会う用事っていうのは映画。この前美咲の両親から割引券をもらったので、ゆめと三人で行こうと誘っておいた。映画っていうよりは三人でどこかに行くのが目的だけど。
ゆめってほとんど趣味ないし、ウインドウショッピングは疲れるからやだっていうし結局どっちかの部屋でだらだらすることが多いから、たまにはこうして目的を持って外でデートしたりする。
「……遅いわね」
「うん」
駅前の自転車置き場の前でゆめを待っていたあたしたちはゆめが来るであろう方向を見つめてどちらともなくそうもらす。
実は待ち合わせ時間にはまだあるのだけど、ゆめは十時といえば、遅くてもその十分前には来ている。なのにもう五分前になろうというのにゆめの姿はなかった。
休日の駅前でそれなりに人はいるけど、ゆめの姿を見過ごすなんてことはありえない。
ブブブ。
「っと、メールだ」
時間を確認しようと見ていた携帯が急に振動してメールが届く。
「あ、ゆめだ」
「ゆめ?」
「うん、えっと……」
メールを開くとあたしは顔をしかめる。
そこには、一言。
ごめん、いかない。
とだけ書いてあった。
「ゆめ、なんだって?」
聞いてくる美咲にあたしは携帯ごと手渡す。
「…………」
すると美咲もさっきのあたしと同じ表情をした。
「……………」
「……………」
また二人して首をかしげる。
「ったく、ゆめはどういうつもりなんだか」
「さぁ? でも昨日のことと関係あるんじゃないの?」
「昨日のメールじゃ行くっていったくせにな」
「まぁ、とりあえず電話でもしてみれば?」
「そうしよっか」
あたしは、美咲から携帯を返してもらうとゆめに電話をしてみる。
馴染みの電子音を耳に受けながら、ゆめが出てくれるのを待ってると、
ぷつ、
「あ、ゆめ? 」
「………………」
「ゆめ?」
「…………………………」
「ゆめ〜?」
「……聞こえてる」
何度か呼んでもなぜか反応がなくてあたしは首をかしげていると三度目で反応があった。
「なら、早く反応してよ」
電話越しに聞くゆめの声はいつもとは違う感じだった。
「どしたの、今日? なんかあったの?」
「………なんでも、ない」
「いや、なんでもなくてドタキャンされると悲しいんだけど」
つか、なんでもないわけないでしょが。ゆめがあたしたちとのデートをすっぽかすなんて今まで一度もなかったんだから。
「……気にしないで、行っていい」
「いやいや、そういうわけにも行かないっしょ。どしたの?」
「……………………………風邪、引いた」
妙に長い沈黙のあとゆめはなぜか拗ねたような声でそういった。
「風邪?」
「……だから、気にしないで、いい。それじゃ」
ブツン。
「ちょ!? ゆめ!?」
あたしがまだちゃんと把握してなくて詳しく聞こうとした矢先にいきなりゆめは電話を切ってしまった。
「ったく、もう」
すぐさま、かけなおすと
「ったく、なんなのよ、もう! ……………でないし」
「彩音。ゆめ、どうしたの?」
今まで電話してたこともあって黙っていた美咲はどうやらゆめの様子が普通じゃないことを勘付いてあたしに問いかけてくるがこっちとしてもまともには答えられない。
「いや、なんか風邪とか言ってんだけど」
「風邪、ねぇ……昨日はなんともなさそうだったけど」
「だよね、つか、嘘だと思うけどさ、なんか言い訳っぽかっ……」
トゥルルル……ブツン。
「は!? 切られたよ」
美咲の声と電子音が聞こえていた耳に片方の音が消える。
「切られた?」
「うん……あ〜もう、なんだってのゆめは」
昨日から続く不可解なゆめの言動にあたしたちは首をひねる。
「………………しゃーない」
その沈黙をやぶったのはあたしだった。
「いこっか」
「そうね。少し残念だけど、比べるまでもないんだし」
あたしたちはゆめの真意はわからないままその場を後にした。