ここでひかりさんとゆめについてあたしの考えを整理してみる。

 まずゆめだけどゆめはひかりさんのことを嫌っているんじゃないって思う。嫌いは好きの裏返しってわけじゃないだろうけど、本当に嫌いなだけだったらあそこまでの態度はとらないって思うから。昔は大好きで、お姉ちゃんさえいればよかった。でもそのお姉ちゃんは急にいなくなってしまい、残されたのは一人の自分。

 心細かったんだろうし、寂しかったんだろう。ひかりさんのせいだなんて思わなかったけど、ゆめは決して一人でいることが好きだったんじゃない。あたしたちと仲良くなるまで孤独に平気なふりをしてただけ。その辛さからひかりさんに対してきつくなってしまうのも仕方のないことだと思う。

 これはさらに想像だけど、そんな状態になってもひかりさんの態度が変わらないのが余計に気に障ったんじゃないかな。自分は辛いのに、ひかりさんは楽しそうにしているつことが。何度も言うけどゆめは普通の女の子だからそんな風に暗い一面だってある。

 そしてあとは引っ込みがつかないままあたしたちと仲良くなって今に至るってところかな。

 一方、ひかりさんだけど、ひかりさんは色々考えてそう。ひかりさんはゆめの事が好きで、ゆめががあんな性格になったり、友達もほとんど作れなかったことに責任を感じている。

 だから、どうにかしたいとは思っていたんだと思う。でも、それはひかりさんの立場からどうにかできることじゃなくて、ゆめが【ひかりさんのせい】にできるようにずっと溺愛し続けたんだろう。

 それがあたしや美咲っていう存在ができてからも続けているのは本気でゆめを愛している証拠でもあり、ただ今更やめられないっていうだけかもしれない。どちらにせよゆめを本気で大好きで愛していることには違いない。

 でも、やっぱりこのままっていうのはいけないって思ってるんだと思う。それはゆめのためでもあるかもしれないし、ひかりさん自身が妹離れをしないといけないと考えているからかもしれない。

 あたしが思っていることはすべて想像でしかない。当たっているかもしれないし、全部が的外れかもしれない。

 でもそんなことの答え合わせなんて本人に聞くしかできなんだから、あたしはあたしの思うことをする。

 ひかりさんにゆめがもう大丈夫だって安心させた上で妹離れをさせるために。

 

 

 そして、決意したらすぐに行動を開始する。

(……うん、あれ渡しておいてよかったかもね)

 別になくても大丈夫かもしれないけどあるには越したことはない。

「それで、何かご用? 彩音ちゃん」

 持ち主の体にふさわしい小さなベッドと、余計なもののあまりない簡素な部屋。

 勝手にベッドに腰を下ろして微笑みかけるのはこの部屋の主のお姉さん。

 対して、この部屋の主で今あたしの横に座ってる恋人ちゃんは

「…………」

 ご機嫌斜めな様子。

 その理由は単純なもの。昨日ゆめにひかりさんに会えるかって聞いたから。本気で浮気を疑ってないんかないだろうけど、自分じゃなくてひかりさんを目的にされたのがご不満みたい。

 拗ねてる様子は可愛いけど、それを眺めに来たんじゃない。あたしは拗ねるゆめの手を取るとニコニコとするひかりさんに熱を込めながら真剣な瞳で見つめた。

 一度目を閉じて、すぅ、っと深く息を吸う。

 一瞬呼吸を止めてこれから吐き出そうとする言葉に力を込め、

 

「ゆめのこと、あたしにください」

 

 あたしの気持ちをひかりさんに伝えた。

「っふぁ!!?」

 驚いたのはゆめの方。握った手からほっぺまで真っ赤にしながらあたしの二度目のプロポーズに動揺してる。

 対してひかりさん

「……………」

 怒っているようにも喜んでいるようにも悲しんでいるようにも見え、それでいてそのどれでもないような不思議な顔をしてあたしを見つめていた。

「あたしはゆめのことを愛しています。世界中の誰より、ひかりさんよりもゆめのことを想ってるって自信がある」

 あたしはひるまずにゆめへの愛を説く。もし、ひかりさんがあたしの想像とは全然違う人で盲目的にゆめを愛するだけの人なら刺されたりするかもしれないけど、そうだとしてもこの気持ちを譲るわけにはいかない。

