私は一般的にはインドア派と言われる人間だ。

 基本本を読むことが多い上、休みの日でも用もなく外に出たりもしない。

 それは恋人と過ごす上でも同じでいわゆるデートなんていうものはあまりしない。

 すみれもどちらかといえば私に近いタイプだし、なにより私を理解しているので必然家で過ごすことの多い私たち。

 私たちは恋人になった経緯も普通ではないし、恋人としての過程を一足飛びに越えたところもある。(そもそもすみれは特殊な人間なのでたとえ出会いが別の形でも怪しかった気もするけれど)

 だからたまに困った……いや可愛らしいと思うことに遭遇するのだ。

 

 ◆

 

 地方都市というのは行動範囲が限定されがちだ。

 車がないとどうということではなく、ちょっとコンビニにとかスーパーにとかそういう必要な外出以外でどこかに行こうとすると行く範囲は限られる。

 喫茶店なんかも多くなければ、デパートなんて選択肢はないし、ショッピングモールも行ける範囲には一つだ。

 大学の頃は選択肢に恵まれていたが、それまでの十数年もそして就職して戻ってきてからも買い物と言えば郊外の大きなショッピングモールになる。

 私たちにとっては初デートの場所でもある。

 この辺の人間は老いも若きもここに集まることは多く、今日もそれなりの賑わいを見せる。

 今回は別にデートをしようと意気込んできたわけではなく、なんとなくたまには外に行くかと二人で繰り出していた。

 季節の境目ではあるし服を見たり、職業柄本屋をチェックしてみたり。もう少ししたらもっと広いところに引っ越しをしようかなんて話もしてたから家具を見たりまぁ、デートらしくはあったかもしれない。

 そんな中、少し疲れも出てきてフードコートで軽食をとることにした私たち。

 フードコードは外にあり、太陽の下季節柄若干の寒さを感じながらベンチに二人並び手にしているのはたい焼きだ。

 流行ということもなく奇をてらっているわけでもなく妙齢の女性が持つものとしてはまぁ適切でしょう。

「ふむ、やっぱりたい焼きはあんこよね」

「ん?」

「最近、カスタードとかチョコとかいろんな種類があるけど、やっぱりあんこが一番だって言ってるの」

「そういえば文葉って基本になってるものが好きよね」

「ん?」

「アイスならバニラが一番ってタイプでしょ」

「そりゃそうでしょ。基本になるっていうことはそれだけの理由があるのよ。パターンこそが真理なようにアイスはバニラ、たい焼きはあんこなのよ」

「……あんたってたまに面倒よね」

 などと面倒な恋人に何故か面倒などと不本意なことを言われ、ちょっとへそを曲げてたい焼きをぱくつく。

(……これはこれで気心の知れたやり取りかもしれないけれど)

 年相応とは言えない。こんなのはそう例えば

 と視線の先に見知らぬ女子高生をとらえる。

 仲睦まじそうに冬も近いというのにミニスカートで脚をだし、さらにはソフトクリームまで手にしているのだから若い子には頭が下がる。

「それ一口ちょーだい。」

「えー、なんでよ」

「そっちの味も欲しいの」

「はぁ……あんたのもくれるならいいけど」

「いいよー、はいあーん」

「……あーんはいらん」

(若者のやり取りだ)

 いや私も年齢の区別からすれば若い方だろうが、とてもあぁいうことをする気にはなれない。

 まぁ若い子の特権ともいえほほえましくもあ……

「文葉、たい焼き一口頂戴」

(……こいつは)

 すみれも同じように女子高生のやり取りを見ていたのだろう。

 そして欲求に素直に提案をしてきた。

 すみれは意外と乙女なところもあるしそういうことをやりたいというのはわからないでもないけれど。

「……あんたもあんこでしょ」

 家やせめて店の中とかならともかくこんな衆人の目があるところでと暗に断ろうとするものの」

「そんな話はしてないのよ、一口寄越せって言ってるの」

「何も女子高生に対抗しなくていいでしょうに」

「だからそういう話じゃないの、いいからあんたはあーんをすればいいのよ」

 恋人にあーんというという元をたどれば可愛らしいところからきてるのに、すみれがするとどうしてこう………可愛いことになるのか。

「ほら、あーん」

 しかも私の意志はお構いなしにこちらに迫ると口を開いてきた。

「……………」

 目を閉じ、口を開け私にたい焼きをねだる恋人。年相応とはいえないその態度と普段の見た目の良さには相も変わらず違和感を持つが、それ以上に愛おしさも沸くのだから私も甘い。

「はいはい、あーん」

 手にしていたたい焼きを口に入れるとすみれははむっと可愛らしく食いつき

(……ん)

 思わず鼓動がはやった。

「……ん、変態」

「っ!」

 目を開けていたすみれに目ざとくそれを察せられ、思わず顔をそらす。

「な、何がよ」

「なんかいやらしいこと考えてそうだったから。文葉って結構そういうところあるし」

「…………」

 反論はいくらでもできるがするのは逆効果な気もして黙ると、目の前にたい焼きが突きつけられる。

「ほら、私のもあげるわ」

「…だから、同じ味でしょうに」

「だからそういう話じゃないのよ」

 話が通じないところもまぁすみれの魅力なのよね。

「あーん」

 諦観すると目にかかる髪をたくし上げながらすみれのたい焼きをほおばり

「ま、普通ね」

「そこは私に食べさせてもらった方がおいしい、でしょ。文葉は乙女心がわかってないわね」

(……生憎、その年で喜々としてあーんとするような精神年齢が乙女の心がわからないだけよ)

 というと機嫌を損ねるのは目に見えてはいる。

(けれど)

「ふふ、でもこういうことしたことなかったから新鮮ね」

 無味乾燥な少女時代を送ってきた恋人が楽しそうにしてくれるのなら、こうした普通のデートも悪くはないのかもね。  

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