まずいことをしたっていうのはすぐに思った。

 琴子の前から逃げるように去って、家に帰りつくころにはすでに後悔していた。

 あんな言い方をして琴子が傷ついたんじゃないかとか、嫌な子だと思われていないかだとか、あの二人と琴子はどこまで仲がいいんだろうとか、嫌なことばかりを考えちゃうから。

 部屋に戻ったあたしは着替えることもせずにベッドにうつ伏せになって嫌な自分に落ち込んで、琴子がくれたメールを呼んで、さらに落ち込んだ。

 それは別に大した内容じゃない。琴子はあたしを怒らせたと思い込んだようで、ごめんなさいという文だった。

 何も悪くないのに、謝らせて、しかも気にするなという返信すらできなかった。

 どうしてもあの二人のことがちらついて、あの二人と一緒にいる琴子のことがちらついてそのたびに泣きたくなったから。

 そのまま一夜を過ごして、落ち込んでても義務感が学校に来て。

(っ……)

 さっそく不機嫌になる。

 校門をくぐったところで目に入ったのは、件の【由香ちゃん】と【理沙ちゃん】だった。相変わらずいつも一緒であたしの大分前を歩く。

 無意識に奥歯を噛みしめたけど、本当はあの二人こそ悪くない。琴子があたしに内緒であの二人と遊んだことは、それがどんなに理不尽な文句だとしても、琴子のせいだと言える。

 あの二人はあたしに何か含むものがあって琴子を誘ったわけじゃないはずだ。それに、何度も言い聞かせるけどそれは【琴子】にとっては悪いことではないはず。

 【琴子】にとっては。

「あ………」

 朝からもやもやとしたものを抱えながら二人の背中しか見ていなかったあたしは、今考えていた相手が二人のさらに前にいることに気づいて、自然と琴子に目を奪われる。

 すると、琴子は丁度あたしの視線を感じたかのように振り返って

(…………………………)

 同じく琴子に気づいた二人と話しを始めた。

「………………………」

 別におかしくはない。琴子の位置からはあたしが見えづらいだろうし、近くにいる二人のことが先に目に入るも当然。

 あたしが無視をされたわけじゃない。

 琴子にとっての一番があたしじゃなくなってるわけじゃない。それは、事実のはず。

 今のはたまたまあたしが目に入らなかっただけで、あの二人のことを取ったわけじゃない。

 でも、あの二人と一緒に遊んだりもしてて………

(くそっ!)

 嫌なことばかりを考えるあたしはそんな自分がまた嫌でたまらなくて心で悪態をつく。

 だけど、嫌なことしか考えられないけどそれでもあたしは琴子から目が離せない。

(……あたしは琴子の親友……)

 琴子のことはなんでもわかるし、琴子だってあたしのことを何でもわかってくれる。一緒にいるだけで心地いい。たとえ何にも話すことがなくたって、一緒いる、それだけで嬉しくなれた。

 去年なんか本当にずっと一緒で、琴子があたしの隣からいなくなるなんて考えられなかった。

 もちろん、進級すればクラス替えがあるのはわかってた。でも、運命の赤い糸じゃないけど、なんとなく琴子とは一緒にいられるんじゃないかっていう根拠もない自信があって、でもそれは見事に打ち砕かれた。

 ショックが大きかったのは絶対に琴子だ。

 なんせ琴子はあたし以外にまともに友だちもいない。本当に一人になるんじゃないかっていう孤独感に襲われたはず。

 ショックなのはあたしも同じだったけど、琴子がショックを受けてる手前あたしは大丈夫だっていうふりをした。

 いつでもあたしがいるから。

 なんでも話して。

 琴子と一緒だから。

 そんなつまらないことばっかりを言ってきた。

 現実にいつも一緒にいるなんてことできるわけはなくて、琴子と一緒の時間は当たり前に減っていた。

 そのせいだって言いたい。

 あたしと一緒じゃなかったからだって言いたい。

 あの二人と仲良くなったのは。

 そうやって自分を納得させなきゃいけないほど琴子はこのところのあの二人との姿が自然に見える。

 あの二人が琴子と友だちになったことそれを嬉しく思ったのは本当だ。琴子にとってあたし以外の友だちがいたほうがいいのも当たり前。

 ………琴子にとっては絶対に。

 あの二人がどういうつもりで琴子と仲良くしているかなんて知らない。

 いや、つもりなんてなくているのが自然に思えているのかもしれない。

 去年まであたしが琴子に思っていたように。

「………………」

 前を歩く三人の姿を見つめる。

 遠く、あまりに遠く感じるこの距離。近いはずなのに、クラスの壁はあたしの想像した以上に大きすぎる。

(………琴子)

 笑顔の琴子と。あたしのいない場所で笑う琴子。

 あたしは、琴子の親友だ。一番の親友だ。

 それは、間違いない。

 まだ、間違いないって言える。

(で………も………)

 明日は?

 一週間後は?

 一か月後は?

 一年後は?

 その時、あたしは琴子の親友だって言えるの? たった数ヶ月でこんなことになっているのに、琴子の未来にあたしは、いるの?

 ……あたしが琴子の一番でいられる。

 そんな保証は…………

 どこにも、ないんだ。

 

 

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