「……………………望」

 最大の過ちを思い返していた沙羅は心からの後悔して好きな人の名前を呼ぶ。

 その過ち、望を襲おうとした日から眠れぬ夜を過ごす沙羅はこの日も当然のように涙で枕を濡らしていた。

(わかってた、のに……)

 拒絶されるなんてわかりきっていた。いきなりあんなことをすれば拒絶されるに決まっている。もし、万が一、恋人として好きでいられたとしてもいきなりあんなことをすれば拒絶される。

 そんなことはわかりきっていた。

 想像だってしていた。覚悟だってしていた。

 拒絶されても、たとえ泣き叫ばれようとも、そんなものに目を瞑り望に欲望のすべてを吐き出すつもりだった。

 あそこで玲が来ようが来まいが、きっと途中で耐えられなくなっていた。好きな人に拒絶されながら、あんなことなどできるはずがない。

 しかし、玲さえ来なければ……いや、無理にでも望を家に連れ込んでしまい、欲望を満たしていれば、ちゃんと嫌われられたかもしれない。

(…………何、考えてるんだろう)

 頭の中では矛盾した考えばかりがのたうちまわる。

(……そんなの、嫌)

 嫌われていたほうが楽だったと思う自分がいる反面、嫌われたら生きていけないと思う自分もいる。

 しかし、嫌われたかった。

 あんな風に望に向かってこられるくらいなら嫌われてしまいたかった。

 そうすれば、わずかでも希望を持つ自分なんて自覚しないですんだのに。

(玲さえ、来なければ……こんなこと思わなかったの……?)

 中途半端に止まることなく、きちんと望を……

(……望を、望に……)

 頭で考えることすら罪にしか思えないことをよぎらせた沙羅は胸が締め付けられるような感じにまた涙を溢れさせる。

 自分の欲望を吐き出せないまま望に中途半端に嫌われてしまった。

 それが沙羅を追い込んでいる。

 だが、仮に望にしてしまえていれば。望を、世界で一番好きな人を傷つけていた。その罪悪感は想像を絶するものだろう。

 嫌われたい。

 嫌われて楽になりたい。

 しかし、嫌われたら生きていけない。

 好きのすれ違いはここまで人を追い込むのだということをどこか遠くに感じながら沙羅は一切希望の見えない闇の中で泣き続けるのだった。

 

 

3/七話

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