「んっ……」

 佳奈のキスは大体、一度目は軽く唇を触れ合わせるだけのキス。

 美愛のそばによってきた佳奈は美愛を優しくつかみ、目を閉じるとさっきまでケーキを食べていたその口を美愛に近づけてためらいもなく口付けをした。

「はぁ」

 唇を離すと熱っぽい吐息が美愛の頬に当たる。

 脅されて始まった関係の割には美愛は抵抗をしない。大抵は佳奈のしたいように佳奈を受け入れていた。

もっとも、脅されたからしないのか自分でもよくわからなくなってしまっている。

「ねぇ、美愛さん」

「な、なに?」

 体を密着させたまま佳奈は頬を染めながら上目遣いに美愛をみた。

「姉さんとするのと、私とするのどっちが好きですか?」

「っ!!??」

 唐突すぎる質問に美愛は答えようもなく佳奈から目をそむけた。

「そ、そんなの……」

 正直に言ってしまえば、愛歌だろう。今の関係をよく思っていなくとも、愛歌のことを好きということは事実なのだから。

 だが、それを伝えるのはできることではない。気に障って愛歌にばらされたら……と一度でも頭をよぎってしまえば正直に答えることなどできはしない。

「ふふ、そうですよね。答えられないですよね」

 しかし佳奈はそんなことをわかりながら美愛をからかっているようだった。

「そうだ、美愛さんケーキ嫌いじゃないんですよね?」

 佳奈は体はそのままに、顔だけをテーブルのまだほとんど残っている美愛のケーキを見ると、改めて少し前の疑問を聞きなおす。

「え、えぇ」

「姉さんとこういうこと、したことあります?」

「え……?」

 佳奈はフォークを使いケーキのクリームをすくうとそれを口いっぱいにほおばった。

 そして、

「か、な、ちゃ、んッ!?

 クリームを含んだまま美愛に二回目の口付けをしてきた。

ちゅぶ、クチュちゅぷ

 すぐに佳奈によって口の中にクリームの甘さが広がっていく。ふわふわとしたとろけるようなクリームと一緒に佳奈の舌が美愛の中を犯していく。

「あむ、ふぅ、ん、む。ちゅく、じゅる」

 クリームまみれの舌を舌に押し付けられたり、歯の裏側を舐められたり、あまりのことに美愛はなすすべなくされるがままになる。

「あふっ……、ん。んくっ、んく……んは、あ」

 時には器用にまとめられたクリームを喉のほうに押しやられ耐え切れず喉を鳴らしていく。

「はぁ、あ、ほらぁ、美愛さんからも」

 佳奈の中にあったクリームが少なくなると一度唇を離して、今口の中にあるクリームよりも甘い蕩けた声を出す佳奈。

「あ、はぁ、は、あ、うん」

 ねっとりとしたなまめかしいキスのせいか、こうなった以上佳奈に逆らおうとする意思が働かないのか、それとももはや佳奈との行為を受け入れてしまっている自分がいて初めから逆らおうとすらしないのか、美愛はうなづくと佳奈がしたようにフォークでクリームを取ると同じように口に含んで、迷わず佳奈に三回目のキスをする。

「んむ、あふ、あ、ちゅぷ、チュく。かな、ちゃん、あむぅ……ふぅ、ん、はあ」

 自分がされたのと同じように口の中にあるクリームを舌をうまくつかって佳奈の中に押しやっていく。

 クリームと一緒に佳奈の舌を、頬の内側を、佳奈の中をねぶり、吸い、佳奈のすべてを自分で満たしているかのような信じられないくらいに甘いキス。

「はあ、ん、んはぁ…くにゅ……ちゅ、にゅぷ……」

 それをさせているのはおそらく佳奈にしろといわれたからだけじゃないのかもしれない。

 お互い、絡めあう舌はクリームでデコレーションされ唇はキスとクリームでテラテラ妖しく光り、端からはわずかにあふれている淫靡な光景。

 そんなことなどお構いなしに美愛は佳奈からの求めに答える。

(こんなの、いけないのに……)

 いつも佳奈とするとき思う。いけないこと、愛歌と好きあっていながらその妹である佳奈と隠れてこんなことをしている。

 いけないとわかっていながらそれをとめられない。

 いつのまにか美愛は背徳感を感じながらも佳奈の体温をもっと身近に感じたくなり抱きしめてしまっていた。

「はぁ、ん、はあ…かな、ちゃん、ふあ…ああん」

「ふ、ふふ、美愛さん、あむ、可愛い……」

 キスの終わりを決めるのはほとんど佳奈で、今回は中のクリームが少なくなってくるとあっさりと体を離した。

 しかし、それだけで終わらないのは経験でわかっている。

「ふふふ、ほぁら、美愛さん、あーん」

 佳奈は自分と美愛からあふれたクリームを指で掬うとそれをそのまま美愛の口元に差し出してきた。

「はぁ、はぁ、はむ……」

 まだ息を整えている最中だった美愛はそれでも差し出された指をためらいながらもくわえた。

「あむ…れろ、んっ、ちゅ、っぷ」

 細い指先に満遍なく舌を這わせて、クリームをなめ取っていく。

「ん、んん。あは、美愛さんて、ほんとに可愛いですね」

 独特のくすぐったさに笑みを浮かべながら佳奈は美愛を見つめる。そこには単なる好きな相手にこんなことをさせているという愉悦とはまた別の悦びが浮かんでいるが、美愛はそれに気づかない。

