冬海ちゃんのお願いはあのあとすぐというわけではなかった。
冬海ちゃんの目的を考えればそれは当然のことだったのかもしれないけれど、冬海ちゃんの指定した時間まではいつも通りに過ごした。
ただし、どこへ行くにも冬海ちゃんの監視付きで。
人と話したりもして、その時の冬海ちゃんはまるで出会ったころに戻ったかのように純粋な笑顔を見せていた。
それが冬海ちゃんの闇を現しているようでもあって恐ろしくこれからを不安にさせる。けれど私に拒絶する権利などあるわけはなく背筋にいやな汗を感じながらその時を待つこととなった。
そして
「っ、ね、ぇ……冬海、ちゃん……」
消灯時間もしばらくすぎた頃、私はベッドの上で仰向けに寝かされていた。
「何ですか?」
その脇には冬海ちゃんがいて、例の純粋で恐ろしい笑顔をしている。
いや、冬海ちゃんのノートを覗いたときやその後一緒に過ごしていた時よりも恐ろしく感じる。
それも当然かもしれない。
「こんな、ことしなくても……ちゃんと、言うこと聞くから」
私は万歳をさせられる形で手を頭の上にあげさせられ、その手首を縛られているんだから。
「ふふふ……ふふ」
私の懇願に対する返答は狂気を感じさせる笑いだった。
「わかってますよ。鈴さんが私を裏切るわけないって。私、鈴さんのこと信じてますから」
「だ、ったら……」
「けどね、【そういうこと】じゃないんですよ」
「っ!!」
冬海ちゃんの顔が迫り、ビクっと体を震わせた。
「鈴さんのことを信じてるからとか信じてないからとかじゃないんです」
その意味が空恐ろしく響く。
「私がしたいからしてるんですよ。その意味、わかりますよね?」
触れてしまいそうなほど近い距離から冬海ちゃんは心胆を縮ませるような雰囲気を発する。
「…………」
はっきりその意味を理解できたかはわからない。でもきっとこういうこと。
私が抵抗するかどうかじゃなくて、私を【支配】するためにこうしたのだということ。
(……ごめんなさい)
そんなことを考えさせたのはまぎれもなく私のせいで、それを謝ることすら憚れて私は彼女から目をそらすだけで精いっぱいだった。
「うふ……ふふふふ……可愛いです鈴さん」
紅潮した様子で冬海ちゃんは私の頬を舐めるように撫でた。くすぐったさ以上に得体のしれない感覚が体を駆け巡る。
「鈴さんは私にするときこんな気持ちだったんですねぇ」
そこには非難が含まれているが、それ以上にこれからの期待が冬海ちゃんを昂ぶらせている気がした。
私はそれを否定できずに視線を伏せる。
否定なんかできない。まさにその通り、冬海ちゃんを支配することに私は喜びを感じ壊れていた心を保たせていた。
立場が逆転した今私にできることなんてあるのかと疑問に思うけれど、今はそれどころじゃなくて
「あ、っ……」
寝間着をずりあげられて下着が露出する。
「いっ、た……」
そのまま間髪入れずにブラを捲り上げられて唐突な痛みと共に冬の迫った外気に乳房がさらされる。
「あは、綺麗ですよ。鈴さん」
子供のように無邪気な声が私を襲い、そのまま冬海ちゃんは胸に触れてきた。
「そういえばあんまり触ったことなかったですよね。いつもされてばっかりだったし。けど……」
「っあぁ」
ぎゅっと乳首をつねられた。
「これからはいっぱいしてあげますね」
乱暴に胸に指を沈み込ませ、何度も揉みし抱く。そしてそのまま体を重ねると口づけを迫った。
「あ……む、ちゅぁう……鈴さん…鈴さん……んむぅう」
「ぁんちゅ…あれ、りゅ……ぷ、ふゆ、み、ちゃ……ん」
くちゅくちゅと舌を絡ませる音が体に響いて羞恥を燃え上がらせ、同時に
「ふぁ、ぁっ…ぁあん…ちゅ」
固くなった乳首を摘ままれ引っ張られる。痛痒い感覚だけれど……
