先輩のこと、好きなんだ。
私、先輩のこと、本気で、好きなんだ。
自覚してから頭の中が今まで以上に先輩一色で埋め尽くされた。
先輩のことしか考えられなくなった。
一週間、一週間もたった。
あの日こそ、朝から目を赤くして授業なんて受けてられなくて学校さぼったけど、それ以来はちゃんと毎日学校にはいっている。
でも、保健室には絶対に近寄らないようにした。保健室の前が通り道になるときもとにかく遠回りをして、先輩に会わないようにした。
会えなかった。
だって……
(こんな、気持ち知られたら……きっと嫌われちゃう)
そう思えて、ずっと先輩に会いにいけなかった。
嫌われちゃう。こんなの、こんな気持ち、知られたら。
女の子、同士なのに……好きだなんて。
本気で、好きだなんて。
先輩だって私のこと好きっていってくれてる。
だけど、先輩はあくまで私のことを【友達】として好きって言ってくれてるの。
でも、私は違う。
私が先輩のこと好きなのは友達としてじゃない。それよりもはるかに強い想い。
私は、先輩のこと私だけのものにしたい。ううん、それどころか前からそう思ってた。先輩は私のものだって、私だけのものなんだって勝手に思ってた。
なのに、違った。先輩には先輩の人間関係があって、先輩が私のものだなんて私の勝手な思い込みだった。
でも、先輩だってひどいよ。
あんなふうに、友達としてとはいえ、私のこと好きって何回もいってきたり、先輩なりの友情表現は普通に考えれば友達以上の行為だし、先輩は私だけを見てくれてるって思っても不思議じゃない、じゃない。
けど、
(きっと、あんなこと、他の人にもしてるんだ……)
好きっていってるんだ。
そんなことを考えると胸が痛い。
この一週間何度も同じようなこと考えてるのにいまだに涙が出てきそうになる。
ちらと見ただけの先輩のクラスの委員長さんやこの前廊下で先輩と話してた人と…………キス、するところが思い浮かべたくもないのに勝手に頭の中で再生されて、涙が止まらなくなる。
(寂しい、です……)
ずっと、私だけのものだったのに。もう、十日も話してない。
好きなんだって気づいて以来、先輩が一年生の廊下に来たのは見てない。来てくれない、十日も話してないのに、私に会いに来てくれない。
きっと、私の代わりなんていくらでもいるんだ。
(……私は先輩の、特別じゃないんだ)
それどころか、【代わりのきく友達】にすぎなかったんだ。
特別だったら私に会いに来てくれたはず。
勝手に私が先輩は私のものなんだって思い込んでただけ。
そう考えると気持ちは沈んでいくけど、心の中に大輪を咲かせている先輩への気持ちが枯れるなんてことはない。
こんなのおかしいって思う。普通じゃない、って……思うけど、わかってるけど
「…………好き、大好きなんです、先輩………」
好きな気持ちはとめられない。おかしくても、普通じゃなくても好きって気持ちは胸からいくらでも溢れて、心にためて置けなかった気持ちが、涙になってこぼれていく。
好きだから。本当に、本気で好きなんだから……
「っ、先輩……」
そして、涙を流しながら私はその日も眠れない夜を過ごすのだった。
先輩……
次の日も、私は先輩のことしか考えられないで学校に来ていた。
(せんぱい。せんぱいっ……せん、ぱい……)
体育の授業中だっていうのに私は、相変わらず先輩のことを考えてぼけっとしている。
授業中どころか、最近の私は朝も昼も夜も、先輩。寝ても覚めても先輩のことしか考えられない。
一日中どころか、夢でも先輩のことを考えてる。
(先輩、今なにしてるんだろう……)
授業中なんだから保健室で誰かと会ってることはないと思うけど、でもそんなの私の想像でしかない。もしかしたら、本当は授業中はクラスにいて、あの委員長さんと話してるのかもしれない。そういえば、あの人綺麗だった、私なんかよりも全然。クラスだって一緒だし……お似合い……
それとも、あの一年生? あの子、顔もみたくないけど、前保健室で影だけみたのと一緒の人なら、あれもきっと授業中から話してた、一年生ならお昼のときまっすぐ向かったのに先にいたことを考えると授業中から話してたとしか思えない。
そっか、授業中に隠れて会ってたのかな? 授業中なら私がくることなんてないもん。
わざと、私が会わないようにしてたんなら……
(…………遊ばれてた、だけ、なのかな?)
