あの約束からそろそろ一週間。
幸いにして先輩はあんまり人のいるところにこないから多分、お姉さまって言っているところは見られてないと思うけどそもそも【お姉さま】ということ自体恥ずかしくてたまらない。
なんでそんな風に呼ばせるのか聞いてみたけど、
「やっぱり定番じゃないですか」
と、よくわからないことを言われただけだった。
そんなわけで負い目を感じてる私はお昼や放課後、先輩に会いにいける時間はなるべく【お姉さま】に会いに行っていた。
今日はお昼を一緒にして、放課後も先輩に会いにきてる。
「遠野さん〜、せっかく来てくれてるんだからお話しましょうよ〜」
ただ、私もやることがあるので完全に先輩の相手だけをしてるわけにもいかない。
「この課題明日までなんです。テストだって近いし、お姉さまの相手だけしてるわけにはいかないんです」
「むぅー、つまらないです」
先生の机で私は問題集を広げて、先輩は隣で文庫本を持ちながら定期的に我がままを言ってくる。
「……………」
自慢にもならないけど勉強は得意じゃない。けど、だからって課題とかをさぼれるほど不真面目でもないから地道にやるしかない。
ただ、こうして古文と向かいあってると、気分が滅入ってくるときには英語以上にわからなかったりもするし。
ふと、顔を上げると先輩は今度はおとなしく文庫本に集中していた。
(そういえば、先輩いつも漫画かゲームなのに今日は珍しく小説なんだ)
課題にむかっていたせいで少し気を紛らわせたかった。
ほんの少しの好奇心だった。
「お姉さま、何読んでるんですか?」
「ん、これですか?」
「はい、いつも本読んでても漫画なのに小説読んでるなんて初めて見ましたから」
「遠野さんもちょっと見てみます?」
好奇心。
こんな先輩がどんな本を読んでるかには興味をそそられた。
だから、差し出された本を受け取って、開かれたページを見てみた。
「お姉さま……」
春菜は少女のようにほぅっと顔を情熱色に染め上げ、理香子を呼んだ。
「ずっとお慕いしてました……お姉さま」
「えぇ、知ってたわ」
理香子は優しく微笑むと、白魚のような指を春菜の顔に添えると愛しむように春菜の頬をなでた。
「お姉さま……」
その行為に春菜はさらに想いを高め、幸せそうに理香子のことを呼んだ。
春菜の頬を撫でる指はつつーと顎のほうへ下っていき、顎までくると逆手にして唇を差し出されるかのように顎を持ち上げられた。
「春菜……ん」
そして、春菜のみずみずしい唇にふっくらとした理香子の唇が迫っていく。
「お姉さま。あむ……くちゅ、ぴちゅ」
「あん、ちゅ。くにゅ…可愛いわ、春菜」
「はぁん、お姉さま……」
理香子の舌が巻きつくように春菜の舌に絡みつき、あくまで優しく導くように愛していった。
『くちゅ…あは、あぁ、うぅあむ……好き』
思うが様に相手を愛し、理香子はわざわざ糸を引くように唇を離していった。理香子は二人の唾液が混じった糸を指に巻きつけ、
「あむッ!?」
春菜の口に突き入れた。
「ふふふ、どう?」
「はむ…あん、ペロ、はぁ……おいしいです」
まるで禁断の果実を食むかのように、理香子の指を舐めると春菜はうっとりと呟いた。
「ふふふ、緊張しないで、大丈夫よ優しくしてあげるわ」
「はい……お姉さま」
たおやかな腕でそっと春菜を支えながら理香子はゆっくりと目的の場所へ導いていった。そこへ辿りつくと、腰にまわしていた腕に力をこめ春菜のバランスを崩す。
「あっ……」
ボフン。
春菜は短い声を上げながら、理香子の手によってベッドの上に押し倒されてしまった。
「春菜……」
「お姉さま……」
理香子軽く春菜へキスをすると、ゆっくりとその手を春菜の制服へ………
バン!!
そこでやっと私は本を閉じられた。
「な、な、な……な、なんてもの読んでるんですか!!!?」
私は、読んでる間にいつの間にか息をするのも忘れてて顔を真っ赤にしながら先輩にすごい剣幕で迫った。
「ふふふ、どうかしたんですか?」
先輩は私がなんで怒ってるかわかってるだろうに、何にもわかってないようなイジワルな笑顔をしている。
「だ、だってこ、こんな……え……は、ハレンチなもの、それも、が、学校で……っていうか、学校かなんて関係なくて、こ、こんなの読んじゃ駄目です!」
「どうしてですか?」
「ど、どうしてって……だ、だって先輩は……女の子で女の子がこんなの読むなんて……えっと……と、とにかく駄目です!」
「お姉さまって呼んでくれないんですか? 【春菜さん】」
「私は【はるか】です!」
さっきの小説の登場人物の名前で呼ばれることにすごい不愉快な感じを覚えて文句を言うけど、先輩は何も気にしない様子で微笑んでいる。
「っ〜〜〜〜!!」
どんどん頭が沸騰していって、体は羞恥とよくわからない怒りで熱くなっていく。
もうっー、なんなの先輩はーーーっ! いくらなんでもこんな本読んでるなんて。ありえない! こんなんだから友だちが出来ないんでしょ! まったく、しかも私のこと変な風に呼んで! こんなの絶対駄目なんだから!
「っ〜〜! もう知りません!!」
私はバンと大きく机を叩くと慌てながら広げてあった問題集や筆記用具を片付けだすと、それを鞄にしまっていく、
「あ、遠野さん……?」
「さようなら!!」
そして、顔を真っ赤にしながら逃げるように保健室に出て行った。