「ん、ちゅ……ぷぁ…あ…ん」

「んふふ、ちゅ…くちゅ…ちゅぷ」

 熱く湿った舌があたしの中をはいずりまわる。

「ぁ…ん、ぴちゅ、ちゅ」

 パジャマを握り締められ、体同士が密着した独特の湿った熱を感じる。

「ん、は、み、さき……ちょ、ちょっと」

 ゆめのベッドの隣にある布団で美咲にキスをさせられていたあたしは、息苦しくなってきたところでなんとか美咲から逃れて距離をとろうとした。

「っ……」

 けど、美咲はあたしのパジャマをしっかりとつかんでいてそれすら許してくれない。

「何よ。私の言うこと聞くって約束でしょ」

 暗闇の中にうっすらと浮かぶ美咲の表情は基本的には楽しんでいるんだろうけど、どこかそれ以外の感情もあるようで、少なくてもあたしのことを解放してくれる雰囲気じゃなかった。

「い、いやそりゃ聞くって言った、けど……こんな」

 ゆめとのお風呂から数時間。

 ゆめは美咲に奪還されて、お風呂からたたき出されたあたしは、少しして先に戻ってきた美咲にそんな約束をさせられた。

 その後戻ってきたゆめは別に不機嫌ではなさそうで、あたしを見ると恥ずかしそうに目をそらすくらいだった。

 寝るまでの数時間でゆめは完全にいつもどおりってわけじゃなかったけど、ゆめはなんつか、【彩音だからしょうがない】って言う雰囲気で、今はベッドの上で静かな寝息を立てている。

 で、美咲は

「……ん、ちゅ…ぷ、く…チュ」

 これ。

 何事もなく寝ようとしていたあたしの布団にもぐりこんできた美咲は、

「好きにさせてもらうわよ」

 といきなりキスをしてきた。

「ちゅぴ、ん、ちゅ、ぷ……ん、はっ…は、ぷぁ…ん」

 あたしはどうにか美咲の体をつかんで体を引く。

「だ、だからって、ゆ、ゆめが寝てるんだ、から……せめて、帰ってからに……っ!?

「ん、っ…」

 ぐいっと体を引かれ、唇を押し付けられる。

「はぁ……だめよ。ゆめに気づかれたくないって思うんなら静かにすることね。ん……」

「ふぁ…ん、ちゅ…く、ん…は、ぁん…くちゅ」

 また体が引き寄せられて、美咲の舌があたしの中に入ってくる。

 あたしは、一応の抵抗をしようとするけど、美咲の舌が入ってる状態でそれをしてもそれはただ舌を絡ませあうだけで……。

(や…、あたま、ぼーっとする……)

 もうどれだけしてるかわからないくらいキスをされてる。

 時計を見てたわけじゃないからわからないけど、気分的にはもう一時間も二時間もキスしてるって感じ。

「ふ、ぅ……あむっ……んっ、ふっ……」

 二人からもれるくぐもった声とも吐息とも取れない音。美咲のキスはすっごく情熱的で、普段のときにたまにするような遊びのキスじゃない。

「ん、は…ふぅ…ん…ちゅ」

 でも、何度も、何度もしたことはあるキス。

(……っ!!?

 不意に泡とも、液体ともいえないものが流れ込んできてあたしは目を見開くけど、それが何かはすぐにわかった。

 美咲の唾液だ。舌の上からあたしの口腔へと入ってくる。

(……これ、は……)

「んく……ん」

 美咲が何を求めているかなんとなく察して、あたしはそれを喉に通していく。

「はぁ…はぁ……ん」

「んふふふ、可愛いわよ、彩音……ん、ぺろ」

 あたしが飲んだっていうのが満足だったのか、美咲はいったんあたしを解放するとあたしの口周りにあふれた自分の唾液をなめ取っていく。

「み、さき……」

 何のつもりかはわからないただあたしは、美咲の名前を呼んで見つめあう。

(ど、どこまで、するつもり、だろ……)

 鼓動が激しくなって、どきどきしてるって主張してくる中あたしはそんなことを思う。

 だ、だってこんなキスをして、じゃあおしまいなんて今の美咲が言ってくるとは到底思えないし。

 だ、だからってゆめが隣で寝てるのに、これ以上、なんて……

「彩音……」

「あ、美咲……」

 美咲の甘い声があたしを呼ぶ。

 そして、

「んっ……」

 美咲の手があたしの腰に触れてまたぐっと引き寄せられた。

 それから

「あ……」

 パジャマのしたのお腹に直接手が触れ、それが徐々に上へと上がってくる。

「彩音……」

「美咲……」

 肋骨の一番下に触れたくらいのところで美咲はあたしを潤んだ瞳で見つめてきた。

 あたしは胸の前できゅっとこぶしを作ると

 コクン

 とうなづいていた。

「ふふ……」

 美咲は嬉しそうに口元に笑みを浮かべて、またあたしにせまってくる。

 あたしは無言で瞳を閉じて

「……………」

「……………」

「……………?」

 何もやってこない。

「……………???」

 瞳を閉じたまっくらな世界の中で、腰とお腹に当てられた美咲の手のぬくもりは感じても予想していたさっきまで何度も何度もしてきたキスはやってこなかった。

「…………?」

 恐る恐る目を開けてみると、

「ふふふ」

 美咲の愉快そうな笑顔があった。

「何されると思ったのかしら?」

「え、な、何って……その」

 え……だ、だって美咲は、その……えと

「ゆめが寝てるってのになに考えてたのかしら?」

「え、いや……あの、…ち、が……えと」

「……まぁ、それなりに満足したからいいわよ」

「な、なに、いきなり、さっきまであんな……」

 とてもやめる雰囲気じゃなかったじゃん。なのにいきなりこんな風にされるほうが予想外だし、い、いやそりゃ、もちろんあたしとしてはその、ゆめの前でなんて…あ、い、いやさっきうなづいたのは違くて……

「さっさと寝なさい」

 あたしがてんぱってる間にも美咲は腰からも胸からも手を引いていつの間にか、自分の布団に戻っていっていた。

「あ、ちょ、み、美咲」

「おやすみ」

「あ、うん……おや、すみ」

 まったく釈然としないまま美咲はあたしに背を向けたまま一言も発しなくなってしまった。

 あたしはいつまでも胸のどきどきが納まらず火照った体のまま眠れない夜をすごすのだった。

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