心が奈落へと落ちていくような絶望感。
だから……会いに来てくれないのよ……
こんなに、先輩のことを焦がれてる。
会いたい。話したい。
でも、怖い。
(で、でも……)
好きでもない人に、キスなんてする? しないよね? しないわよね?
いくらからかうのが目的だったとしても、遊んでたんだとしても少なくても嫌いじゃないと思う。もしそうなら、キスなんかできない、傷なめたりできない。あんなに親切に勉強教えてくれたりしない。……あんなジュース一緒に飲んだりしない。
そう、そうよ。だから少なくても嫌われてはない、むしろ好意的には思われてるって思う。
じゃなきゃ、おかしいもの。
(うん、だから……少なくても友達には思ってくれて……る、わよ)
きっと。
うん、きっと。そう。
(だけど………)
それも全部私で遊ぶための、演技、だったら……
浮かびかけていた心がまた別の自分に引っ張られて落ちていく。壊れてしまいそうな心がふわふわと自分に左右されてる。
浮かんだと思えば沈んで、沈んだかと思えば浮かんで。その繰り返し。
でも、結局最後は
(……友達として、好きっていってくれてても……)
私がそれ以上に、友達以上に先輩のこと好きだなんて知られたら……
きっと……嫌われちゃう。
結論がここに来る。
嫌われちゃう、嫌われちゃう……先輩に、大好きな先輩に。
私の、先輩に。
(先輩は……先輩は……私の、だよ……。私のだけのもの、なんだから)
自分勝手な私。一週間も会いにきてくれてないってことでもう先輩の特別じゃないのは明白なのに、先輩を私のものって思う。
私だけのものにしたいって思う。
こんなこといくら思っても、先輩に気持ちを伝えるどころか会いにいく勇気さえないくせに。
(先輩……)
会いたい、話したい。
でも、私の気持ちを知られたら………
私は授業中、しかも体育の最中だっていうのに先輩のことしか考えてなかった。周りを見ようとしてもいなければ、音すらまともに拾ってない。脳の九割を先輩に支配されながら残りでせいぜい邪魔にならないように動いていたつもり。
だけど、周りに気を使ってないのだから必然的に突発的なことには反応できなくなる。
「あぶない!!」
「え……?」
だから、バレーボールの最中にいきなりアタックも来ればよけられるはずもなく……
バン!!
情けないことに直撃をもらって
ガツン!
さらには受身を取ることすらできないで硬い床に倒れこんでしまった。
「はるか!!」
「はる」
「遠野さん!」
なんて、友達や先生が私を呼ぶのをどこか遠くに聞いて私は意識を失ってしまった。
先輩のことを考えすぎてるせいか、夢でも先輩を見ることがほとんどだった。
その夢はあんまり楽しいことはない。先輩と今では過去になった【いつも】みたいにただ話してるっていう、楽しい夢を見ることもあるけど、ほとんどは先輩がほかの人といるところを目撃する夢、学校中さがすのに先輩を見つめられない夢なんかをよく見て、一度だけ、気持ちを伝えて
「んっ……やだ、先輩……」
その夢は詳しく覚えてなかった。
だけど、起きたとき枕が濡れていて、どんな結果だったかは簡単に想像できた。
だから寝るもの怖くてあまり寝れてなかった。そのせいで体は睡眠を求めていたんだろう。だから、意識を失ったときにそのまま眠ってしまって、保健室に連れて行かれた私は。
やっぱり夢を見た。