それは冬海ちゃんの様子が変わってから少し経ってからのこと。

 私の夜にある変化が訪れた。

 深夜。正確な時間はわからないけれど、大体寝ようとして電気を消してから三十分を過ぎたころ。

 冬海ちゃんが私にベッドに上がってくる。

 音の少ない夜にはその音すら響き、私は今日も体に緊張を走らせる。

 毛布を捲ると体を潜り込ませ私の体へと寄せる。

「ん…っ」

 頬にキスをされた。

 それから

「……は……っ、んぁあ……ふっ」

 私の腕をとって体を押し付け、擦りつけてくる。

「ふあ、ぁつぁ、はあ、鈴、さん……んっ…あ」

 彼女の柔らかな肢体を感じながら、耳元で徐々に荒くなっていく吐息が脳を痺れさせていく。

 彼女がしてること。

 いうまでもなく自慰行為。それも私の体を使った。

「胸も……」

 冬海ちゃんはそう言って私の手を取るとすでに服を捲りあげてある胸へと持っていく。

「んぁ、気持ち、い……んぁ……ふあ、そう、それ……もっと……ぁあん」

 手のひらに弾力のある質感と、手の甲に熱くなった指の感触。冬海ちゃんは器用に私の手を操りながら自分の胸を攻めていく。

「あん、そ……こ……乳首もして……もっと、もっとしてくださぁあ、っああ」

 自分の意志で操っているのにまるで私がしているかのような言葉たち。彼女の中では……これは自慰ではないのかもしれない。

「ぁふあ、っはぁ、あぁっぁ」

 熱のこもった吐息がささやかれるたび、

「んっあ、ぁあっぁつ」

 操られる手が彼女の柔らかな胸に、尖った乳首に触れるたび、

「ふあ、っ鈴、さん……ふぁ、いぃ…いいです……あぁ」

 火照った体を押し付けられるたび、

(っ……)

 私の体も熱くなっている。じんじんともどかしい熱が体にこもって、更なる刺激を求めたくなる。

「っ!」

 偶然か、冬海ちゃんの腕がパジャマの上から胸をこすってその唐突な快感に体を震わせてしまった。

「はぁあ、あ…あんっ、鈴さん」

(…………)

 どうやら冬海ちゃんは自分のことに精いっぱいのようで私の反応には気づかずに自慰を続けている。

「あむ……ちゅぁはむ」

 指が暖かなものに包まれた。冬海ちゃんが人差し指と中指を舐めている。

「んんっ……ちゅ。ぱ、っちゅ」

(熱い、それにくすぐったい)

 二本の指を舌で弄ばれる。一本ずつ吸われ、指の間を情熱的に舐められ、二本の指と舌が絡み合う。

 私がしていたのとそっくりの動き。

「っは、あ……こ、っちも……して、ください」

(そこは……)

 私の腕を下半身へと持っていく。ほぼ同時に冬海ちゃんが体をくねらせながらショーツを脱ぐのがわかった。

「ぁ、っあぁぁ」

 ショーツの内側はもう十分に湿っていて、指に粘着質のある液体がまとわりついた。

 くちゅくちゅと卑猥な音を立てながら冬海ちゃんは快楽をむさぼっていく。

「ん、ぁ……ふ」

 今のは私の声。冬海ちゃんにしていた時のことを体が覚えていて、お腹の奥がじゅんと熱くなった。

「ぁ、ふああ、っぁ、ぁっんぁ」

 襞の指でこすり、皮のめくれたクリトリスを撫で、ぎゅっと抱きしめられるように体を寄せられる。

 それと

「っあ、気持ちい……いいです、鈴さん。もっと……私のこと……もっと愛して、ください…ああぁ」

 情熱的過ぎる冬海ちゃん喘ぎ。

「中、も……んっ」

 じゅぷ、と音がして指が吸い込まれるように冬海ちゃんの中に入っていく。中は暖かく、締め付けが心地よい。他人の指を使ってしているという特殊な状況のため奥には入っていけないけど冬海ちゃんは器用に私の指を中に差し込み、グニグニと冬海ちゃんの感じる場所を責めたてる。

「は、ぁあ、あ……い、んぁ……いぃ……ふああ、もっと……もっ、っと…」

 余裕のない声。ただ快感を求める以上に切羽詰ったような身を包まさせられる様な声。でも、間違いなく快感が高まっているのはその息の荒さと動きの激しさでわかる。

(イッちゃうの?)

 その瞬間が近づいてるのがわかる。もう何度もそれを知っているから、二人でしているときもこうして、一人でしているのを眺めるだけでも。

「鈴さん……すずさん…あぁ、っふあ、いく……いいぁい。くる……ぁあ、うあ……すず、さぁあん」

 声が、指が、体が爆発しそうな快感を伝えてきて、それが

「ふっあ、ぁぁああっ」

 破裂した。

「っ、ん……くぅ…ん…あぁ」

 ゆっくりと蠕動する中から指を引き抜かれ、ぎゅっと抱きしめられる。

「すず………さん」

 甘い声が私を呼んで………

「ちゅ」

 頬にキスをされた。

 

 

 冬海ちゃんは一晩中私の側にいるということはなくて、事がすんで少しすると自分のベッドへと戻っていく。

 残された私はもどかしい体を抱えたまま冬海ちゃんの意図を考えずにはいられない。

 なぜ冬海ちゃんがこんなことをし始めたのかはわからない。千秋さんと仲直りをして、少ししたころから冬海ちゃんは私への態度が変わった。

 以前の歪な体の関係を求めようとしなくなり、なんといえばいいのかよい後輩のようになった。

 その心境の変化はわからない。

 夜這いをする理由も。

 あんなのはまともではないと思う。そもそも明らかに私の体を「使って」いて、もはや自慰とすら呼べないほどの激しさになっている。

 あんなことをされて気づかないわけはない。

 けど、それは冬海ちゃんもわかっているのかもしれない。

 気づかないわけはない。でも、気づいたところで私に何ができるというのだろう。いや何もできない。

 散々都合いいように冬海ちゃんを利用しておいて、冬海ちゃんがしていることをやめろという理由がどこにあるのか。

 もしかしたら冬海ちゃんはそれを自覚してしているのかもしれない。私が起きていようといまいと拒絶できず、あわよくば私がまた相手をしてくれることを期待して。

(……………)

 謝ればいいのか、怒ればいいのかもわからず私はただ彼女のことを受け入れるしかない。

(……考えなきゃいけないことはいっぱいあるのに)

 冬海ちゃんの気持ちとこれからの関係、蘭先輩と、蘭先輩の好きな人のこと。答えを出さなきゃいけないことがあるのに。

「んっ………」

 今は、冬海ちゃんにの余韻に侵された体を慰めるしかできなかった。

7−7/八話

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