「感じてるんだ」
「っ……」
冬海ちゃんに心の裡を指摘されて私は情けないような恥ずかしいような気分になる。
「縛られて無理やりされてるのに感じてるんですね。鈴さんは」
「………………」
「でも、違いますよね。私にされてるから気持ちいいんですよね?」
「っ……」
それはそうかもしれないけれど、それ以上に今の一言には冬海ちゃんの意図が詰まっているような気がして、その事実に瞳の奥が熱くなった。
「そうですよね?」
滲んだ視界で見る冬海ちゃんの瞳は私以上に滲んでいて、曇ってもいた。
それを見ていると今度は心が締め付けられ
「……そう、よ」
気づけばそう頷いていた。
「あは、よかったぁ」
「だから……冬海ちゃんの好きにして、いい……わ」
(……今は、受け入れてあげないと)
そんなことで責任だなんて言えないかもしれないけれど、今はこれからをどうするかよりも目の前の彼女を壊さないようにすることが大切だと思った。
「あはは、素直な鈴さんは大好きですよ」
それじゃあと言って、冬海ちゃんはパジャマを脱ぎ、ブラを脱ぐとショーツだけの姿になった。それから
「もっと、してあげますね」
と再び唇を重ねてきた。
「あん……ん…あ…あ、胸……鈴さんと擦れて……んっ…ちゅぷ」
激しく私の口内を侵し、体を揺すって乳首と乳首を触れ合わせる。
子供のように暖かな冬海ちゃんの肌の熱さと固くなった乳頭が私の頭を痺れさせ、体の奥からはたとえようのない心地よさが生産されていく。
「も、っと…もっと……んっ、あぁ、これ……思ったよりも、気持ち、い」
「っあ、ぅ……ん、ちゅ……じゅぷ……」
「鈴さんも……ほら、動いてくださいよ。はぁああ」
要求を拒否する権利はなく、縛られたまま冬海ちゃんの望むままに体を動かす。
「あは、鈴さんが私の言うこと聞いてる……んふ……ぁ………気持ち、いい……ぁああ」
肉体的な快感を言っているのか、精神的な充足を述べているのか。あるいはその両方なのか冬海ちゃんは昂ぶりのままにキスを激しくした。
「ぅむぅ……じゅぷ。ちゅぴ、ちゅ、ちゅぅう、レロちゅ」
呼吸が苦しくなるほどの口づけ、口周りはお互いの唾液でべとべと。それでも冬海ちゃんはやめようとなんてせずに貪るように私を求めた。
「はあ……はぁああ、鈴、さん……」
私を呼ぶ声に、私を見る瞳に淀んだ熱情を感じる。
けれど、その姿は普段の冬海ちゃんからは想像できないほどに妖艶だ。
(んっ………)
私の体の芯にあらがえない欲情を思い起こさせるほどに。
「あ、は…………私、今のだけで……」
言いながら冬海ちゃんは私の顔を側で膝立ちをすると可愛らしレースのついたショーツを目の前で下した。
「ほら……鈴さんのせいでこんなになっちゃったんですよ」
クロッチ部分から引く糸がとてもいやらしく見える。しかし目をそらすことは許されない。
ゆっくりと冬海ちゃんの細い足を通っていくショーツを見せつけられながら、その気恥ずかしさに体が火照る。
「んっ……ねぇ、……鈴さん。もっと……気持ちよくしてくださいよ」
「え?」
ねっとりとした声と共に冬海ちゃんは私の顔を跨ぐと
「舐めて……はぁ……ください」
言いながら女の子の部分を私の口元へと押しつけてきた。
立ちのぼるあまずっぱい女の子の匂いが鼻孔を突き、くらくらと心が揺れる。
「……う、ん……」
私は言われるがままに冬海ちゃんの襞に舌を伸ばす。
「ちゅぅ……ちゅ、ちゅぅ……じゅぷ、レロ……ちゅぷ」
優しく丹念に舌を動かすともともと湿っていた冬海ちゃんの割れ目から愛液が零れて、舌を通って私の顔が濡れていく。
「あ、は……気持ちいぃ。鈴さん、もっと……もっと舐めて…はぁあ」
グイグイと冬海ちゃんは容赦なく腰を押し付け、私に奉仕を要求する。
