楽しいときほど時間は早く過ぎちゃうもので、そろそろ帰らなきゃいけない時間になった私は先輩に見送られながら門のところまで来た。
「あーあ、もうはるかさんとお別れなんて残念ですね」
「また明日学校で会えるじゃないですか」
「そうですけど、なんかはるかさんてお別れのとき淡白ですよね。寂しく思ってくれないんですか?」
「そ、そんなわけないじゃないですか!」
だって……寂しいって言ったらきりがないもん。だったら少しでも名残惜しくなる前に別れたほうがいいもん。
でも、そんなことは先輩に言わない。そんなこと言ったらまた調子乗って何するかわからない。
「……まぁ、いいですけど」
先輩はちょっと不満そうだけど、そんな顔も可愛い。
思わずそれに見とれていた私は先輩の微妙な表情の変化に気づく。
(……何か、言ってきそう)
新しいいたずらを思いついたというような楽しそうな顔。
「あ、そうだ、遠野さん」
ほら来た。
「忘れ物してました」
「え?」
何か変なことでも言われるんじゃって思った私は拍子抜けして、息を吐く。
けど、それが迂闊だった。
油断していた私に先輩が迫ってきて
チュ
キス、されちゃった。
(あ、やっぱり、先輩の唇って柔らかくて……っ!!???)
じゃなくて!!
「な、ななな、なにするんですか!!!」
「だから、忘れ物を回収しただけですよ」
クスクスと小悪魔のように魅力的に笑う先輩。
「恋人が部屋に来てくれたのにキスの一つもしないんじゃさみしいですからね」
「っ〜〜」
嬉しそうにする先輩とは対照的に私はわなわなと色んな想いに揺さぶられて体を震わせる。
その想いが高ぶって私が先輩に仕返しをしようと思いついた瞬間。
「さて、じゃあ。私も戻りますね。はるかさん、また明日」
と、まるで私が何をするかわかっていたようにあっさりきびすを返して家に向かっていってしまった。
「……………」
やりきれない想いを抱えさせられた私は……
(先輩のバカーーーーーーー!)
と腹を立てて先輩の背中を見つめるのだった。