「んー……」

 あたしはベッドに座っていた。

「ふぅ」

 今の場所は居心地が悪いとは言わないけど、最高とも言うようなところじゃない。

 なぜなら、これはあたしのベッドじゃないし、この部屋の持ち主が

「……むみゃ……」

 こうしてベッドで寝られちゃ、手持ちぶさたにもなってどうすればいいのかわからなくなる。

「ったく、せっかくお見舞いに来てあげたってのになんでまた寝てるのかね。この子は」

 あたしは体をベッドで眠るゆめにむけるとぐにっとほっぺをつかむ。

「……………くぅ」

 でも、ゆめは深く寝入ってるのか気にも留めないで寝息を立てるだけ。

「この前も寝てたし、どうもあたしはタイミング悪いね」

 グニグニ。

「……ん、むぅ……彩音…好き」

「おやおや、ほっぺ引っ張られるのがいいのかえ」

 別に寝言でこんなこと言われるのは初めてでもないからあたしは平然と寝言と会話をする。

「……にゃむ……バカ」

 しかも、ほんとに会話みたいになっちゃった。

「む、せっかくお見舞いにきてやったというのに」

 あたしはさらに寝言に突っ込むと、今度はベッドから離れてゆめの机に座ってゆめを眺めることにした。

 これ以上独り言言っててもおかしな人みたいだしね。

「……彩音の、バカ」

「……………」

 二回目ですか。

 そういや、なんか最近バカって言われること多い気がする。なんか知らんけど美咲にもいわれたし。

 膝を組んで、机にひじをついて、あたしは少しだけへこみながらゆめを見やる。

「…………ん、……うん……」

 と、少しすると都合よくお姫様が目を覚ましたみたい。

 あたしには気づかない様子でぼーっと天井を見てる。

「ゆめ、おはよ」

「……ほぇ?」

 ゆめは呼ばれてやっとあたしに気づいたようで、首をごろんとこっちに向ける。

「……あ、やね……?」

「他の誰に見える?」

「…………彩音」

 その答えは何なんだ。

「どしたん。変なゆめでも見た?」

「……私は、変じゃない」

 ………まぁ、寝ぼけてるのは間違いないみたいだね。

 まだ頭が覚醒してないのか寝ぼけ眼のままのゆめは横になってままあたしのことをじっと見てくる。

 まだ熱が引いてないのかうるっとした目がなんとも魅力的だ。

「……なんで、彩音がいるの?」

「お見舞いでしょ。お見舞い」

「……休んだって、教えてない」

「澪からメールが来たの。ゆめが風邪引いてるって。で、大丈夫?」

「……大丈夫じゃないから、休んだ」

「ま、そりゃそうか」

 どこか簡素な会話を交わすと、ゆめはごろんと反対側に寝返りを打ってしまった。

「ん? 何、嬉しくない?」

「……すごく、嬉しい」

「さいですか」

 そういうことは顔をみて言ってもらいたいもんだ。

「ま、いいや。起きたんだったら一緒にたべちゃお」

「……? 何を」

「ケーキ。お見舞いに買ってきてあげたの。あ、食欲ない? つか、起きられる?」

「……大丈夫。食べる」

 ま、ゆめがケーキを食べないわけがないか。

「そんじゃ、冷蔵庫に入れてもらってるからとってくるわ。ついでに紅茶でもいれてくる」

「………ありがとう」

 あたしはゆめの言葉を受けると一階に降りて、慣れた感じで冷蔵庫を開けて戸棚から紅茶のパックとカップを取り出す。

 すぐにケーキを取り出し、紅茶を入れるとゆめのところへ帰っていった。

「はい。おまたせ」

 すでにテーブルのところにいたゆめの隣に腰を下ろすとあたしたちはそろってケーキを食べ始めた。

「……そういえば」

 やっぱり口で言うほどの食欲はないのかめずらしくのんびりとケーキを食べるゆめが何かを思い出したように言ってきた。

「んー?」

