一年さんとまともに話すら出来なかった私は、部屋に戻ることはなく寮の中をふらついていた。
(……一年さんにどう話せばいいんだろう)
蘭先輩にただならぬ思いを抱いているのは間違いないはずなのに、それを絶対に認めようとしない。(私の勝手な思いではあるけれど)
認めたくないっていう気持ちもわかるけれど。体を許した相手。それも私の初めての時みたいに無理やりじゃなくてきっと自然に。
だからこそ一年さんは蘭先輩に裏切られたと感じてる。自分の中じゃ軽蔑に値する相手だとも。
そのことがあるからこそ蘭先輩への気持ちは本物なんだって思える。嫌いになっていいはずなのに、嫌いになれない。それどころかあんな風に激しい気持ちを見せる。
蘭先輩が迫るのならもしかしてっていうのもあるかもしれないけれど、今の蘭先輩がそんなこと出来るわけない。むしろ、一年さんから蘭先輩に迫ってほしいと思うくらいなのに。
(……迫る、か)
心にまともじゃない考えが浮かぶ。
それはおそらく卑怯な手段だし私にそんなことが出来るのかとも不安。
ただ……私にはそれをすることができるかもしれない。
リスクも多いかもしれないけれど。もし失敗したのならもう一年さんと関わることは出来ないだろう。同時にそのことが知れれば蘭先輩に何をされるかわからないし、そもそも私自身この寮に居られなくなるかもしれない。
そこまでをする理由が私にあるのか……
考え事をしながらも歩みを止めなかった私はいつの間にかあの部屋のある廊下まで来ていた。
「鈴ちゃん……」
悩みのもう一人の相手に名前を呼ばれてしまった。
「蘭先輩……」
「こんなところでどうしたんですか?」
「……なんとなく。あ、誰かといたわけじゃないよ」
「……そう、ですか」
それは疑ってない。
今の蘭先輩はきっとそんなことをしないと思うから。
「ところで、朝一年さんと話してたよね?」
蘭先輩が目を細める。攻撃的というほどじゃないけれど、それでもどこか身がませてしまう瞳に私ははいと頷く。
「……そう。鈴ちゃんが今更一年さんに何かをするとは思ってないけれど、でも……やっぱり私はあんまり近づいてほしくないの。わかるでしょ」
無言で頷く。
頷きながら頭の中に何か引っかかるものを感じる。
蘭先輩は少なくても自分がいる間は一年さんに誰も近づかせようとしない。
それが責任だっていえばそうかもしれないし、それ自体を否定することは出来ないだろう。
近づく人を排除したい気持ちもわかる。
でも、それは
(一年さんを別の意味で縛っていないの?)
蘭先輩への気持ちはともかくとしても、自由に誰を好きになったりする気持ちすら奪おうとしているようにも見える。
「………………」
「なに?」
蘭先輩はそのことに気づいているんだろうか。
(自分の気持ちがわからないだなんて言っていたけれど)
やっぱり蘭先輩も……
そんな気持ちに蘭先輩を見つめるも
「……いえ」
今はまだ蘭先輩に言えることが思いつかなかった。