(しかしあたしは何してるのかな)

 初対面の女の子のお家にお邪魔してお風呂を借りて、お母さんのだという着替えまで用意してもらっちゃって。

 お風呂場でシャワーを借りたあたしは着替えをしながら、今のなんとも言えない状況を思う。

 元々着てた服は洗濯と乾燥機をしてるところなので、ひとまずはそれが終わるまではいることになるんだろうけど、ここまで来たら親御さんに挨拶した方がいいかな。

 でも、ほんと下手すると警察呼ばれかねない事態だから難しいところだ。

 なんてことを考えながら脱衣所を出ると、最初に通されたリビングへとやって来る。

「なずなちゃん、お風呂と着替えありがとうね」

 長方形のテーブルの前にちょこんと座る少女に声をかける。

 なずな。それがこの女の子の名前。この家に着いたときに自己紹介をして名前を聞いている。

「……どうい、たしまして」

 最初のイメージ通り内気な子みたいであたしが隣に座るともじもじとあたしに告げる。

(可愛いなぁ)

 反射的に頭を撫でてあげたいとも思うけど、さすがに初対面でそんなことするわけにも行かず、視線をテーブルへと移すと

「宿題、かな?」

「うん」

 学校から帰ってすぐに宿題をするなんて感心なことだなぁと何気なく広げた問題集を眺めてみる。

 算数の宿題みたいだけど

(結構間違ってるな)

 ここで偉そうに指摘するのも厚かましい気はするけど……言わないと後でこまるのもなずなちゃんだしな。

「ねぇ、なずなちゃん。よかったら宿題見てあげようか?」

「いいの?」

「何もお礼しないわけには行かないしね」

「ありがとう、彩音お姉ちゃん」

 純粋な笑顔を見せてくれるなずなちゃん。

 この辺りはゆめと違うななんて失礼なことを思いながらあたしは隣に体を寄せると、なずなちゃんの宿題を見ていくことになった。

 問題集を覗いた時には間違いも多くて、申し訳ないけどあんまり勉強が得意じゃないのかなと思ったけど教えてみると意外にも理解は早く、小学生の宿題ということで量もそれほどじゃなく一時間と経たないうちに一通りすませてしまう。

(……にしても)

 この家に着いたのが四時頃で、お風呂やら宿題を見てあげるのやらで一時間と少し。

 外はかなり暗く、時計はもう六時を回ろうとしている。

 聞けば小学校四年生(の割には小柄だが)らしいけど十歳にも満たない少女を一人残しておくのはあまりよろしくないことだ。

「ねぇ、なずなちゃん。お家に誰もいないって言ったけど、お母さんはいつ帰って来るのかな」

「今日は遅い日だから、八時くらい」

「……八時、ね」

 特に意味もなく壁時計を見ながら思うけど、小学生の女の子を一人残しておくにはちょっと遅い時間だ。

「えーと、それじゃ、ご飯とかどうするの?」

「? お姉ちゃんお腹空いたの?」

「いやいや、そうじゃなくて八時まで何も食べなかったらなずなちゃんがお腹空いちゃうでしょ。だからどうしてるのかなって」

「冷凍のやつとかお母さんが朝作ってくれたりするの」

「そっか……」

 用意されているのは一安心ではあるけど、こんな小さくてかわいい子が一人で食事を取るところというのは想像だけでも気分のいいものじゃない。

(……それを一時だけ解消しても仕方のないことではあるだろうけど)

 でも知っちゃったら放っておくなんてできないよね。

 八時となれば乾燥機を待っても、お母さんが帰って来る退散できるだろう。面倒なことになる前に居なくなる方が正解かもしれない。

 ただ……

「?」

 あたしを見上げる純粋な少女のことをじっと見つめる。

 この心優しく、少し危なっかしい女の子を一人残したくないと思う自分がいる。

「ねぇ、今日はあたしも一緒に食べてもいいかな」

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