「……んっ……」
数時間後。
二人の体が溶け合うような錯覚を受けるほどの濃密な時間を終えて私たちはベッドに横たわる。
「鈴ちゃん……」
私の残した痕が目立つ肌に目を奪われながら、私を呼ぶ蘭先輩に目を向ける。
(ありがとうか、ごめんなさい、かな)
今言われるとしたらそれが自然な気がする。
(……嫌なわけじゃないけれど)
そういわれることが嫌なわけじゃない。でも、なんだかそういわれるのは違う気がした。
蘭先輩と体を重ねたことを義務感みたいなものに置き換えられてしまうようなそんな言葉にできない気持ちが形になってしまいそうでなんだか嫌だった。
「……前貴女のことが嫌いだって言ったことあったわよね」
「っ。はい」
意外な言葉を吐かれて少し動揺する。
「………八つ当たりだったの」
「え?」
「私は、今の自分を後悔はしていない。お姉さまのことは今でも大好きだし、友達とエッチすることも私からしたら友達と映画や買い物行くようなもので楽しいことって思っている。……絢さんのことだけはともかく、それ以外のことは決して嫌じゃないのよ」
わからない、けれどわかる。自分の気持ちも矛盾しちゃっているけれど蘭先輩が言うことは理解はできる気がした。
「でも、同時に思うの。私にも普通に生きることが出来たんじゃないかって」
遠くを見るような目をして蘭先輩は言った。
「お姉さまと会わなければ、私はみんなと当たり前の学生生活が送れたのかもしれない。絢さんを傷つけて、傷つけられることなんてなかったかもしれない。どうして私は【普通】じゃないんだろうって悩んだことは一度や二度じゃないのよ。それは誰にも共感してもらえることじゃないのはわかっていた」
(なるほど、なのかな)
その時点でこの話がどこに繋がるのかをなんとなく察知して私は物悲しい気持ちになった。
「……でもそんなときに現れたのが貴女。私と同じ帰国子女なのに【普通】に生きてきた貴女。もちろん私が特殊な経験をしてきたって分かっていたわ。でも、私と同じことになっていてもよかったかもしれない貴女があまりにも普通なことに……虫唾が走ったのよ。自分が異常だっていう自覚と、普通の貴女への嫉妬。笑っちゃうでしょ」
確かに私からしたら許せるようなことじゃない。
私には何も非がないのに彼女に変えられてしまったのだから。
でも
「今更謝られたって私から何を言えばいいかなんてわからないですよ」
「……そうよね。ごめんなさい」
心の底から申し訳なさそうな顔をする彼女の横顔に胸が切なくなる。
「けれど……」
言葉が止まる。言うことが見つからないのと何が適切なのかがわからないから。ただ
「今は……蘭先輩のことを嫌いには思っていません」
心にある確かな想いを告げて
「……ありがとう」
ほほ笑む蘭先輩を綺麗に想っていた。
「……………」
静寂の中で私たちはお互いを見つめ合い
「ねぇ」
と、私に腕を絡めながらしびれさせるような声を囁き
「もう一回だけして」
私は溶けあうように再び体を重ねていった。