「んぷ……ちゅ、ぷ……じゅぁちゅ……ん、あぁ……ぱっ、あ……」
「ぁ、ぁ、あぁ……。いい、ぃ……さい、こうですよ……」
「っ、ぁつ……チュ……ちゅぅぅ……ん、ぷぁ」
うまく呼吸すらできないけれど、逆らうことはできなくて望むとおりに舌を蠢かせる。
「ふ、……ふふふ……鈴さんが……こん、な、ぁん、風に舐めて……くれるなんて……あっは、は、は」
時折零れる狂気が胸に響いて瞳の奥が熱くなる。
それと同時に彼女に答えなくてはという想いを強くして動きを激しくした。
「ぁ、あぅ……んぁああ! あはは……鈴さんってば激し、っ……」
恍惚とした表情で私を見下ろしながら冬海ちゃんは嬌声をあげる。はぁはぁと荒い息を吐き、
「っ……け、ど……こんなんじゃ、足りない……もっと……」
そう言いながら冬海ちゃんは私の顔の上からどくと
「あ………」
か細い声を上げる私から強引にショーツを取り去り、私の左脚を抱えながら自らの足を間に入れ股間を押し当ててきた。
「もっと……鈴さんに気持ち良くしてもらいたいんです……いいですよね」
返答を待たずに冬海ちゃんは腰を動かし、秘部を擦りあわせてきた。
ジュクジュクと卑猥な音を立てて冬海ちゃんと私の接触部から飛沫が飛ぶ。
「はぁ、ああ、っああ、すず、……すずさん、気持ちいい……気持ちいいです。鈴さんも、気持ちいですよね……ぁあ…」
「……え、ぇ……冬海ちゃんが、気持ち、いい……ぁ、ふぅあ」
こんな状況だけれどその言葉に偽りはなかった。蘭先輩を初めとした関係のせいで敏感になった体は冬海ちゃんの欲情に引っ張れるように、高まっている。
「嬉しい……ぁっ、もっとしましょう、ああぁ、んっ……ちゅ……」
抱えた私の脚に抱き、口づけをしながら冬海ちゃんは一心に腰をグラインドさせ快感を増大させようとしてくる。
私もまた腕を縛れらたまま精いっぱいに冬海ちゃんに応えようと腰を浮かせ冬海ちゃんを動かしやすくさせた。
「ぁつ……あ、ぁっああ、んぁあ」
「っく、ぅ…ん、ああんぁ、ふあ」
重なる二人の喘ぎが耳から脳を侵す。体中が浮いてしまいそうな感覚に頭が痺れていく。
「ふぁあ、ああ、ぁっあ、あはは……鈴さん……っ」
冬海ちゃんは涙を流しているようにも見えた。潤んだ瞳が何を意味しているのか私にはわからない、冬海ちゃんもわかっていないのかもしれない。
ただ私たちはわからないことをわからなくするために快楽を求めて、相手を求めて、頭の中を真っ白に染め上げていく。
「っ、ふゆみちゃ、……んぁ、ぁあ」
「あ、わたし……わたし……ぁあ」
「いいよ……イッて、私のことなんて気にしなくて……いい、か、ら」
切なさの混じる声に冬海ちゃんの限界を感じて、私はそう口にする。
「……んっ、ふぅ……ん、ごめん……なさい……ごめん……あぁ! んっああ、ぁあ」
なぜか謝罪をする冬海ちゃんに、まだ少女の面影を見て私は冬海ちゃんが達せる様に動きを変えていった。
「あぁ! んあ、ぁあごめんなさい……あぁ、わた……い……く……」
「い、って……気持ち良くなっていいから。私で気持ち良くなっていいから」
「は、い……く、る……き、ます……ああぁ、ふあ、あああぁあ」
ラストスパートをかけるかのように冬海ちゃんの動きが激しくなり、その十数秒後
「ふあぁあ、ぁぁああ……ぁっぁ!!」
大きな声をあげながらグイっと腰を押しだして冬海ちゃんは達した。
「は、…………ぁ……あ」
放心したように息を吐く冬海ちゃん。
やっぱり演技があったんだと胸をなでおろしはしたけれど……
「………は………はぁ……は……あ、は」
「っ……」
再び、その顔に邪な感情が宿るのを見て私はなんてことをしてしまったんだろうと後悔するしかなかった。
8−7/