「これから先……一生ゆめのことを愛していきたいし、手を取り合って歩いていきたい。ゆめと一緒に幸せになりたい、いいえ、なります!」

 将来のことなんて誰にもわからない。けれど、あたしはそれが必然であるかのように断言した。

「だから、ゆめのことをあたしにください」

 もう一度、最初と同じ言葉でプロポーズをしめる。

「……彩音」

 ゆめは驚きつつも喜びを抑えられないような声であたしを呼び、秋波を送ってくる。

 それに応えてキスをしたいところだけどそれは後にしておくとして、再びひかりさんに視線を戻した。

「……………」

 ひかりさんはいまだ沈黙を保ったままで、印象的な瞳であたしを見つめている。

 水晶のように澄んだ瞳が不思議な光を称えている。吸い込まれてしまいそうな心地でそれについ見惚れてしまっていると……

「………その誓いにどんな意味があるのかしら?」

 ピンと張りつめた声があたしに向かって投げかけられた。

「ここで私にそれを誓ったところでどんな意味があるの? ゆめちゃんのことを幸せにできる保障が彩音ちゃんにはある?」

 そんなものは………

「ありません」

「そうよね。貴女はまだまだ子供でこれから先ゆめちゃんに対して責任を持つなんて断言できないわよね」

「はい」

「今の気持ちが一瞬じゃないって言える? 気持ちなんて今、この時だけのことかもしれない。今私に宣言した言葉がもしかしたら貴女やゆめちゃんを縛るかもしれない。そういうことが彩音ちゃんにはわかっている?」

 冷静な意見。場の雰囲気に流されることなく、見据えなければいけないことをきちんと見据えた大人の目。

 多分ひかりさんの言っていることは正しいんだろう。

 けど

(それが、どうした!)

「先のことなんてわからない。そんなのどんな道を選んだって一緒です。これが幸せになる道だなんて歩いてみなくちゃわからない。わからないけど、その道をゆめと歩いていきたいんです。ううん、違う、ゆめと歩く道があたしには幸せの道」

「……それは、彩音ちゃんが勝手に思っていることじゃないの?」

「……違う!」

 そう姉の言葉を遮ったのはゆめ。あたしの手を握り返してひかりさんにらしくない意志のこもった瞳を向けている。

「私だって彩音と一緒にいるのが幸せ。先の事なんてわからなくても彩音がいればいい。彩音がいてくれなきゃやだ。私だって、彩音のこと……愛してるから」

 心に灯った熱い想いをゆめはひかりさんにぶつけている。

 想像だけど、それはゆめとひかりさんが今の関係になってからは初めての事なんじゃないかと思う。ひかりさんに対して本当の感情を露わにするのは、少なくてもあたしが見る中じゃそうだ。

「…………………」

 再びの沈黙。

「…………そう」

 つぶやく言葉はどこか重く心にずんと響いた。

「なら、誓って」

 そして、朗らかな笑み。

『え?』

 二人してその意味を取りかねているとひかりさんは

「ここで私に誓って見せて、貴女たちの愛をね。私が立ち会ってあげるから」

 女神のように微笑んで見せた。

 そこであたしたちも理解をする。

 この人はやっぱり、ゆめのお姉さんでこの時をずっと待っていたんだって。

 だからあたしたちは

「ゆめ」

「……彩音」

 互い名前を呼びながら見つめあう。

「あたしはゆめのことを愛していくよ。これからずっと。だから、あたしと一緒にいて欲しい」

 もしかしたら同じようなことは何度も伝えてきたかもしれない。

 けど、ここで。ひかりさんの前で誓うというのはこれまでとは違う意味を持つ気がする。初めてあたしたち以外の人に伝えるっていうことだから。

「……うん。私もどんな時でも彩音と一緒にいたい。彩音と一緒に幸せになる」

 二人で愛を誓い合う。

 見つめあう瞳に情熱を宿し、頬を歓喜に染め、胸の裡には伝えきれないほどの愛を持つ。

「愛してるよ、ゆめ」

「彩音……愛してる」

 互いの瞳に相手を映しあたしたちはこれからも言葉と行動で幾度となく伝えていく気持ちを言葉にした。

 そして、相手を求めずにいられなくなり自然とあたしたちは指を絡め、引き合うように体を寄せ、互いの距離を縮めていく………

「ゆめ……」

「彩音……」

 愛しい名を呼びあいあたしたちの唇がかなさ

「だ、だめ!」

 キスをしかけたところでいきなりゆめの温もりが手から消えた。

「…………あの、ひかりさん?」

 少しあきれながらあたしはゆめを抱えるようにして抱くひかりさんに怪訝な顔をする。

「き、キスなんてまだゆめちゃんには早いの!」

(えー……)

 いや、普通にここで愛を誓えっていうのはそういうことでしょ。むしろキスは当然の流れでしょ。あたしとしては結婚式のつもりだったんだし。

「……離せ」

「ダメ、やっぱり彩音ちゃんはゆめちゃんの体が目的なんだよ。ゆめちゃんを幸せにするのは私なんだから」

「……………」

 これが本音なのか冗談なのかは、または冗談でもあって本音なのかはわからないけど、あたしとしてはもう「あたしのもの」になったゆめをたとえ姉であるひかりさんにだろうと譲る気なんてなく、すばやくゆめを奪い返すと

「あっーーー」

 なんて声を上げるひかりさんの前でゆめの唇を奪うのだった。

ゆめとひかり3/ゆめとひかり おまけ

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