「ありがとうございました美愛さん。ん、ちゅる」

 ある程度たつと指を引き抜き佳奈はそれを軽く口に含めた。

「はぁ…あ、は、はぁ」

 美愛は今度こそ息を整える。

「ね、美愛さん、今日姉さんとしたのとどっちがよかったですか?」

 頬が上気し余韻に陶然とした美愛を現実に戻す問いかけ。

 これ、だ。

 佳奈は何かにつけて愛歌と自分を比べたがる。何回キスしたか、どんなことをしたか、どっちがいいか。

 佳奈の狂気のほとんどはここに集約する。とにかく愛歌のこととなると佳奈は目の色を変えた。

「………………」

 それでも美愛は答えられない。頬を染め、なぜか潤んでいる瞳を伏せるだけ。

「あ、よく考えたらまだキスは三回だけですよね」

「っ……」

「少なくても四回はしないとなぁ。どうしようかな?」

 子供がなにして遊ぼうかな? と考えているように純粋な様子を見せる。そこにはこんなことへの罪悪感は感じられない。ただ、本当に子供が遊びをするみたいに楽しそうな笑顔をしているだけ。

(……佳奈、ちゃん。なにが、したいの?)

 好きといわれてはいる。しかし、普段の様子はともかくむしろ、こうした好意がなければできないことをするときにはただ遊んでいるようにしか見えない。

 好きというのはただ遊ぶため方便な気すらしてくる。

「んー、と。じゃ、ちょっと口の中がクリームで気持ち悪いし綺麗にしてもらおうかな?」

 しかし、佳奈の思惑がなんであろうと【愛歌】という脅しがある以上従わざるを得ない。それがさらなる脅しにつながることをわかっていてもうそにはうそを重ね続けなければいけないように美愛は佳奈に従い続けるしかなかった。

「お願いします、美愛さん」

「……こく」

 美愛は佳奈が何をしろといっているのかを察して黙ってうなづいて、再び佳奈に身を寄せた。

「んん……」

 そして、そのままキスをする。

「ん、ちゅく、じゅぷ…ふあ、ぁ…んあむ」

 舌の上も下も、歯の表も裏も、やわらかい頬の内側も、ぶよぶよとした喉のほうまで美愛は佳奈の口蓋に残さず蛇のように舌を這わせていく。

「んむ、はああ、ん、じゅぶ、ちゅぷ」

冷静になるまでもなくクリームで気持ち悪いのを綺麗にするのに同じようにクリームまみれの美愛がいくら舌でなめとろうとそれほど意味はないことだが、あんなものただの理由付けにすぎない。

 用はただ、いわれたとおりにすればいいだけ。

 唾液までも甘い佳奈の中。キスのせいか熱がこもり、甘さと熱で溶けてしまいそうだ。

 さらには、舌を絡ませあうのとは別の感覚。ざらついた舌の表面に同じく舌を這わせたり、喉へと続く熱く、やわらかい粘膜に触れるのもされるだけや、お互いにするのではあまり感じられない感触で美愛の体を熱くさせた。

「ん、っぷ、はぁ……じゅぶ、じゅく、ちゅ」

(こんなの、愛歌とはしたことない……)

 愛歌にはほとんど、されるかもしくは互いにするかだ。一方的に愛歌を攻めるというのは【初めて】くらいだった。

「ぅは、ああ…あむ、ちゅく…んむっ……あ……?」

 一心に佳奈にいわれたことに答えようとしていた美愛だったが、終わりは突然に訪れる。

 されるがままだった佳奈が急に頭を引いて、美愛が追いかけるもなく二人の距離が離れていった。

「あ………」

 二人が離れるとクリームのせいで白く染まった二人の粘液が唇と唇をつなぐ糸のように引き、やがて重力にしたがって落ちていく。

「ふふふ」

 佳奈はそれが床へと落ちる前に手のひらに乗せて、

ぺろ

 と、ゆっくりとまるで美愛に見せ付けるように手のひらにのった二人の唾液が混ざったしずくをなめた。

「……ゴクン」

 あまりにも挑発的なしぐさに思わず美愛は生唾を飲み込んでしまう。

 そして、そんな姿を佳奈が見落とすわけもなかった。

「どうしたんですか? ほしかったんですか?」

「そ、そんなことっ……」

 あるわけないと否定したいのにそれができない。

(そ、そう、できないだけ。しないんじゃない)

 普段はともかく今の佳奈には逆らえないのだから。

 だめだ、混乱してしまっている。どうかしている。

 佳奈のすること、させること、いうことがいちいち美愛を困惑させていた。ずっとこんな感じならまだいいが、このとき以外では【正常】で愛歌といるよりも心が休まってしまうという現実が余計に佳奈のことをわからなくさせている。

「今度は美愛さんにあげますから安心してくださいね」

 またあの小悪魔の笑顔を見せ付けられ、佳奈が何を考えているのだろうという思いを深めるのだった。

 

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