「……ん……」
体が重い。
頭はぼんやりと靄がかかったようで、虚ろな視線を天井に向ける。
「大丈夫ですか? 鈴さん」
ベッドに横になる私に冬海ちゃんが心配そうに声をかけてくれる。
「え、えぇ……ちょっと、疲れただけ、だから」
「うーん。転校してきてからちょうど一週間ですし、そういう時期なんですかね」
「そう、ね……そうかもしれないわね」
そういう部分はなくはないのだと思う。でも、今私がまともに体を動かすこともできずベッドにいるのは昨日の、夜の……せい。
「っ……」
「? 顔、赤いですよ? やっぱり熱あります?」
私が顔を赤くした理由を勘違いして冬海ちゃんは私へと手を伸ばしてきて
「だ、大丈夫、だから」
反射的に手を避けるように顔を背けた。
「…そうですか? でも、とりあえず食堂いって何か食べられるものもらってきますね。調子悪くてもなにか食べないと」
「あ、ありがとう」
「あ、それと、今言うことじゃないかもしれないけど、他の部屋にお泊りする時は連絡くださいね。戻ってこないと心配しちゃいますから」
「っ……うん……その、次、からはそうするね」
歯切れ悪く答えた。話の流れからして次というのはおかしくはないはずだけど、次なんて………
「それじゃ、行ってきますね」
私は考え事をしている間に冬海ちゃんは元気に言って出て行ってしまう。
「………………」
静かになった部屋で天井を見つめる。
昨日のことは……考えられない。
私はあのまま寝てしまって、起きた時にはパジャマを着せられてベッドに寝かされていた。
昨日のことは夢かと思いたいくらいにどこか現実感ないけど、体を襲う倦怠感は昨日のが現実だって教えてくれている。
(……どうして、あんなことになったんだろう)
私は……ただ、ノートを届けに行こうとしただけだったはずなのに。
二人がキスをしているところを見ちゃって……あの時すぐに部屋に戻ればよかったのに、二人にベッドに連れていかれて……
(……どうして?)
びっくりはしたけど誰にも言うつもりなんてなかったのに。
同じ秘密を共有すればいいの。
(………言えないよ。こんなの)
絶対に誰にも言えない。初めから言うつもりなんてなかったけど……でも、もう絶対に言えない。
あんな、こと。
「っ……」
思い出したくなくても思い出してしまって、目の奥が熱くなる。
でも、なんだか泣くのも嫌な気がして私は唇を噛んで耐えていると
カチャ、っとドアの開く音がした。
最初はもう冬海ちゃんが戻ってきたのかなって思った。けど、
「おはよう、鈴ちゃん」
そこにいたのは、昨夜とは全く別の笑顔をする蘭先輩だった。