「……はぁ」

 放課後、一人で部屋に戻ってきた私は深くため息をついていた。

(……疲れてるな)

 重苦しい体をベッドに預けて私は瞳を閉じる。

(当たり前よね)

 このところ乱れてるもの。生活が乱れすぎている。蘭先輩との回数も多いし、瑞奈さんに呼ばれることもある。

 必然睡眠時間は減るし、心なんて擦り切れそう。もう自分が何をしているのかわからないもの。

 千秋さんに嫌われて、それを紛らわすために先輩たちと情事を重ねてる。

 それは気持ちよくはなれても、心が満たされるわけじゃない。むしろエッチをすればするほど虚しさがましていく。

 けど、もう取り返しがつかないところまで来ていて今の自分を続けるしかない。

(……ほんと、なんでこんなことになっちゃったのかしら?)

 考えたところで今が変えられるわけじゃないけどどうしても考えずにはいられなくて一人の時はこんな風に落ち込むだけ。

(あれ? そういえば……)

 ふと、体を起こして冬海ちゃんのベッドを見つめ、それから時計に視線を移す。

 もう夕飯の時間だって言うのに冬海ちゃんの姿がない。カバンも制服もないからまだ帰ってきてないことは想像できるけど。

 冬海ちゃんは部活に入ってるわけでも、委員会に入っているわけでもない。もちろん、何か理由があって遅くなることはあるだろうけど、夕飯の時間の前に帰ってこないことは記憶にない気がする。

「……探しに行った方がいいかしら?」

 特に何か理由があったわけじゃないの。ただ、なんとなく唯一普通の時間を過ごせる相手を心配しただけ。

 でも、一つきっかけで何かが変わることがある。それを私はまた実感することになる。

 

 

「はい。あーん」

 ベッドの上で真っ赤な顔をする冬海ちゃんにスプーンを差し出す。

「あ、りがとうございます」

 冬海ちゃんは熱のこもった吐息と、潤む瞳でお礼を口にして私の差し出したスプーンに食いつく。

「あはは、すみません……こんなことまでしてもらっちゃって」

「いいの。この前は私が看病してもらったんだし。このくらいはさせて。ほら、あーん」

「は、はい……」

 そうやって手にしたおかゆを冬海ちゃんに食べさせていく。

 どうしてこんなことになってるかということを簡単に説明するとこう。

 帰りの遅い冬海ちゃんを探しに学校に出向いてみると、階段の踊り場でうずくまる冬海ちゃんのことを発見した。

 調子が悪くなってしまって動けなくなっちゃってたということで肩を貸しながら部屋へと連れて帰って見事なまでに熱を出している冬海ちゃんのことを看病しているところ。

「それにしても、まさか鈴さんが来てくれるなんて思ってなかったから嬉しかったなぁ」

 食事を取ると少し元気になったのか、食器を片づけようとしていると冬海ちゃんは感慨深げにそう言った。

「嬉しい、っていうのはなんか違う気がするけど」

「だって、本当に嬉しかったんですよぉ。乙女のピンチに現れて助けてくれるなんてまるで白馬の王子様ですよ」

「そんな大げさなものじゃないと思うけど」

 言われるのは悪い気分じゃないけれど、普通に考えれば白馬の王子様っていうのは女の子の憧れの一つだし、それほどのことをしたとは思えない。

「というより、辛いんだったら早めに誰か呼ばなきゃだめよ?」

「あはは……少し休めばよくなるって思ったんですけどねぇ。なんかどんどん悪化しちゃって……。だから、鈴さんが来てくれた時本当に嬉しかったです。……誰か来てくれるなら鈴さんがいいって思ってたから……」

「? ありが、とう」

 また熱が上がってきたのか冬海ちゃんはさっきよりも顔を赤くしているし、瞳もとろんと潤みを増している。

(……なんだか扇情的)

 よく病気の時は色っぽくなるなんていうけど本当なのかもしれない。そう思えてしまうくらいに今の冬海ちゃんは魅力的だ。

 と、それは置いておくとして

「んっ……」

 本当に熱があってたりしたら大変だから確かめるためにおでことおでこと合わせる。

「っ!!!?? す、すず、さ……!?」

「うーん、やっぱり少し熱上がってきてるかもね」

「あ、え…う……そ、の……え、っと…だ、大丈夫、です」

「大丈夫じゃないよ。あ、ほら汗だってこんなにかいてるし。拭いてあげるから脱いで」

「ぬっ……ほ、ほんとにあの!」

 冬海ちゃんは恥ずかしいのか熱以外の意味で顔を赤くしているみたいではあるけど、そんなことは言ってられない。

 悪化させるわけにはいかないんだから。

「ほら、手、あげて」

 私は冬海ちゃんの部屋着に手をかけると強引に脱がせていく。

「ぁ、ぅう……」

「下着、可愛いね」

「っ……」

 冬海ちゃんの華奢な体にフリルのついた薄い青色のブラはとてもよく似合っている。

 蘭先輩とは別の意味で人形みたいに可憐で保護欲を掻き立てられる様な姿ではあるけど、今はじろじろ見るわけにはいかない。

 私はタオルと手に取ると冬海ちゃんの汗ばんだ肌に手を伸ばしていった。

「ぁ、あ……の、じ、自分でできますからぁ」

「だーめ。自分じゃやりづらいでしょ」

 肩、背中、腕、腰、お腹とタオルと走らせていくたび冬海ちゃんは「んっ…」とか「ぁ……」とか、何か勘違いされそうな声あげる。

 それは当事者の私からみても

(……可愛いな)

 そう純粋に表現してしまうほど色のある姿。

 桃色に染まった肌と、羞恥に染めた頬、熱に浮かされた瞳。そして、

「すず、さぁん」

 甘えたような声。

 それは可愛いというより………エ

「………鈴、さん?」

「っ!」

「どうか、したんですか?」

「な、なんでも」

 一瞬だけ、いけないことを考えてしまった私は冬海ちゃんの一言で正気に戻って無心に作業を済ませていく。

(……何を、考えているの……?)

 一瞬でも冬海ちゃんに対し邪な気持ちを抱いてしまった自分を嫌悪して私はようやく本来の目的を果たしていった。

 

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