のぼせたゆめを介抱するのはなんともいえない気分だった。体中を火照らせた美少女ちゃんの体を拭いて、下着からパジャマまで服を着せるのは同年代がやるにしては刺激が強いというか、なんともいえない気分だった。
しかも、あたしはバスタオル姿だったし。
「ん……う、んん」
美咲にゆめを部屋まで運んでもらった後、あたしは軽くお風呂に入って後はゆめの看病。
濡れタオルで頭を冷やしてあげたり、汗を拭いてあげたり、今日ここに来たときはこんなことになるなんて微塵も思ってなかった。
「……ぁ…う…う、うん?」
あたしたちはベッド脇に二人で待機してゆめを見てたけど、ようやくゆめはその目を開けた。
「……はぅ……」
とろんとした風邪のときのような目であたしと美咲を交互に見る。
「おはよう、ゆめ」
「大丈夫?」
「……??」
ゆめは何を言われたかわかんないような顔をして寝ぼけ眼で中空を見つめる。
「……お風呂……」
「ん?」
「……お風呂、入ってた、はず」
「あたしといるとき倒れたの。ったく、無駄に長く入ってるからのぼせんの」
いいながらあたしは起きようとするゆめを支えてあげる。
明らかに幼くはかなさすら感じるゆめの体。
これでお姉ちゃんとか名乗るんだから。確かに誕生日が早いのは事実だけど。
「ゆめ、とりあえず何か冷たいものでも飲む?」
「……うん」
「じゃあ、私が取ってくるわ。さっき彩音がタオル取ってきたんだし」
美咲はそういうと部屋を出ていった。
「……そういえば……」
丁度美咲のいなくなったタイミングで思い出したようにゆめが呟く。
「なに?」
「……体、洗ってあげた?」
「ん、あぁえっと、……うん」
ここでしてないっていうと後々めんどそうだもん。
「……そう、だっけ?」
「し、したってば」
「……………」
ゆめは頭の中からその記憶を探そうとするけどない記憶を見つけられるはずもなく首をひねった。
「……でも、お風呂一緒に入ってない」
「ま、まぁ、それは後でね」
「……うん、約束」
そのときも【お姉ちゃん命令】はあるのかな……
「おまたせー」
そんな一抹の不安に駆られていると美咲が戻ってきた。
その後はまだ調子悪そうなゆめに気を使いながらのしばらくの雑談。
「さて、そろそろ寝る?」
「そうね、ゆめもあんまり長く起きてるのつらいでしょ?」
「……大丈夫」
「だーめ。さて、布団しいちゃおっか」
病み上がりでもないけど、倒れた人間をあんまり長く起こしておくわけにもいかない。あたしたちは押入れから布団を取り出そうとするけど、
「……三人で、寝る」
【お姉ちゃん】の我がままが始まる。
「あのさ、ゆめ。お風呂のときもいったけどスペース的にむりっしょ」
一人用のベッドに二人ならいざ知らず三人じゃいくらなんでもきついというか、落ちるって。
「……だめ、お姉ちゃん命令」
(……でたよ)
理不尽な命令だけど断わるとあとが面倒なので結構な強制力を持つ。
「……三人でくっつけば大丈夫」
「ふぅ、今日だけよ? いいわよね彩音」
美咲も命令を知ってるのか、あきらめた顔でお姉ちゃんに恭順の姿勢を見せた。
そしてあたしも二人で寝るっていうのを認めるのは面白くないわけだから。
「特別だかんね」
お姉ちゃんに従うしかないのだった。
ベッドに入って、はみ出さないように三人でくっついて、毛布と掛け布団をする。毛布と大好きな人のぬくもり感じあえば、どんな夜でもぬくぬく。
な、はずだった。
だけど、今あたしたち三人が感じているのは夜の寒さだった。
「……寒い」
あたしと美咲に挟まれているゆめが一番あったかいところにいるのに文句をもらす。
「寒い寒い言わないでよ。こっちなんて、三人で毛布使ってるから半分くらいはみ出てんだよ?」
今あたしたちは三人でベランダに出ていた。
ひとつの毛布に三人で包まって空を見上げている。
「……それでも、寒い」
「あたしたちがこうしてあっためてあげてるっていうのに、そんな冷たいこと言わないでよ」
「……嬉しいけど、寒いものは寒い」
「ったく、彩音が変なこと言うから………」
ゆめの左側にいる美咲もあたしと同じく半分近く体を毛布からはみ出させてあたしへの口撃をする。
「変なことだと思うなら一人で戻れば?」
「別に、嫌とは一言も言ってないわよ」
「……寒い」
今あたしたちがしてること。
それは、流れ星の見つけること。
寝ようといって三人でベッドには入ったけど、当然すぐ寝られるわけもなく、不意に美咲との夜のことが浮かんで、流れ星を見つけたくなった。
美咲と二人じゃなくて、美咲とゆめ、三人での思い出として。
流れ星を探そうといったあたしに、美咲はすぐに意図を察してくれたけどゆめはその様子にまた嫉妬を見せた。だけど、包み隠さず美咲との時のことを伝えて、ゆめともそういう時間がほしいというとゆめははにかんでうなづいてくれた。
あの時と違って、願いがあるわけじゃない。ただ、三人で幸せな時間を共有したかっただけ。
それでも、もし流れ星を見つけられたらあたしたちは同じようなことを願うと思う。
「あ……」
大切な相手の愛しい熱を感じながら星空を見つめるあたしたちは同時声を上げた。
キラリと、夜空を切り裂く一筋の流星。
未来にかかる光の橋。
そこにあたし、……あたしたちは一度だけ願いをこめた。
「……なんて、お願い、した?」
「さぁ? でも、二人ならわかるんじゃない?」
「そうね、じゃあせーので言ってみる?」
「……うん」
「おっけ」
「せーの」
一人一回の願い。だけど、それで十分。
あたしの足りない分は美咲とゆめが、美咲の足りない分はゆめとあたしが、ゆめの足りない分はあたしと美咲が唱えてくれているんだから。
『ずっと三人でいられますように』
きっとこの願いも叶う。
(ううん、かなえなくちゃ)
あたしはそう決意した瞬間、ゆめと繋いでいた手に力を感じてあたしも同じ気持ちで握り返した。
「そういえば、ゆめ」
「……何?」
「結局なんで私たちのこと呼ぶとき彩音のほうが先なの?」
「………………」
「やっぱり、彩音のほうが好きだから?」
「……………そんなことない」
「そんなことないって言われるのはそれはそれで悲しいんだけど……あ、じゃあゆめはあたしより美咲のほうが好きってこと?」
「そんなことない」
「あ、そう。で、結局なんでなの?」
「…………五十音順」
「…………あっそ」