 あたしはその時たまたま紅茶に使ってたスプーンを加えていて、答えるために空になったカップの脇に置いた。

「……美咲は?」

「ゆめのお見舞いなんか来たくないってさ」

「……嘘。美咲はそんなこと言わない」

「ちょっと驚いてくれないとつまんないじゃん。美咲も風邪ひいてんの。今はあたしのベッドで寝てる」

「………ふーん」

 ゆめは納得気に一口ケーキを口にすると、とろんとした瞳で私を見つめて、言ってしまう。

「……彩音はバカだから、風邪ひかない」

「っ、それ、美咲にも言われたんだけど」

「……だって、本当」

「なんでよ。つか、ゆめはさっきも寝言で人のことバカっつてくれてたけど、何か言いたいことでもあるわけ」

 こう短期間にバカバカ言われるとさすがにむっとくるよ。もちろん本気じゃないけどさ。

「……寝言?」

「そ、寝言」

「……何か言ってた?」

 ゆめはちょっと不安そう。ケーキを食べるのに持ってたフォークすら置いて、おずおずと聞いてきた。

 ゆめにしてはめずらしい反応だけど、風邪引いてるからかねぇ。

「別に。告白してきたくらい」

「…………?」

「ま、いつものことだから気にしなくてもいいんじゃないの?」

 この後もぽつぽつと会話はあったけど、さすがに学校休むくらいだからゆめの口数はいつもにまして少なく、静かな中ケーキを食べ終えた。

「さて、ゆめの様子も見れたしそろそろ帰ろうかなっと」

「……もう?」

「あんま長居しても悪いでしょ。それに美咲も寝込んでるし」

「…………………うん」

「じゃ、片付けて帰るわ」

 あたしは立ちあがって、テーブルの食器をまとめようとした。

 が、

「……待って」

 ゆめの一言で中断される。

「何?」

「……片付けなくて、いい」

「へ? いや、あたしが出してきたんだしそういうわけにもいかんでしょ」

「……とにかく、いい」

(…………??)

 熱でぼけてんのかね。片付けるって言って拒絶する理由がどこにあんのよ。

 んー、でも、まぁ。いっか。微妙に怒ってるような感じだし。帰る間際に機嫌を損ねてもこっちに得はない。

「んじゃ、言うとおりにするわ。お大事に」

「……うん。ありがと、嬉しかった」

「またね」

 片手でドアをしめて、とんとんと階段を下って、

「お邪魔しましたー」

 と、ゆめのお母さんに聞こえるように言うとあたしは玄関を出て、すぐ近くに止めてある自転車の鍵を開けようとした。

「っと」

 その前に時間を確認しようとポケットからケータイを取り出そうとしたけど

「あれ?」

 いつもここに入れているはずだけど、手を入れてもても何にも感触がなかった。

「あー」

 そこで、ゆめが起きるのを待ってたときに適当にいじってたのを思い出した。

「置いてきちゃったのかなっと」

 というよりも、ゆめの部屋では見たんだからそれ以外には考えられない。

「はぁ」

 取りに行かなくちゃね、っと。

 あたしは鍵を戻すと今さっき通ったばかりの玄関を通って家の中に足を踏み入れた。

「あれ〜? 彩音ちゃん帰ったんじゃなかったの?」

 すると丁度ゆめのお母さんに出くわした。

「あ、ちょっと携帯忘れちゃって」

「そうなんだ〜。ゆっくりしていってね」

「は、はぁ」

 携帯をとりに来ただけなんですけどね……

 ま、いいや。言っちゃ悪いけどこの人と話すのは疲れるし、ここはさっさとゆめの部屋にいこ。

 あたしはそう決めてまた階段を上ってゆめの部屋に向かっていった。

 そして、あたしはゆめがなんで片付けなくていいって言ったのか、驚愕を伴って知ることになる。

 

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