今日泊まって。
あの後そのままゆめの部屋で過ごしていたら、ゆめがそんなこといいだした。
あたしたちの想いが伝わって、嫉妬というか、疎外感は緩和されたのかもしれないけどそれが完全になくなるってのは不可能なことで今日くらいずっといたいって思ったのかもしれない。
もちろん、その提案にうなづくあたしたちだけどゆめは相変わらずの困ったちゃん。とにかく何でも三人でしようとした。
着替えやらなんやらをとりに行くのについてきたのはまだいい。わざわざご飯をゆめの部屋に運んで三人だけで食べたのもかまわない。
問題は
「……お風呂、一緒に入ろ」
これ。
夕飯を食べ終えて、部屋でだらだらとしていたあたしたちにゆめのお母さんがお風呂入っちゃいなさいとの言葉を受けて、そうしようと準備をしようとしてたところゆめがそんなことを言ってきた。
パジャマを抱いて、ちょっとだけ恥ずかしそうにするゆめ。
この可愛さにうなづきたくもなるけど、さすがにいろんな意味でうなづけない。
「ゆめ……気持ちはわかんないでもないんだけどさ、それはむりっしょ」
「……やだ?」
「やだとかじゃなくて、三人でお風呂なんてスペース的に無理でしょうが」
ゆめの家のお風呂は結構でっかい。だから、二人なら浴槽に入れないこともないけどさすがに三人は無理。
「じゃあ、ゆめ、私と入りましょ」
あたしがゆめをなだめていたらいきなり美咲が自分の用意を済ませてゆめの手を引こうとしていた。
「ちょ、ちょっとまちなよ。なんでそうなるの」
「だって、三人じゃ無理なんでしょ? 私とゆめの二人なら問題ないじゃない」
「そ、そうだけど……」
「ゆめ、私と二人でもいいわよね」
「……彩音も」
この期に及んでこの子は……まぁ、でもあたしもゆめを美咲に取られるくらいなら無理に三人のほうが……
「だから、無理なこと言わないの。ほら、いくわよ」
「……あぅ」
と、考えている間に美咲はゆめを連れ去っていった。
「あ、ちょ……ったく」
三人じゃ無理って言い続けた手前後からついていくのも気が引けてあたしは、ドアをしっかり閉めてテレビをつけた。そんな大声もださないだろうけど、二人のお風呂の声が聞こえてきたらやっぱり寂しいから。
「……………」
しばらく仏頂面でテレビを見てたあたしだったけど……
(っーー)
やっぱ、聞こえなきゃ聞こえないで何はなしてんのか気になる……
昼間ゆめがあんなこといったせいで逆にこっちが二人のとき何はなしてるのか気になるじゃん。どんなこと話してるんだろ、とか。あたしのこと話してるのかな、とか、話してるとしたらどんなことはなしてんだろ、とか。
これじゃ昼間のゆめ、そのまんま。というか、ゆめにえらそうにいえないじゃん……
ベッドにあがって頭を抱えながら何度も寝返りをうつあたし。
実に情けない。
しかも
「……あんた、何してんの?」
美咲に見られた。
いつの間にかお風呂から上がってきていた美咲が部屋に入ったところであたしを冷たい目で見てきていた。
「い、いや、ななんでも……」
何でもなくてこんなことしてるあたしは何だ……
「まぁ、いいわ。ゆめがお風呂こいって」
「え?」
「彩音とも入りたいんでしょ? いってあげなさいよ。今日くらいは二人きりで入っても許してあげる」
(……なんか微妙に意味深な言葉な気もするけど……)
「まぁ、いいか」
あたしはうなづくと用意を持ってお風呂に向かっていた。
ひとつずつ服を脱いでいって、脱衣かごに入れる。一糸纏わぬ姿になるとタオルを取って浴室へと続くドアに手をかける。
「ゆめ、はいるよ?」
あぅー、いまさらゆめに裸を見られてそこまで気にすることないはずだけどこれから入っていくというのはじろじろと見られてしまうというわけで……うーん、まぁ、今日はゆめのために動こう。
「……ぅん」
なんだか元気のない返事を聞きながらあたしは中へと入っていた。
白い壁に、薄い灰色の床。青に白を混ぜたような色の浴槽。
あたしはそこに踏み出すと、浴槽の中にいるゆめはすでにお風呂に入ってるせいか顔を赤くしてあたしを見上げてくる。
「……ゆめ、じっと見ないでよ」
「……別に、見てない」
「いや、みてんじゃん」
まぁ、狭い浴室で相手を見るなともいえないからあんまり突っ込まないでおこう。
あたしは仕方ないと思いながら体を洗うためにシャワーに手をかけると。
「……体、洗ったげる」
お姫様が突拍子もないことを言ってくる。
「はい?」
「……私がお姉ちゃんだから、洗ってあげる」
「意味わかんないんだけど……」
「……今日は、泊まるんだから私がおねえちゃん。お姉ちゃんは妹の面倒を見るもの」
「……何言ってんのあんたは……」
「……これは、お姉ちゃん命令」
なにその新ジャンルは……
ここで言い争っても寒いだけだし、無視すると後で怒るだろうし、今日くらいは【お姉ちゃん】の命令に従ってあげるべきなのかな。悪気はなかったとはいえ、ゆめのこと寂しがらせちゃったんだし。
「はいはい、よろしくお姉ちゃん」
あたしはあきらめて浴室にあるイスに座った。
すぐにゆめがお風呂から上がる音がして、ボディソープを出す音が聞こえてきて
ムニュ。
なぜか軽い衝撃とともに背中に微妙なやわらかさを感じた。
「ちょ、ゆめ!?」
首に手を回されて……あたってるな。このやわらかいほどやわらかくもなく、硬いというほどでもない微妙な感触は。
「こういうサービスは頼んでないんだけど……?」
ただゆめはそうしたまま何もしてこなく、しかも一言も発しない。
「ゆめ?」
不審に思ったあたしが首を回してみると
「……はぅー」
腑抜けた表情で顔を真っ赤にしたゆめの姿があった。