフン。
火照った体でベッドに倒れ込んだ。
顔を横にして彩音の横顔を、唇を見つめるゆめは
「……………バカ」
とつぶやく。
その顔は意識的の感情を抑えようとしながらも抑えきれずに面映ゆげだ。
その後ゆめは黙り込んで、彩音にそっと寄り添うとそのぬくもりに今度ははっきり嬉しそうな顔をしていつの間にか彩音とともに寝入っていった。